第851話 イージスのごとく
ガーゴイルの数が大きく減ったことで、始まる次のフェーズ。
敵陣の中心になっている大型ガーゴイルに加えて、四体のアサシンたちも動き出した。
「【疾走縮地】」
神殿区画をすり抜けるように駆け、そのまま分散。
「【伸身宙返り】【炎舞】」
先頭のアサシンの振り下ろす剣が、炎を巻き起こす。
「「「うおおっ!!」」」
続く三連続の剣舞は、場にいたプレイヤーたちを大きく弾き飛ばしてみせた。
「【斬烈】」
二体目のアサシンは、一つの前衛チームに向けて飛ぶ斬撃を放つ。
「「「ッ!!」」」
これを前衛組は、必死の回避でやり過ごす。
「反撃に入れない……っ!」
アサシンの飛ぶ斬撃は、通常攻撃並みの速度で放たれるため隙がない。
「【ファイアシェル】!」
「【跳ね飛び】」
放たれた魔法攻撃をジャンプでかわし、さらに空中から放つ斬撃。
飛ぶ速度、振りの速さ、そして火力。
どこを取っても弱点なしの攻勢に、前衛組は押されていく。
「【影走り】【氷刃斬花】」
すべり込むようにして入り込んできた三体目のアサシンは、右手を地面につく。
するとアサシンを中心に突き上がった氷の刃が、プレイヤーたちを斬り飛ばす。
「アサシン、やっぱ強いぞ!」
「この火力でこの速度は反則だろ……っ!」
「【回転跳躍】」
氷刃の花にプレイヤーたちがダメージを受けたところで、アサシンはその場を離れるように跳躍。
そこに跳び込んでくるのは、斧型ガーゴイルの猛烈な一撃だ。
「「「う、うおおおおおお――――っ!?」」」
容赦のない攻撃が、追従組の一団を消し飛ばそうとしたその瞬間。
「【かばう】【不動】【地壁の盾】!」
飛び込んできたまもりが、豪快なエフェクトごと斧の一撃を受け止めた。
自分よりも何倍も大きなガーゴイルの攻撃を受けたまもり。
その隙を突き、駆け込んでくる四体目のアサシン。
「【炎剣乱打】」
速い踏み込みから払う剣には、猛烈な炎が燃え盛る。
「【天雲の盾】!」
これをまもりは、左の盾で受け止める。
右にガーゴイルの斧、左にアサシンの魔剣。
二つの攻撃を同時に受け止めたまもりに、ガーゴイルとアサシンはさらに攻勢を仕掛ける。
「【クイックガード】【天雲の盾】盾盾! 【地壁の盾】【天雲の盾】盾盾盾っ! さ、最後は……普通の防御っ!」
アサシンの速い魔法剣攻撃を左の盾で三つ受け、同時に右の盾で斜め上から迫るガーゴイルの斧を受ける。
さらにアサシンの四連撃を受け止めた後、あえて【不動】を使わないことで、ガーゴイルの斧に弾かれ距離を取る。
顔を上げると、飛び掛かりからの振り降ろしで迫る斧のガーゴイル。
そして左側から弧を描く形で駆けてくる、アサシンの姿が見えた。
手にした魔剣の輝き方を見て、まもりは盾を構え直す。
「【不動】【クイックガード】【地壁の盾】!」
斧のガーゴイルの飛び掛かり斬りを左の盾で受けると、派手に火花が散る。
この隙を突き、駆けてくるアサシン。
「【地壁の盾】! 盾盾っ!」
二連の剣撃を右盾で受けた直後、予想通り派手な武器スキルが放たれた。
「【不死灼火鳥】」
魔剣から放たれた真紅の鳳凰は、視界を焼くほどの閃熱を放つ。
「【マジックイーター】!」
しかしまもりは左の盾で斧を受けたまま右の盾で魔法を『喰らい』、そのまま斧のガーゴイルに差し向ける。
「【不死灼火鳥】っ!」
まもりの盾から放たれた灼熱の鳳凰は、今まさに攻撃に入ろうとしていたガーゴイルに炸裂して吹き飛ばす。
「あ、あの、おねがいしますっ……!」
飛び散る火の粉の中、完全な防御を見せた後だというのに、申し訳なさそうに頭を下げるまもり。
ボス二体を同時に受け止めるという、凄まじい戦いぶりに我を忘れていた追従の前衛たちが、慌てて動き出す。
「【ライトブレード】!」
「【蒼炎剣】!」
「【ブラストナックル】!」
「あ、ありがとうございます……っ!」
追撃によって、ついに倒れたガーゴイル。
それを見てあらためて頭を下げたまもりのもとに、アサシンが迫る。
「お、おいッ!!」
それは完全に虚を突かれた形となり、誰もが大慌てするが――。
「【地壁の盾】!」
なんと迫るアサシンの『影』の動き一つで、頭を上げる前の防御に成功。
「「「ッ!?」」」
隙など一片もないところを見せた。
ここでアサシンは、一気に攻勢をかける。
「【炎氷風雷双剣舞】」
「【クイックガード】【天雲の盾】!」
まもりはスキルを発動するが、敵が両手に取り出した剣に『刃』なし。
始まる乱舞の一発目は、実際の振りよりもわずかに遅れて回り込んでくる『炎の刀身』
次撃は凍結効果持ちの『氷の刃』が通常攻撃と変わらぬ速度で迫り、見えない『風の刃』へと続く。
そして最後には、麻痺効果付きかつ超高速の『雷光』の剣による刺突。
繰り出される四つの属性剣は全て、タイミングも角度も違う。
回避はもちろん、防御でも初撃の炎の回り込みで崩されがちなやっかいな攻撃だ。
「盾、盾、盾っ! もう一度……盾、盾盾盾っ!」
だがまもりはこれを右の盾で一枚でガードして、さらに二周目の四属性剣舞まで完全防御。
生まれた隙に、左の大盾を振るう。
「【ローリングシールド】!」
弾かれ、飛ばされるアサシン。
「あ、あの……っ」
まもり、二度目の援護は申し訳なくて言いづらい。だが。
「いくぞ!」
「「「おうっ!」」」
すっかりまもりの完全防御に魅せられていた前衛組。
これだけ守ってもらった以上、『反撃のタイミングは絶対に逃さない』と意気込んでいたため隙はなく、即座に対応。
そのまま怒涛の集中砲火で、アサシンを片付けた。
「あ、ありがとうございます……っ」
戦いの中心となるプレイヤーなのに、ペコペコと頭を下げるまもり。
「……ひとりイージス」
その驚異的な防御力に、しれっととんでもない二つ名がつくのだった。
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