第802話 砂の世界の攻防

 レンの壁抜け【フリーズブラスト】を受け、砂の上を転がっていく錬金術師インペリアル。

 それでも体勢を立て直し、立ち上がる。

 そしてレンが追撃で放った氷弾を、ギリギリでかわしてみせた。


「すげー戦いだな……壁抜け魔法、まさにクリティカルって感じだ」

「ふふふ、これこそ我らが使徒長の力」


 突然砂の世界に放り込まれても、見事に対応したレンに感嘆する掲示板組。

 しかし当然、HPの減ったインペリアルは戦い方を変えてくる。


「斬れ【ロックブレード】」


 インペリアルが右から左へ杖を振ると、それに合わせて逆立つ鱗のような岩剣が突き上がる。

 しかも、一払いで三連続。

 砂地に次々生まれる岩の刃は、突き上がる角度もまばら。

 さらにインペリアルはこれを右から左、左から右へと連発する。


「【低空高速飛行】!」


 折り重なるほどの岩刃を、レンはとにかく速い移動でかわして回避。

 するとインペリアルはその杖を掲げた。


「ッ!!」


 足元に砂の脈動。

 六枚の岩剣が一斉に突きあがり、角錐のような形で突き上がる。

 これを直線飛行で、一気に抜け出したレン。


「【刃の花】」

「ッ!!」


 聞こえた言葉に、砂に両踵をつけて慌てて急停止。

 すると直後、栗のイガを半分に切ったような形状の剣山が生まれ、肩を斬っていった。

 ダメージは1割に満たず、安堵の息をつくレン。

 しかし、インペリアルの攻勢は終わらない。


「【ロックアーム】」


 続々と伸び上がる砂が、岩の手に変わっていく。

 その狙いはやはり、叩きつけだ。


「【低空高速飛行】!」


 生まれては迫る岩の手は、一つ一つが車一台を叩き潰せるほどの大きさ。


「【旋回飛行】!」


 レンは追ってくる岩の手の間を弧を描く飛行で潜り抜けながら、魔法を放つ。


「【連続魔法】【誘導弾】【フリーズボルト】!」

「【ロックウォール】!」


 しかし氷弾は、岩壁に弾かれた。


「この連続攻撃中に壁も作れるのは反則でしょ!? 【連続魔法】【誘導弾】【フリーズボルト】!」


 それでもレンは、氷弾を打ち続ける。

 だがいくら角度を変えても、インペリアルは新たな壁を組みそれを通さない。

 そしてその執拗さに掲示板民が「……何かの策か?」と思った瞬間、レンは眼帯を放り投げた。


「立て過ぎた壁、囲まれたままじゃ逃げ場もないでしょうっ! 【氷塊落とし】!」


 インペリアルの頭上に現れた氷塊は、五つ。

 一気に落下し、ブロック壁にめり込む。


「うまいっ!」

「あえて壁を作らせて、逃げ場を失くしたのか!」


 思わず叫ぶ掲示板組。

 直後、ブロック壁が崩れ氷塊が砕け散る。


「くっ!!」


 これを喰らったインペリアルは、弾き出されて転がる。

 残りHPも4割を切り、静かだった所作にいよいよ荒々しさが見え始めた。


「喰い千切れ! 【ウルフファング】!」


 生まれる砂の狼は四体。

 猛然と駆け出し、レンを狙う。


「【フリーズブラスト】!」


 レンは迫り来る砂の狼に向けて、氷嵐を放つ。

 一体が巻き込まれて消滅。

 しかし残り三体は隙間を抜けてきた。

 そして跳躍、空中でその身体を岩へと変え大型化。


「ッ!!」


 レンはすぐさま横っ飛びでこれを回避。

 続く二匹も同様に、大型化からの喰らい付きを仕掛けてくる。

 レンはなりふり構わず、転がってこれを避ける。

 すると砂に突っ込んだ狼たちは、そのまま崩れ落ちて消えた。


「【シャークヘッド】!」


 直後、足元の砂が巨大なサメの頭部に変わる。

 その鼻先に、レンは上空へ飛ばされた。

 弾き上げた敵を、追って喰らう。

 そんな二段階の必殺攻撃を前に、レンは杖を交換。

 真下に下ろして息を吸う。

 そして満を持して喰らい付きに来た巨大岩ザメの口内に、【ヘクセンナハト】を向けた。


「【フレアバースト】!」


 岩へと姿を変えた巨大ザメの口内で、炸裂する爆炎。

 敵の身体は一時的に爆発的に膨らみ、そのまま爆発。

 巨大サメは、粉々に砕け飛ぶ。

 一方レンは着地寸前に【浮遊】をかけて、ふわりと着地した。


「今のが奥義だと助かるんだけど、どうかしら?」


 いよいよ隣の掲示板組をバンバン叩きながら「見ました!? あれがうちの使徒長なんです!」みたいなことを言い出す黒少女。

 そんな中レンは、髪を払って問いかけた。


「帝国にアダなす、害虫共が……」


 しかし苛立ちを隠そうともしなくなった錬金術師インペリアルは杖を高く掲げ、強烈な輝きを閃かせる。


「……消え去れ! 我が術の前に! 【エンデ・グラフシュタイン】!」


 再び空中に現れる巨大な魔法陣。

 空中に集まった砂が、無数の直方体に形を変えていく。


