第856話 接近戦

 空の王はレンの爆炎六連発を受け、それでも1割強のダメージに留めた。

 すぐさま空中で華麗に一回転して体勢を整えると、そのまま滑降して反撃に入る。


「ギアアアアアアアア――――ッ!!」

「「「「ッ!!」」」」


 飛行しながらの【咆哮】には、さすがに対応できない。

 思わず硬直したメイたちの前に足を着くと、そこを起点にコマのように一回転。


「わあああーっ!」

「くっ!」


 鋼のような両翼が、前方にいたメイとツバメを弾き飛ばす。

 メイで1割、入りが浅かったツバメで2割ほどのダメージ。

 空の王はすぐさま翼を広げ飛翔、ジェットコースターのような縦の回転で再接近して、レンを狙う。


「【地壁の盾】!」


 まもりがすぐさま防御に入り、これを防ぎに入るが――。


「っ!?」


 なんと空の王は、そのまままもりを『つかんで』空へ。

 一気に上空へ向かう。


「高速【誘導弾】【連続魔法】【ファイアボルト】!」


 その意図に気づいたレンがすぐさま空の王を攻撃するも、錐もみ回転しながらの上昇でこれを回避し、落下を開始。

 一直線の下降からそのまま、つかんでいたまもりを離した。


「きゃあああああっ!」

「まもりっ!」


 神殿に直撃したまもりは、そのまま壁を突き破った。

 半壊する神殿。

 ダメージは防御の高いまもりでも3割弱に及び、その火力の高さを見せつける。

 さらに空の王は旋回して向きを変えると、こちらに向き直った。そして。

 ドン! と衝撃波を残して急加速。


「「「ッ!?」」」


 その大きな体躯に見合わない、驚異的な速度で迫りくる。


「【加速】【リブースト】!」


 迫る爪は、地を擦り火花を上げる。

 これをツバメは最速の回避でかわして転がる。

 すると空の王は再び空中で回転し、もう一度ツバメを狙って超加速。


「そういうことでしたら! 【跳躍】!」


 ツバメは頭上を越える形での回避から【反転】することで、着地後の反撃を狙う。しかし。

 空の王は、翼を広げたままスクリュー回転。


「あああああーっ!」


 大きく攻撃の範囲を広げた一撃がツバメを斬り飛ばし、2割を超えるダメージを与えた。


「【バンビステップ】【ラビットジャンプ】!」


 だがこの隙を突く形で、メイは距離を詰めていた。

 ようやく地に足を着いた空の王に向けて、跳躍から剣を振り降ろしにいく。

 すると空の王は、その顔をメイに向けた。

 そのクチバシの前に集まる風の奔流。


「わあああああ――――っ!!」


 空中から迫るメイの剣が当たる直前、放たれた風の奔流がメイを消し飛ばす。

 ドン! という爆発音の直後、視界から一瞬で外れるほどの速度で地面を転がった。


「接近での戦いにも自信ありって感じかしら!! 【連続魔法】【ファイアボルト】!」


 距離を取らずとも戦えることを誇示するかのような戦いぶりに、唇をかむレン。

 大きく硬質な翼や鋭い爪による攻撃でも、その火力は十二分。

 炎弾の連射で、どうにか追撃をけん制する。


「でも、そういうことなら……!」


 起き上がったメイに、レンは目配せ一つで合図を送る。

 空の王はレンの牽制で軌道を変え、その狙いをツバメに合わせた。

 そして再び、高速の突撃で迫る。


「メイっ!」

「おまかせくださいっ! 【裸足の女神】!」


 さらに追撃を狙う急加速を見て、ツバメのもとへ駆けつける。


「ツバメちゃん、大丈夫?」

「は、はい。ですがどうして……」


 自分を抱えて逃げるのならまだしも、隣に来てヒザを突いた意味を計りかねるツバメ。

 轟音を響かせ迫る、空の王。

