第857話 集結!
ツバメの【斬鉄剣】によって斬り飛ばされた空の王は、その大きな翼を広げて神殿のガレキを吹き飛ばした。
残りHPは6割強。
「空に戻っていくわ……!」
再び空を舞い、咆哮と共に大量の羽を放つ。
今回は直接的な攻撃ではなく、雪のようにひらひらと舞い落ちてくる形だ。しかし。
一度空の王が翼を振るえば、巻き起こる嵐に羽が荒れ狂う。
「これは……っ! 【加速】【リブースト】!」
「【バンビステップ】【ラビットジャンプ】!」
嵐の中に、無数の刃が混ざるようなそのスキル。
吹きつける羽の嵐から、ツバメとメイは慌てて離れる。
すると今度は風を操り、まもりの方へ。
「【コンティニューガード】【地壁の盾】!」
激しい衝突音が響く中、まもりはしっかり羽刃の嵐を受ける。
通常の防御であれば、HPを削り続けるタイプの攻撃。
羽ばたき一つで風は向きを変え、今度はレンのもとへ羽刃の嵐を運ぶ。
「そうはいかないわ!」
レンはこれを【低空高速飛行】からの転がりで、かすめるにとどめた。
しかし舞い散る羽の中、見えたのは空の王の次撃モーション。
視界を塞ぐ羽によって、レンは気づくのが遅れた。
咆哮と共に放たれるのは、大型の十字空刃。
「きゃあっ!」
その速度はすさまじく、回避し切れなかったレンが背中を斬られて転がる。
一撃で3割を超えるダメージを受けたレンは、一気にHPが半分を切った。
ここで空の王は、レンに向けて降下を始める。
「【バンビステップ】!」
「【加速】!」
迎えたレンの窮地。
メイとツバメは走り出し、そこにまもりも続く。
滑空状態に入った空の王はそのまま、レンに向けて超加速。
しかしレンを攻撃することなく、まさかの急ブレーキ。
「あれっ!?」
「なっ!?」
「え、ええ!?」
攻撃の中止という予想外の展開に、驚く三人。
空の王は、その場で翼を広げて大回転。
巨大な翼による攻撃と共に、生まれた無数の空刃が付近一帯を切り刻む。
「あいたたっ!」
「くっ!」
メイが脚を斬られ、ツバメは肩を斬られて転がる。
「【誘導弾】【フレアストライク】!」
慌てて起き上がったレンがすぐさまフォローの炎砲弾を放つが、これを空の王は風の壁を起こして相殺。
反撃とばかりに広げた翼。
開いたクチバシに収束するのは、強烈な緑の輝き。
放つのは、得意の暴風弾だ。
「【かばう】!」
それを見てまもりは大急ぎでレンの防御に向かうが、空の王の狙いはメイだった。
「わああああああああ――――っ」
一瞬で視界から消える。
そんな勢いで吹き飛ばされたメイは神殿を一つ、また一つと突き破り、冗談のような跳ね方をして石柱に叩きつけられた。
衝突ダメージにもかかわらず、メイから3割近いダメージを奪い取る威力は恐ろしい。
「ツバメ! お願いできる!?」
「はいっ! 【疾風迅雷】【加速】!」
メイへの追撃を抑えるため、ツバメは走り出す。
すると空の王は、滑空からの急加速突撃に入った。
「【加速】【加速】!」
ツバメはこれを二度の高速移動でかわす。
すぐさま振り返ると、そこには空中で一回転して再接近してくる空の王。
スクリュー回転か、爪による切り裂き、もしくはつかみ投げ。
ギリギリまで集中しての見定め。
空の王が選んだのは、急制動から翼による回転撃だった。
「【加速】!」
ツバメはここで何と前へ。
「この場所なら、その技は当たりませんっ! 【スライディング】!」
飛びかう風刃の嵐は、唯一空の王の脚元には届かない。
「【フレアストライク】!」
すぐさまレンが続く炎砲弾を放ち、時間を稼ぐ。
すると空の王は翼を広げ、巻き起こした嵐でツバメと炎をまとめて吹き飛ばした。
「くっ!」
接近でも、遠距離でも。
その高い火力を見せつける空の王は、やはり大物だ。
「あいたたたた……」
だがこの展開は、メイにとっては好都合だった。
瓦礫となった神殿に驚きながら立ち上がり、状況を確認。
空の王の強さをあらためて確認して、「よしっ」と気合を入れる。
ここでメイは、流れを変えにいく。
「【蓄食】」
近くの石柱にそっと隠れて、一気に【腕力】上げのバナナを10個使用。
ステータスを上げる。
