第853話 一掃

「【影走り】」

「【影走り】」


 残るアサシンは二体。

 その狙いは、戦いの中心になっていたメイとレンだ。

 しかしメイが立ち塞がったことで、アサシンは二体ともメイに攻撃を仕掛けにいく。


「ボス格の連携……!?」


 この事態に驚く追従プレイヤー達。


「【斬烈】」


 一体目のアサシンが、飛ぶ剣撃を放つ。

 これをメイが身体の傾けで避けると、即座に二体目のアサシンが短剣で続く。


「【双斬烈】」


 左右二連の剣撃は、攻撃範囲を広げる空刃で剣を包むもの。

 メイはこれを冷静に見極め回避する。

 すると剣撃を飛ばしたアサシンの直後に、間髪入れずに短剣の振り払いが続き、踏み込みからの返しへとつなぐ。

 これを下がって避けたところに、【跳躍】から振り下ろす斬撃。


「【アクロバット】!」


 バク転でかわすと、着地したばかりのアサシンを追い越す形で、短剣のアサシンが空いた手を伸ばす。


「【極氷砲】」

「【裸足の女神】っ!」


 だがスキルが発動する直前、メイは低い跳躍でアサシンの目前に。


「【カンガルーキック】!」


 放つ前蹴りがアサシンの胸元を蹴り、スキルをキャンセルさせつつ体勢を崩した。


「【装備変更】【キャットパンチ】!」


 装備を【狐耳】に変更し、一気に【狐火】拳打を叩き込む。

 さらに横から飛び込んできたアサシンの剣をかわして、三連発。


「【尾撃】っ」


 硬直が解けた短剣アサシンの頬を張り、攻撃を強制停止。


「【斬烈】」


 ここで剣のアサシンが、近距離から斬撃を飛ばす。


「よい、しょっと!」


 メイは迫る水平の剣撃をブリッジで回避し、そのまま足を蹴り上げてバク転。

 体勢を立て直す。

 すると剣撃はそのまま、短剣のアサシンに直撃。


「「「おおっ!!」」」


 この距離で敵の攻撃を利用して戦うメイに、歓声が上がった。

 ボス二体を相手にしても、メイはしっかり優位を取る。


「お、おいっ!」


 だがこの戦いに目を付けたのは、剣のガーゴイル。

 翼を羽ばたかせて滑空し、そのままメイの背後に着地。

 そのまま剣を振り払う。


「【装備変更】【アクロバット】!」


 しかしメイは、急な滑空から剣を振り払った大型ガーゴイルの攻撃を、側方への伸身宙返りでかわす。


「「「ッ!?」」」


 飛来時の翼の音の接近、そして着地の音を聞きつけ、攻撃が縦であろうと横であろうと回避できる角度へ跳躍。

 これによってアサシン一体と剣のガーゴイルが、同時に隙を晒した。


「メイっ!」

「りょうかいですっ!」

「【魔剣の御柄】【フリーズブラスト】!」


 この隙を逃さず【低空高速飛行】で後方からやってきたレンは、そのまま魔法の剣でアサシンを斬る。


「続きますっ」


 レンを追い抜き、続くメイの振り上げ。

 すると大きく斬り飛ばされたアサシンと入れ替わるように、跳躍から短剣で斬りかかりにくる二体目のアサシン。


「【解放】!」


 ここでさらにメイの前に出たレンが、放つ氷嵐で吹き飛ばす。

 レンからメイにつないでまたレンというめずらしい連携に、思わず笑い合う二人。


「四体目ッ!?」


 しかしこの隙に迫り来ていた槍のガーゴイルがレンを狙い、一気に距離を詰めてきた。

 着地と同時に槍を引き、そのまま突き出してくる。


「マズいぞっ!」


 思わずもらす言葉。

 しかしその穂先がレンに届く瞬間、槍のガーゴイルの首にかかった一本のロープが、突然強く引かれた。


「【ゴリラアーム】! からの【ラビットジャンプ】!」


 メイは捕えたガーゴイルを振り回しながら跳躍。

 跳べば当然、槍のガーゴイルも宙に浮く。


