第855話 地対空
始まった壁画の巨鳥との戦い。
空中でその大きな翼を広げた空の王は、力強く羽ばたく。
「「「うおおおおおお――――っ!?」」」
吹きすさぶ暴風にダメージはないが、その威力は追従プレイヤー達の一部を派手に吹き飛ばした。
軽いプレイヤーはそのまま神殿の壁や柱にぶつかり、衝突ダメージを受ける。
「わわっ!」
【耐久】の高いメイでも、思わず片腕を盾にして立ち止まるほど。
レンとツバメは、その場に座り込んで転倒を防ぐ。
そしてようやく風が弱まったところで、空の王は一転急降下を開始。
座り込んだままのレンを、その硬質な爪で狙う。
「レンちゃんっ!」
メイはすぐさま走り出し、レンを抱えて転がる。
すると空の王はそのまま滑空して空に登り、振り返りと同時に翼を広げて一回転。
今度は大量の『羽』が、豪雨のように降り注ぐ。
「何ですか、この羽の量は……っ!?」
「ぼ、防御、入りますっ!」
視界を埋めるほどの羽が、猛スピードで飛来。
ここでまもりが声を上げ、すぐさま三人は盾を構えたまもりの背後へ。
直後、降り注いだ大量の羽が地面に次々突き刺さり、盾からは弾丸でも受けているのかというレベルの金属音が鳴り響く。
「ありがとうメイ、まもり!」
「いえいえーっ」
「は、はひっ!」
手を引いてまもりのもとに駆けたメイに感謝しながら、レンは杖を握り直す。
そして猛烈な羽の嵐が止まったところで、盾の陰から飛び出した。
「【魔砲術】【連続魔法】【フレアアロー】!」
空の王に向けて放つ、三本の熱線。
「ギャアアアアアアアア――――ッ!!」
あげる咆哮と共に、空の王の周りを覆う旋風。
炎の矢は、風の壁に軌道を変えられ流されていく。
「それなら! 【魔砲術】【フリーズストライク】!」
続け様に放つ氷砲弾。
空の王はこれをかわして一回転。
今度は機関銃のような羽の連射で、レンを狙う。
「【低空高速飛行】【旋回飛行】!」
迫る羽の連射に、レンは旋回飛行で対応。
次々に地面に刺さる羽は炸裂し、石片を派手に巻き上げていく。
これを上手に置き去りにしたレンは飛行を止め、杖を巨鳥に向けた。
「【超高速魔法】【ファイアボルト】!」
地上から天に向かって放たれる炎弾。
対して空の王も、わずか一枚。
翼の下部を占めている白色の風切り羽を、弾丸のような速度で射出した。
炎弾と羽はそのまま空中ですれ違い、互いの狙いに向けて一直線。
羽はレンの頬を斬り、炎弾は空の王の腹部を撃ち抜き、後方に細い炎柱を突き抜けさせた。
だがダメージは極々僅少。
空の王はすぐさまクチバシを開き、濃縮された風弾を放って反撃。
レンはこれを【低空高速飛行】でかわすが、炸裂した風弾は爆発的な爆風を巻き起こす。
「きゃあっ!」
この攻撃の主な狙いは直撃させてダメージを奪うことではなく、暴風による吹き飛ばしのようだ。
レンは地面を跳ねるほどの勢いで転がり、倒れる。
ダメージこそ少ないが、その威力はこれまで見てきた『風』とはまるで威力が違う。
直撃せずとも敵を大きく崩す、最高の武器だ。
「この戦い方は、これまでなかったわね……!」
地対空の戦いでは、やはり空からの攻撃を続けられる巨鳥が大きく有利になるようだ。
空の王は攻撃を続ける。
そのクチバシの前に溜まっていくのは、猛烈な風の奔流。
放たれた風の砲弾はそのまま中空で炸裂し、広い範囲に強い風を吹かせ続ける。
「【フリーズストライク】!」
レンは空の巨鳥に杖を向け、魔法を放つ。
しかし放たれた氷砲弾は流されて明後日の方向へ飛んでいって炸裂。
