第803話 黒竜ツァウバーフレーテ

「メイちゃん……どうするつもりなんだ?」


 帝国城内での戦いも前庭まで来れば、観客が集まってくる。

 レンたちは明らかに装備が豪華な、近衛兵たちとの戦いを始めた。

 そんな中メイは召喚獣ケツァールに跳び乗って、空を行く黒竜に向けて飛んでいく。


「まさか……あのまま空中戦をする気か?」

「ウソだろ? 飛竜使いでも、相手が地上タイプの時に優位を取るために使うくらいだぞ?」


 従魔や召喚獣との共闘。

 プレイヤーの持つスキルや能力が高ければ、地対空の形式で用いることはある。

 しかし地上ですら高い動物値がなければ、なかなか噛み合わない連携。

 飛行種に乗ったままの飛行型の敵にぶつかるという空中戦を、ちゃんとした形で成功させたプレイヤーなどいない。

 ほぼ間違いなく、落下して終わりだ。

 空対空の戦いは、誰もが夢見るが実現できないネタ要素になっている部分すらある。

 だがこの黒竜は、ただでさえ厳しいインペリアル戦を上空から援護をしてくるというとにかくやっかいな敵。

 誰かが空中に留めておけば、戦いは楽になる。

 広がる大空。

 大きな緑の翼を広げるケツァールの背に乗り飛来するメイに、黒竜が気づく。

 そして、実質不可能とされている空中戦が始まる。

 先手を打ったのは、黒き翼竜ツァウバーフレーテ。

 吐き出す三つの火炎弾。


「まずは右! 次に左! そのまま上昇してくださいっ!」


 飛来する三連弾を、メイの早い指示で回避。

 そこから上方へ直進して、黒竜へ襲い掛かる。


「それーっ!」


 ケツァールのかぎ爪で、黒竜を切り裂きに行く。

 狙い通りケツァールは、通り過ぎ際に爪でその頭部を斬りつけたが、黒竜もスキル【硬竜鱗】で物理防御を高めダメージは僅少。

 すぐさま振り返って炎弾を放つ。

 これをケツァールは、大きな縦の回転飛行で回避。

 すると黒竜は、魔力を額の前に集束させていく。


「この感じ、危ないかもっ! 【ラビットジャンプ】! 【装備変更】!」


 ここでメイは、ケツァールの背を蹴って高く跳躍。


「ウォォォォォォォ――――ッ!!」


【遠吠え】で、黒竜のターゲットを自らに集中させる。

 直後、放たれる一本の熱線がメイの足の下を通り過ぎていった。

 わずかに遅れて空に広がる、猛烈な爆炎。


「「「ッ!!」」」


 その派手な炎に飲み込まれたメイを見て、あがる悲鳴。しかし。


「効きませんっ!」


 煙の中から落ちてきたメイは【王者のマント】で炎を払い、再びケツァールの背に着地。


「いきますっ!」


 そして三歩ほど後ろに下がると、一言合図をして助走をつける。


「【裸足の女神】【ラビットジャンプ】!」


 踏み切りはケツァールの首元から。

 幅跳びの要領で、今も広がる煙を切り裂きつつ跳躍。

 剣を振り上げる。

 しかしやはり敵は空を動く敵、このままでは届かない。


「大きくなーれ! 【アクロバット】からの【フルスイング】っ!」


 メイはそのまま空中で一回転、伸びた【蒼樹の白剣】を振り下ろして黒竜の肩口に叩きつける。


「「「おおおおっ!」」」


 あがる歓声。

 攻撃は確かに黒竜を捉えたが、スキル【黒竜硬鱗】によってダメージは減少。

 落ちていくメイをケツァールが下からすくう形で受け止め、戦いは続行する。


「すげえ……!」

「なんだよこれ……っ! こんな戦い方、可能だったのかよ!!」


 派手な空中戦に、震える観客たち。

 メイをひろったケツァールは、体勢を立て直した黒竜の斜め下。

 黒竜が口を開くと、現れる三つの魔法陣。

 咆哮と共に放たれるのは、三つの【氷塊弾】だ。

 喰らえばバランスを崩し、ケツァール共々落下する可能性があるその一撃。


「ここで止まって!」


 しかしメイは、なんとここで滞空を指示。

 ケツァールは指示通り、その場で翼を大きく一度羽ばたかせて滞空を選択。


「【装備変更】!」


 黒竜の一撃は魔法。

 そして大きな弾丸のような形を取っている。


「いきますっ!」


 メイが取り出したのは【魔断の棍棒】

 迫る氷塊弾に対して、大きく振りかぶる。


「それっ! それっ! 最後は全力【フルスイング】だーっ!」


 体勢を崩しながらも、全ての氷弾を打ち返したメイ。

 黒竜は初撃と二撃目をかわすが三発目の回避は間に合わず、属性攻撃対応の【柔竜鱗】でこれを受ける。

 しかし空中で体勢を崩し、羽ばたきが止まったことで始まる落下。

 ケツァールはメイと共に追撃に向かう。

 すると落ち行く黒竜の広げた翼の前に、現れる無数の小型魔法陣。

 次々に放たれる渦巻く緑光の塊は、触れれば炸裂する風の機雷だ。


「右! 次は左ですっ!」


 しかし風の機雷の隙間をケツァールは右に一回、左に二回の錐もみ回転でかわしていく。

 そしてようやく体勢を整えた黒竜の肩部に、かぎ爪の一撃がヒット。

 HPを1割強ほど減らした。


「もっと追撃をかけたいところだな……!」


 黒竜は翼を広げ、滑空することでこの場を退避。

 その背は狙いたい放題だが、この位置関係ではメイ側の攻撃手段が乏しい。

 観客たちは歯がゆい状況に唇をかむ。しかし。


「【装備変更】!」


 ここでメイが手にしたのは、身の丈を超える大きさの【王樹のブーメラン】


「【ゴリラアーム】! せーのっ! それええええええ――――っ!!」


 投じたブーメランは、大きな弧を描いて逃げる黒竜の背中を直撃。

 しっかりとダメージを与え、さらに1割のダメージを上乗せした。


「「「おおおおおお――――っ!!」」」


 戻ってきたブーメランを受け取ったメイに、歓声が上がる。

 こうして星屑史上初の空中戦は、メイとケツァールの優位で進んでいく。

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