「せーのっ! それええええええ――――っ!!」


 そのまま鎖鎌の要領で、槍のガーゴイルを剣のガーゴイルに叩きつける。

 絡み合う形で転がっていくガーゴイルは、そのままアサシンたちの方へ。

 ボーリングのように転がるアサシンを前に、メイは右手を突き上げる。


「【装備変更】! それでは――――よろしくお願い申し上げますっ!」


 神殿区画の足元に、現れる魔法陣。

 そこから飛び出してきたのは、巨大な一頭のクジラ。

 天空遺跡を舞うクジラという幻想的な召喚魔法に、いよいよ唖然とする追従プレイヤー達。

【幻影】によって二頭になったクジラはそのまま、大型ガーゴイルとアサシンのもとに直撃。

 ガーゴイルは巻き起こる波に流されて消え、アサシンも吹き上がる青い炎に焼かれて倒れる。

 メイはクジラに頭を下げた後、両手で狐を作って「こんこん」と決めポーズ。

 誰もが安堵の息をついた。

 しかし次の瞬間、付近の小型ガーゴイルたちが一斉に飛び上がった。

 未だ数百を数えるガーゴイルたちは空を飛び、その向きをメイの方へと向ける。

 輝く黄色の結晶。

 見れば早い段階で転倒から復帰した一体のアサシンは、召喚の発動と同時に駆け出し、ギリギリでクジラの攻撃範囲を抜け出していたようだ。


「【影走り】」


 こちらに向けて走り出すアサシン。

 それに反応してガーゴイルたちも、一斉に飛び掛かってくる。

 アサシンの奥義は単体の攻撃スキルではなく、ガーゴイルたちをまとめてけしかけるという驚異の戦法。


「なんだよこれ……!」


 大量のガーゴイルを引きつれ、先行するのはアサシン。


「【超速処刑】」

「「「っ!!」」」


 それは目にも止まらぬ速度で迫る、刺突の一撃だ。

 そのうえ相手の動きを最後まで見て放つため、安易な早い回避は致命傷となる。しかし。


「【かばう】【地壁の盾】!」


 ここで合流してきたまもりが【かばう】を発動。

 猛烈な雷光のエフェクトと共に放たれた突きは、盾に阻まれた。


「【投擲】」


 ここでさらにツバメが、【雷ブレード】でアサシンを止める。

 まもりは大急ぎで走り出し退避。

 メイはすでに、右手を高く掲げていた。


「ありがとうまもりちゃん、ツバメちゃん! ――――それではどうぞ、お越しくださーい!」


 新たに描かれる魔法陣は空中。

 落下してきた巨大な白象の衝撃に、プレイヤー達が一瞬浮き上がる。

 その鼻から放たれた大量の水は雨となり、場の天候を変えた。

 そしてレンはすでに、準備を終えている。

 手にしたのは魔法広範囲化の杖【ヘクセンナハト】


「【コンセントレイト】【フリーズブラスト】!」


 放たれる『溜め』の氷嵐は、その範囲を大きく広げる。

 降りしきる天気雨に濡れたガーゴイルたちは一斉に凍結し、落下していく。

 こうなればもう、後はまとめて叩くだけ。


「いきますっ! 必殺の――――」


 メイは掲げた剣を、力強く振り下ろす。


「【ソードバッシュ】だああああああ――――っ!」


 駆け抜ける猛烈な衝撃波が、ガーゴイルの群れを消し飛ばし、アサシンを吹き飛ばす。

 やがて雨が上がると、そこにはもう倒れ伏すアサシンしか残っていなかった。


「レンちゃんないすーっ!」


 自然と集まり、ハイタッチする4人。

 メイは帰って行く象に、笑顔で手を振る。


「これが……メイちゃんたちの力か……」

「すさまじいな……」


 合計6体のボスを圧倒し、小型のガーゴイルたちまで一掃した4人。

 その力量を目の当たりにした追従プレイヤー達は、感嘆の息をつくのだった。

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