「【フリーズブラスト】!」
続けて放った氷嵐も、風に流され消えていく。
「ああもうっ」
なかなか吹き止まない風は、いよいよ空を支配する巨鳥の優位を確定させる。しかし。
「メイ! 一緒にいけるっ!?」
「もちろんっ! おまかせくださいっ!」
地対空という不利な戦況。
ここで手を組むのは、レンとメイ。
「【魔砲術】【連続魔法】【誘導弾】【ファイアボルト】!」
風の強さによる妨害も、誘導の効いた魔法を大きな弧を描く形で放てば、敵を狙い撃つことが可能と予想したレンは、炎弾を放つ。
その狙いは的中し、上方から曲がってくる炎弾は狙い通りの軌道で飛来。
しかし空の王は翼を広げて風を起こし、全弾反らしてみせた。
風の壁は、遠距離攻撃を徹底防御する。
「崩す一手は、やっぱりメイになるわね! おねがいっ!」
「りょうかいですっ!」
メイがその手につかんだのは、【王樹のブーメラン】
「せーのっ!」
そのままハンマー投げの要領で回転し、投擲。
「それええええええ――――っ!」
投じた身の丈サイズのブーメランは轟音を響かせ、風を切って空の王へ直進。
流れ続ける風を突き破り、その翼に直撃した。
「今ならっ! 【誘導弾】【フリーズストライク】!」
ようやく体勢を崩した空の王。
レンはすぐさま氷砲弾で追撃。
弧を描いて飛ぶ一撃はついに空の王を捉え、連携によるダメージを奪うことに成功。
「さすがメイね!」
「やったー!」
思わずハイタッチのメイとレン。
二人は最高の笑みで笑い合う。
「でもHPは相当高いみたいね! 次々ぶつけていきましょう! そこから何とか、地上に引き落とせれば……っ!」
「羽、きます!」
空中で姿勢を取り戻した空の王は、すぐさま降り注ぐ大量の羽で反撃。
「【地壁の盾】!」
まもりは即座に防御に入り、三人を守る。
すると空の王はそのまま落下し、今度は直接攻撃を狙いにきた。
滑空しながら体勢を整え、後ろ爪がわずかに床石を擦って火花を散らす。
その驚異的な勢い。
空の王の火力は、直接攻撃でも群を抜くものだと即座に理解する。
「準備、できてるわ!」
「はひっ! 【不動】【地壁の盾】!」
しかしまもりは、これを正面から受け止めにいく。
そしてこの時を、レンは狙っていた。
まもりの盾は当然のように、完璧な角度で空の王の一撃を受ける。
「凍りなさいっ!」
わずかにできた隙間、準備しておいたルーンを発動させる。
するとまもりの盾に刻まれた【氷結のルーン】が、氷刃の山を突き上げる。
切り裂く一撃は、見事に空の王の脚部を傷つけダメージ。
だが通り抜け際に氷刃を喰らった空の王は、縦の旋回によって体勢を立て直し、そのまま再度の攻撃に入る。
「それは悪手よ! まもりの防御に、そんな普通の攻撃は通じない!」
今度は正面からではなく、入射角の違う斜め上方からの降下攻撃。
「【不動】【クイックガード】【地壁の盾】!」
これもまもりは、完璧なタイミングで防御を決めてみせた。
そしてすぐさま二枚目の盾を、レンの方に向ける。
レンは【宵闇の包帯】と【常闇の眼帯】を同時に外し、杖をまもりの盾に突きつける。
「発動!」
さらに自らに付けた【増幅のルーン】を起動し、そのまま魔法を放つ。
「【ペネトレーション】【フレアストライク】!」
六連発の爆炎はまもりを通り抜け、そのまま空の王に直撃。
燃え上がる盛大な炎と共に、巨鳥を吹き飛ばしてみせた。
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