「終わりの墓標……そういうことっ! 【低空高速飛行】!!」


 その攻撃意図に気づいたレンは、すぐさま回避に入る。

 空中に現れた砂の直方体は岩板に代わり落下。

 砂の地面にめり込み、墓標となる。

 この重さ、喰らえば大ダメージは確実だ。


「【連続魔法】【誘導弾】【フリーズボルト】!」


 怒涛の落下を見せる『墓標』

 レンは低空飛行でかわしながら魔法を連射するが、落ち続ける岩板に邪魔され当たらない。

 さらに落下した無名の墓標は、砂に突き刺さったまま残存する。

 この位置関係では、攻撃を受ける一方だ。


「……接近しかない」


 レンは一度足を着き、一度大きく深呼吸。


「【低空高速飛行】!」


 回避に集中しながら、墓標の中心を目指す。


「っ!」


 途中足を着いては再度【低空高速飛行】を発動することで、細かな方向転換をしつつ進行。


「【旋回飛行】!」


 目前に落ちてくる岩板は、旋回を使って回避。

 さらに急な停止や回り込みを織り交ぜ、距離を詰めていく。


「見えた!」


 そして最後の一直線。

 真上から迫る岩板に、イチかバチかの勝負をかける。

 抜けられるかどうかはギリギリだが、レンはそのまま突き進む。


「抜けたーっ!」


 岩板は長い後ろ髪をかすめて、砂に突き刺さる。

 見事レンは、インペリアルがいる中央部分に転がり込んだ。

 前転の勢いに任せて立ち上がり、放つ魔法。


「最後は思わぬ近距離戦ね! 【フリーズボルト】!」


 すでに周りを四角い岩板に囲まれ、天から落ち続ける砂の中での戦い。

 学校の教室よりも一回りは狭い空間での、直接対決だ。

 インペリアルは飛来する氷弾をかわして反撃に入る。


「【ロックシェル】!」


 これをレンも、斜め前への動きで回避。


「【フリーズボルト】!」

「【ロックシェル】!」


 氷弾と岩弾がぶつかり弾け散る。

 一度でも隙を作れば、それが勝機となる。

 逆に一度でも大きな技を使って外せば、そのまま大技を喰らって敗北。

 自然と使用スキルは、小技となる。


「【スタッフストライク】!」


 ここでレンは【銀閃の杖】を全力で振り下ろしにいく。


「っ!」


 予想通り、錬金術師インペリアルは近接の武器攻撃への対応が弱い。

 慌てて砂の上を転がり回避する。

 一方勢い余ったレンは、岩板に手をつき振り返る。


「【フリーズボルト】!」

「【ロックシェル】!」


 今度はすれ違う二人の魔法が、互いをかすめていく。

 そのままレンは【旋回飛行】で反時計回りに移動。

 回り込むように移動し、再び杖を向ける。


「【フリーズボルト】!」


 そしてインペリアルの左肩を狙って攻撃。

 インペリアルも同様に、反時計回りでの回避を行ったところで――。


「【悪魔の腕】!」


 レンは使用後に隙の生まれるスキルを、ここで使用。

 砂に描かれた魔法陣から現れた黒い悪魔の腕の発生は、狙い通り敵インペリアルの左側。

 砂が舞う、強烈な叩きつけ。

 しかしこれをインペリアルは、必死の飛び込みでかわした。

 砂の上を転がり、体勢を立て直したところでレンに向ける杖。


「ロックエッジ――」


 足元から突き上げる錬金術を発動して勝負に出る。しかし。


「――――凍れ」


【スタッフストライク】をかわされた際、岩板についた手で刻み込んだルーン。

 反時計回りの攻防で半周し、入れ替わった位置。


「ッ!?」


 輝くルーンから生み出された氷剣の山が腕に刺さり、インペリアルはバランスを崩す。

 この隙をレンは逃さない。


「【低空高速飛行】!」


 最短最速で距離を詰める。

 この距離でインペリアルが放つ攻撃はまさかの『通常攻撃』

 杖の叩きつけをレンはスケートのような一回転でかわし、伸ばした掌をインペリアルに叩き込む。


「ぐっ!」


 弾かれ岩版に背中をぶつけるが、もちろん魔導士の突き飛ばしにダメージなどない。

 すぐさま杖をレンに向け、魔法攻撃を仕掛けようとする。しかし。

 すでにレンは、右手を前に突き出していた。


「――――燃えろ」


 指を鳴らすと、突き飛ばし時に刻んだ【燃焼のルーン】が炎を噴き出した。

 炎は猛烈な業火へと変わり、インペリアルを焼き尽くす。

 そして広がった砂の世界が、消え去っていく。


「結構冷や冷やしたわね……!」


 尻もち状態でその場に座り込みながらも、楽しそうに笑うレン。


「さすがレンちゃん!」


 ケツァールから見えた爆発炎上に、メイは「やったー!」と拳を突き上げる。

 その先に見えるのは、帝国が誇る最強の黒竜だ。

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