 得意のスクリュー回転を前に、もはや回避も難しい距離となる。

 しかしメイは慌てない。

 その狙いは回避ではなく、あくまで反撃。

 右手を突き、空の王が攻撃体勢に入ったところでスキルを発動する。


「大きくなーれ!」


 メイのまいた【豊樹の種】が、一気に伸びる。

 それは小さな密林を生み出すほどの、圧倒的な成長。

 木々が絡み合って壁になれば、迫る空の王に対する分厚い『網』となる。

 突撃。

 凄まじい勢いで、斬れ飛んでいく木々。

 空の王は鋼の翼で、無数の枝を切り裂き迫る。

 しかしその驚異的な枝と葉の密度は、貫通までは許さない。

 メイたちにその一撃を届かせる直前で制止し、空の王はギリギリのところで木々の網に囚われた。


「いきましょう! まもり!」

「は、はひっ!」


 駆け出していた二人。

 メイとツバメを追い越す形で駆けつけたレンは杖を、まもりは盾を空の王へと向ける。


「【フリーズブラスト】!」

「【フリーズブラスト】!」


 あらかじめ【マジックイーター】で仕込んでいた氷嵐を放てば、レンの放ったものと融合して切り裂く氷雪の暴風となる。

 二人がかりの氷嵐を受けた空の王はすぐさま翼を開き、空への退避を狙う。


「そうはさせないわ! 【悪魔の腕】!」


 しかしレンがそれを許さない。

 地面の魔法陣から伸びた悪魔の巨碗が空の王の脚をつかみ、時間を稼ぐ。

 叩き落せないのは、やはりそれだけの大物ということか。


「お願い! ツバメ!」

「はいっ! 【加速】【跳躍】!」


 レンの呼び声に、ツバメが即座に応える。


「【ヴェノム・エンチャント】【四連剣舞】!」


 短剣の四連撃を叩き込むと、空の王はその強靭な足で地面を蹴り、豪快なバク宙蹴りを放つ。


「【加速】【リブースト】【反転】!」


 しかしすでに走り出していたツバメは、空の王の足元を潜って後方へと潜り抜けていた。


「【連続投擲】」


 速い反転から狙うは、四本の【ブレード】による攻撃。

 その身体の大きさがアダとなり、回避は不可能。

 刺さる四本の【ブレード】によって、蓄積した毒素が炸裂。

 空の王は大きくその身を震わせ、再び地に落ちる。


「【サクリファイス】」


 ここでツバメは、一気に攻勢をかける。

 武器をダガーから【村雨】に換え、HPの2割を使用。


「――――【斬鉄剣】」


 鞘から抜き放たれた豪快な斬撃エフェクトが、空を駆ける。

 容赦のない威力は、巨大な空の王ですら斬り飛ばす。

 その巨体は神殿に直撃。

 風がその長い黒髪を揺らす中、ツバメは静かに【村雨】を鞘へ戻した。


「こっちにはメイとツバメがいるのよ。接近戦でも勝ってみせようっていうのは、さすがに甘く見過ぎだわ」


 そう言って、強気の笑みを見せるレン。

 これで空の王の残りHPは、残り6割強。


「う、うおおおおお――――っ!!」


 一方、重騎士ガーゴイルは追従プレイヤー達を攻め続けていた。

 右手に持ったランスでの【滑空突き】は、前衛の防御を弾き飛ばす。

 そのため後衛組は攻撃ではなく、身を守るため一斉に攻撃。

 しかし重騎士ガーゴイルは、盾を持ったまま飛行する【飛行防御】によって前進。

 放つ【滑空突き】が、再びその威力を見せつける。


「「「うわああああああ――――っ!」」」


 弾き飛ばされる後衛組。

 運良くかわした魔導士も、続くランスの振り払いに弾き飛ばされる。


「マズいぞ、対ガーゴイルの防衛線が崩れる……っ!」

「耐えろ! メイちゃんたちのところには行かせるな!」


 メイたちが戦う浮き島前から少し離れた神殿前庭園に、二体の重騎士ガーゴイルを引き込んだ追従組。