そしてピョンピョンと二度の小さな跳躍で、感覚を確かめると――。
「いきますっ!」
クラウチングスタートの姿勢から、弾丸のように飛び出す。
「【裸足の女神】!」
空の王目がけて一直線。
すさまじい速度で迫るメイに気づいた空の王は、羽を飛ばして応戦。
もはや壁と呼べる量の羽刃が、一斉にメイに迫る。しかし。
「がおおおおおおおお――――っ!!」
放つ強烈な【雄たけび】は、メイを狙う大量の羽をまとめて吹き飛ばす。
「やああああ――っ!!」
そのまま接近し、叩き込む振り降ろし。
そこから大きく踏み込み、放つ振り上げ。
「【フルスイング】!」
さらに続けて放つ、豪快な振り降ろし。
3割近いHPを削る連撃を喰らった空の王は、すぐさま退避に動く。
わずか一度の羽ばたきで大きく空に舞い上がり、そのまま距離を取りにかかる。
「逃がしませんっ! 【ターザンロープ】!」
しかしメイが投じたロープが、その足に絡みつく。
空へ登ろうと、全力で羽ばたく空の王。
「「「っ!!」」」
それによって猛烈な風が吹き荒れ、レンやツバメは身体を低くして転倒を防ぐ。
まもりも盾に隠れ、始まるメイと空の王の力比べに視線を集中させる。
王と王の力比べ。
その均衡を破ったのはメイだった。
「ゴ……【ゴリラアーム】だああああ――――っ!!」
スキルの発動と共に均衡が崩れ、メイは巨大な空の王を強引に引き戻す。
そしてそのまま、豪快に振り回し始めた。
「う、嘘だろ……大ボス中の大ボスだぞ!?」
「あの大きさの敵を、ぶん回すのか!?」
旅客機を振り回すかのような凄まじい光景に、さすがにあがる驚嘆の声。
誰もがそのすさまじさに驚愕する中、メイはロープを全力で振り下ろす。
「せーのっ! それええええええ――――っ!!」
豪快な回転からそのまま地面に叩きつけられた空の王は、大きく跳ね上がった。
「【装備変更】!」
メイはここで【猫耳】を【狼耳】へ。
「――――それでは、よろしくお願いいたしますっ! おいでくださいませ、クマさん、狼さんっ!」
【群れ狩り】による同時登場は、白狼に乗った巨グマ。
広がる冷気の中、クマ模様の部族衣装を着こんだ族長クマを、乗せた白狼が走り出す。
まずは白狼が喰らいつき、振り回すように一回転。
そのまま獲物を振り上げると、口内に広がった白煙が炸裂して空の王を凍結させた。
すると巨クマはバク宙の要領で白狼から降り、手を伸ばす。
それから片ヒザを突いた子グマが差し出した黒曜石製の槍を取り、そのまま豪快に跳躍。
空中でバトンのようにグルグルと回転し、高らかに掲げてから放り出す。
そして凍結状態の空の王に、【グレート・ベアクロー】を叩き込んだ。
巨狼が喰らい付き、巨クマが叩きつけ、跳ね飛ぶ巨鳥。
化物決戦の様相に唖然としながらも、レンはこの隙を逃さない。
「【魔眼開放】」
その右目が、煌々と黄金に輝く。
向けられる銀の杖。
大きくなびく長髪に、噴き出す魔力が大きく揺らめく。
「震天せよ。空舞う王は、昏き炎に焼かれ堕つ。遺されし慟哭は、軌跡となりて葬を成す――――」
「――――【ダークフレア】!」
集結する闇の炎が炸裂し、空の王を焼き尽くす。
舞い散る紫色の火の粉は、天空遺跡に妖しい輝きを灯らせた。
「詠唱の中に『天空遺跡』を忍ばせなくていいから……っ!」
思わずツバメにツッコミを入れるレン。
これで残りHPは、3割強というところまできた。
「さすが使徒長っ。お見事です……!」
巨大な空の王を焼く黒炎。
その光景に、思わず歓喜の声を上げる黒少女。
ここで再び戦いの優位を取ったメイたち。しかし。
「おい、向こうがマズいぞ!」
マウント氏の目は、もう一体の重騎士型のガーゴイルに向けられている。
剣と盾の大型ガーゴイルは、今にもプレイヤー戦線を突き抜けようとしていた。
「「「くっ!!」」」
大きくプレイヤーを後退させる一撃が、前衛組を弾き飛ばす。
そこへさらに衝撃波の振り降ろしを続けて、しっかりHPを削っていく。
「このガーゴイル、下手なクエストの大ボスより強いぽよ!」
「このままでは、メイさんたちの戦いに支障が出る確率は88%ですね」
「この防衛線を抜かれたとあっては、マウントが取れない……!」
