第854話 たどり着いた先
「これで一段落だねっ」
ボス級の敵7体に、小型のガーゴイルたち数百体。
これらを見事に片づけたメイたちは、追従プレイヤー達のざわめきが残る中、神殿区画の縁へ進む。
そこには一際大きな浮き島と、つながるブロックの長い道がある。
「さて、この広い空間に何が待ち受けているのかしら」
「ドキドキしちゃうね……!」
「緊張の瞬間です」
「は、はひっ」
浮き島へとつながる道の前には、翼の紋章が一つ。
見れば最後のアサシンが倒れた際に、こぼした黄色の結晶が輝いている。
メイがこれをひろって翼の紋章を踏むと、ブロックが一つ浮き上がって台座のようになった。
そのまま結晶を、その中央部分にはめ込む。
すると台座はゆっくりと床に戻り、すぐに変化が現れた。
ブロックの道に刻まれた紋様を光が駆け抜け、地面が揺れ始める。
そして、浮き島の上に陽炎のような揺らめきが生まれ始めた。
「なんだ……あれ」
その光景に、誰もが思わず目を取られる。
ただ空だけが見えていた、円形の浮き島の上。
エルラト禁域の空に天空遺跡が現れた時のように、何もなかったはずのところに少しずつ何かが見えてくる。
ステルスの効果が消え、あらわになっていくのは二本の大きな塔。
「なんだあれ!?」
「急に現れたぞ! どうなってんだ……!?」
遺跡ブロックと同じ素材で作られた二つの塔には、複雑な紋様が刻まれており、互いに向き合うような形になっている。
橋脚のようにも見える不思議な塔。
突然現れた謎の存在に、皆驚きの表情を向ける。
「モニュメントでしょうか」
「……門じゃないかしら」
ツバメの問いに、レンが応えた。
確かに大型の浮き島の真ん中に二本の塔が立つと、それは門のようにも見える。
刻まれた紋様のせいで、特別な雰囲気がより強まっているため、どこか宗教染みた雰囲気もある。
「でもどうしてこんな場所に、こんな大きなものを……」
天空遺跡に入る者を迎えるための門だとすると、さすがに大きすぎる。
それは現実にある『寺社の街』で、シンボルとして作られる鳥居よりも、何倍も大きなものだ。
「飛行船で来た時に、ここでお出迎えしたりする感じなのかな?」
「なるほど、空の港のランドマークだっていうなら分かる気もするわね」
「な、なにが待ち受けているんでしょうか」
「これだけ盛大な防衛線を敷いてたくらいだし、何か大きなものが隠されてるのは間違いないわ。そしてアサシンとガーゴイルは、どちらも単体ではなく同型複数のボスだった」
「天空遺跡を代表するボスとしては足りていない、ということですね」
「そっか、そういうことになるんだね……!」
メイは「なるほど」と手を叩く。
「とにかく、浮き島に進んでみましょう」
レンは追従プレイヤー達に背を向けながら、そーっと眼帯と包帯を装備。
集まる視線の中、メイを先頭にして進む。
そしてその足が、謎の巨大オブジェクトへ続く道に踏み出したその瞬間。
「っ!」
メイが突然、上空を見上げた。
聞こえてくるのは、轟々という強烈な風切り音。
皆続けざまに視線を上げて、唖然とする。
上空から雲を割って落ちてくるのは、巨大なしずく型の物体。
隕石かと思うような勢いでやってきた褐色のしずくから、頭部が突き出した。
続けて太陽を隠してしまうほどの翼を広げると、風を受けて滞空。
「「「う、うおおおおお――――っ!?」」」
その勢いで巻き起こった風に、様子をうかがっていたプレイヤーたちが体勢を崩され転がる。
「なんだ、この大きさ……!?」
「間違いなく、鳥型では最大級だな……!」
尻もちをついたまま、唖然とする追従プレイヤー達。
その大きさ、そして大物たる風格は、他の追随を許さないレベル。
一見しただけで『これは戦ってもどうにもならない』という、ゲーム中ごく稀に覚える『差』の感覚を呼び起こす。
その迫力にはメイたちも、思わずその場に身を低くしてこらえる。
「……鳥の、いえ、空の王様ってところかしら」
「ツバメちゃん、あれって」
「間違いないと思います。王城内の天井画にあった三体の巨獣の一つです」
「や、やっぱりそうですよね……!」
「あの門が何なのかを知るには、勝って進めってことかしらね」
「バニーちゃんたちに教えてあげるためにも、負けられないね……!」
自然と並び、武器を構える四人。
するとここで、予想外のことが起こる。
最後に打倒したアサシンが起き上がり、胸元から小型の結晶を取り出し掲げる。
すると屋根のない二つの神殿の床に刻まれた紋様が輝き出し、そこから二体の大型ガーゴイルが新たに現れた。
「……世界のために」
その姿を確認すると、合言葉を残して倒れるアサシン。
「おい、さっきの大型よりさらにデカくないか……?」
先ほどまでの大型が戦士なら、今度は重騎士といった装備のガーゴイル。
こうして敵は三体になった。
「……俺たちが大型を止めて、メイちゃんたちにはあの巨鳥に集中してもらう形だな」
「見たことあるぞ。王都で戦った時のやり方だろ。でもあの時の再来を、俺たちにできるか……?」
「とにかく私たちが大型を止めて、時間を稼ぐだけでも意味があるはずですよ」
追従組はメイたちの戦いぶりを間近で見たことで、あらためて戦い方を構築。
他のクエストであれば大ボス級であろう大型ガーゴイルたちに立ち向かうことを決意し、大きくうなずき合う。
ここまで来たら、続く物語が見たい。
そしてその中心となるのは、やはりメイたちだ。
ここまでの戦いでそれを確認した追従組は、自然と重騎士ガーゴイルに向き合う。
「ギャアアアアアアアア――――ッ!!」
巨鳥は、プレイヤーたちの身体を震わせる猛烈な咆哮をあげた。
動き出す重騎士ガーゴイルと、空の王。
天空遺跡の謎を賭けた戦いが、今始まった。
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