 メイたちの相手は、完全なる超大物だ。

 戦況を崩さないため必死に抵抗するが、敵は見上げるほどの体躯を持つ重騎士ガーゴイル。

 突き出すランスが、円形の衝撃波を放つ。


「くっ! うおおおお――っ!!」


 その広い攻撃範囲と速さに、前衛の【敏捷】組たちが吹き飛ばされる。

 こうなれば重騎士ガーゴイルは、一気にプレイヤーの掃討へ動く。

 爆発的な低空跳躍から、引いたランス。

 埋め込まれた黄色の結晶が煌々と輝き、後衛を守っていた重戦士のもとへ。

 あがる豪快な砂埃と、その輝きを前に察する。


「ここまでか……! すまない……っ!」


 重戦士が盾を構えたままつぶやいたところに、駆け込んでくる一つのパーティ。


「迷子ちゃんの向かった方向で正解だったな!」

「よく分からないけど、ピンチみたいぽよっ! 【飛び跳ね】っ!」


 現れたスライムは速く低い飛び跳ねで、一気に重戦士のもとへ迫る。


「【砲弾跳躍】!」


 そしてそのまま、突撃を仕掛ける重騎士型に真横から突撃。

 ランスのガーゴイルは弾き飛ばされ、神殿に激突した。

 スライムは付近の様子を、あらためて確認する。


「メイさんたちぽよ! 戦っているのは、空の……王様?」


 分かるのは、それが至上の大物であるということだけ。しかし。


「メイさんたちが『正しいルート』で来てるのなら、邪魔なガーゴイルを倒して、空の王様との戦いに集中してもらう方がいいぽよ!」

「その選択、90%の確率で正解と見ました」

「こっちも十分大型だ。分担が重要になるわけだな」

「くく、使徒長たちなら必ず隠された真実にたどり着くだろう。そのためには我らが『余計な邪魔者』を省くのが的確であろうな」


 スライムたちは、状況を即座に把握。

 王都の時と同様に、『混戦を避ける』ことが重要だと認識した。

 すると重騎士ガーゴイルは立ち上がり、その狙いをスライム兵団に変えた。


「くるぽよっ!」


 速い滑空で仕掛ける、ランスによる突撃。


「えーっ!?」


 声を上げたのはマウント氏。


「俺を相手に、単純な物理攻撃を仕掛けしちゃうやつとかいるー!? はい【ソードディフェンダー】!」


 挑発するような言葉と共に、突き出されたランスを剣で弾くマウント氏。

 火花が散り、滑空中だった重騎士ガーゴイルは弾かれるような形で転倒。


「そこに転がる展開、計算通りです【フレイムマイン】」


 そこに計算君の投じた地雷型アイテムが、真紅の炎を噴き上げる。


「……なかなか見事な装備だ」


 追撃を受けた重騎士型に、そう言って杖を向けたのは黒少女。


「だが、樹氷の魔女の前に立ち塞がったことが貴様の不運だ――――咲き狂え、雪花の刃【凍花白華】」


『樹氷の魔女』という二つ名に沿う魔法を、探し狂っていた黒少女。

 ようやく手に入れた魔法を、さっそく解放。

 冷気によって白みがかった空間に現れた、大量の氷花。

 次々に砕け散り、生まれた無数の氷の花びらが敵を切り刻む。

 新スキルを決めた黒少女は、レンを真似た杖の振り降ろしで決める。

 こうして重騎士ガーゴイルに、見事な連携を叩き込んでみせたスライム兵団。


「お前たち、早過ぎな!」


 さらにそこへ、追いかけてきた掲示板組が合流。


「……なるほど、メイちゃんたちの戦いを守る形だな」


 すぐさま『どう戦うか』を理解して、武器を構える。

 こうして重騎士ガーゴイルたちとの戦いは一転、不利を跳ね返す形になったのだった。

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