二体の重騎士型ガーゴイル。
見事な連携を見せるスライム兵団は、このまま戦えばランスの重騎士型を打倒できるだろう。
しかしこの優位な状況を捨ててもう剣の重騎士を止めなくては、メイたちの戦いにガーゴイルが飛び込むことになる。
「うわあああああ――――っ!」
ここで剣の重騎士ガーゴイルの中心になっていたパーティが、弾き飛ばされた。
ついに重騎士ガーゴイルがメイたち目がけて動き出し、スライム兵団が分断を決意したその瞬間。
剣の重騎士ガーゴイルは、立ちふさがったプレイヤーを前に動きを止めた。
石柱の上に現れたのは、一人の少女。
「――――こーのタイミングに間に合っちゃうのが、バニーちゃんなんだよねーっ!」
普段着モードにしっかり戻しての登場は、もちろんこの瞬間を見越してのもの。
「【早換え】! バニーちゃんドレスアップ!」
燕尾服の裾のような形をしたスカートを巻いた、白のバニースーツ姿に変身。
「さあさあ、一気にいっちゃうよー! 【因幡ステップ】!」
柱から華麗に着地して、そのまま重騎士型の前へと駆けつける。
そして振り下ろされる剣を難なくかわすと、二刀の包丁を輝かせた。
「【三枚おろし】!」
左右の包丁で計六本の斬撃を決め、反撃の振り上げをかわしてさらにもう一撃。
続く盾の振り回しをしゃがんでかわし、振り上げでもう一発。
見事に騎士型ガーゴイルを翻弄しながら、プレイヤー陣立て直しの時間を稼ぐ。
「あぶないっ!」
聞こえた声は、重騎士型による召喚を教えるもの。
呼び出された小型ガーゴイルが、一斉にバニーを狙って飛ぶ。
「【千切り】!」
しかし振り返りと同時に放つ大きな振りは、一撃で8本の軌跡を描く水平斬撃。
迫る5体同時の攻撃を、斬り飛ばして余裕のポージング。
「さあおいでガーゴイルちゃんたち! 才色兼備の白うさぎが、めーった切りにしてあげる!」
すると重騎士型は再召喚。
迫る小型ガーゴイルの数は、一気に40体。
エサを見つけた鳥の群れのように、一斉に飛び立ち襲い掛かる。
「……お、思ったより、多いかも」
威勢よく声を上げたものの、予想より多いガーゴイルの数にビビりながら、バニーは二本の包丁で立ち向かう。
描かれる三本の斬撃が先行してきたガーゴイルを斬り飛ばし、左の斬撃で続く二体同時の突撃を弾き返す。
「【うさぎ跳び】からの【千切り】っ!」
そして二方向から同時に回り込むように迫ってきた個体の【火炎放射】を両足跳びでかわして、空中で縦回転しながら包丁を振るう。
着地したところに迫る5体の突撃も、8本同時斬撃で斬り飛ばした。
「気をつけるぽよっ!」
聞こえた注意喚起に振り返る。
そこには左右から迫る小型ガーゴイルと、その中心になって猛スピードで飛来する重騎士型。
剣の重騎士は、高速の滑空から手にした剣を振り払う。
「やっばー!」
豪速の斬り抜けを、しっかりとしゃがみで回避するバニー。
「きゃあっ!」
しかし吹き荒れる豪風に、思わず転がされた。
この隙を逃さず、迫る小型の群れ。
敵に集るハチのように、一斉にバニーに群がりに来たところで――。
「【浄化紋】!」
足元の魔法陣から上がる白炎が天を衝き、小型ガーゴイルの群れを吹き飛ばした。
一方速いターンから、再び滑空を始める重騎士型。
その剣を振り降ろしにくるところに、真正面から飛び込んで行くのは夜琉。
「【爆歩】【月狩り】!」
響き渡る金属音。
その一撃はなんと、重騎士型の剣とぶつかり合ってなお止まることはない。
豪快な斬り飛ばしで、敵を石柱に直撃させた。
「今の私たちの状況だと、このガーゴイルたちを止めるのが最善かな」
バニーに手を伸ばしながら、アーリィがほほ笑む。
「テラ・レックス戦でリベンジさせてもらった、お礼をしなければならないからな」
4人はすでに満身創痍。
「メイたちと一緒に、このクエストの結末を見たいにゃん」
「今度は誰も、欠けることなくね」
それでもメイたちと共に、天空遺跡のクエストを達成したい。
その一心で生き延びた者たちが、ここにもう一度集結した。
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