第852話 アサシンvsアサシン

「な、なんだこれっ!」

「どういう戦い方なんだ……っ!?」


 聞こえた悲鳴と共に、弾き飛ばされ転がる前衛パーティ。

 怒涛の勢いで攻めるアサシンの前に、飛び込んで行くのはツバメ。


「【電光石火】!」


 放つ斬り抜けをかわしたアサシンは、ツバメをターゲットに変えて動き出す。


「格闘型ですか」


 突き出される拳を、ツバメはバックステップでかわすが――。


「ッ!?」


 胸元に刺さった何かが、ダメージを計上。

 四足獣のように振り下ろす左手をさらに後方への移動でかわすが、これも肩口の衝撃と共にダメージを受けた。


「どういうことですか……っ?」


 空を薙いだはずの攻撃が、しっかりダメージになり驚くツバメ。

 するとアサシンはさらに踏み込み、拳の底面をぶつけるような払いの拳打を放つ。

 ツバメは慌ててしゃがんで回避。

 するとわずかに遅れた髪が飛び散った。


「まさか、武器が透明化しているのですか……!」


 そのアサシンの戦い方に気づいたツバメだが、敵が両手を同時に持ち上げるという挙動に困惑。

 これも祈るような気持ちで、後方への跳躍に賭ける。


「ッ!」


 地面に走る強烈な揺れと、走る衝撃に大きくのけ反る。

 ここでツバメは、その異様な戦法の内容に気づく。


「複数の透明化武器を、持ち換えるのですか……っ!」


 このアサシンは、見えない武器をその都度持ち替えながら攻撃しているようだ。


「ここまでは『爪』『剣』『ハンマー』といったところですか」


 掲げた右手。

 握った拳は何を持っているのか分からない。

 ツバメは真後ろへの回避はやめ、右側へ移動することで『剣・槍・斧』等の攻撃が回避できると判断。しかし。


「【地刃】」

「っ! 【跳躍】!」


 アサシンはそのまま手を突き、地面から岩の刃が突き立つ。

 これを後方への跳躍で回避したツバメは【投擲】で敵をけん制、着地と同時に走り出す。

 誰もが、このやっかいな敵にどう立ち向かうのかに視線を奪われる。


「【疾風迅雷】」


 ツバメは真っ向から、翻弄勝負を仕掛けることを選んだ。


「【加速】」


 横薙ぎのモーションを見て、折れるように回避。


「【加速】」


 続く振り降ろしは、ハンマーかハルバード。

 そう判断したツバメは敵の後方へ回り込んでいく。


「【跳躍】」


 そして振り返りと同時に振るわれる剣らしき武器を跳び越え、ツバメは着地と同時にスキルを発動。


「【分身】」


 四体のツバメが、アサシンを取り囲む。


「【電光石火】!」

「【電光石火】!」


 即座に二体が同時に、挟み込むような形で放つ斬り抜け。

 アサシンはこれをしゃがんで回避した。


「【アクアエッジ】!」


 すると三体目のツバメが、水刃による二連撃で続く。

 アサシンはこれも、見事な身のこなしでかわす。

 しかし四体目のツバメはこの時すでに【跳躍】で、敵後方に移動している。


「【反転】【雷光閃火】!」


 背中を狙った一撃。

 火花を散らして迫るツバメを前に、アサシンはどうにか防御を間に合わせた。しかし。


「……四体目、分身だったのかよ!」


 思わず叫んだのは、ツバメの戦いに見惚れていた忍者。

 実は三体目の地味な【アクアエッジ】のツバメが本物。

 直後、稲光がアサシンの肩に駆けめぐる。


「「「ッ!?」」」


【分身】からの跳び越え【反転】【雷光閃火】で、敵味方全ての視線を自分から外させる。

 そこで【不可視】を発動して投じられた【雷ブレード】は、もはや回避など不可能。

 そこに目立つ何かがあれば、地味なものは絶対に気づかれない。

 ツバメのそんな人生経験から生まれた連携が、見事にアサシンから大きな隙を奪う。


「【加速】【三日月】! 【旋空】! 【稲妻】!」


 そこから武器を【村雨】に換え三連撃。

 見事に翻弄されたアサシンのHPは、残り3割ほど。

 向かい合う形になったツバメとアサシン。


「【加速】【スライディング】!」


 先行したツバメ、今度はアサシンの足元すり抜け背後へ。

 両手を上げたアサシンは振り返りと同時に、背後から迫っているであろうツバメに必殺の一撃を放つ。


「【崩天撃】」


 轟音と共に振り下ろされる見えないハンマーは、そのまま容赦なく叩きつけられた。

 大きな黄色いヒヨコの頭部に。

 オブジェクトのヒヨコはハンマーを喰らい、ボールのように『バイーン』と弾け飛んでいく。

 そして大技をヒヨコに当ててしまったアサシンは、隙だらけだ。


「よろしくお願いします」

「「「ッ!?」」」

「フ、【フロストジャベリン】!」

「れ、【烈火剣】!」

「【大樹狩り】だあああ……っ!」


 その場の全員が、緊迫する中に可愛いヒヨコを投じられて驚愕。

 ワンテンポずつ遅れての攻撃となったが、見事にアサシンを打倒した。


「ありがとうございました」


 驚異的速度による翻弄と、ヒヨコを放り込む意外性。

 その場にいた誰もが、不思議なアサシン少女ツバメに心を奪われてしまったのだった。

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