第801話 砂地の魔女
「よりによって、こういうマッチアップなのね」
黒髪ロングの女性インペリアルは、魔導士型。
濃灰色のマントに制帽という姿は兵士を思わせるが、黒い十字の杖には赤と金の小さな十字を組み合わせた装飾。
向き合う二人は、どちらも闇に属する者っぽい。
「間に合った! これは楽しみ過ぎますよ……っ!」
早くも素が出てしまう黒少女。
インペリアルは自ら距離を詰めてこず、それは後衛のレンも同様。
戦いはやはり、魔法対決からになる。
インペリアルの構え方は、特徴的。
まるでガトリング砲を持つように、杖を『提げる』姿勢で魔法を発動する。
「【ロックシェル】!」
「岩っ!?」
「【ロックシェル】! 【ロックシェル】!」
インペリアルは、拳サイズの岩弾を断続的に放つ。
「【連続魔法】【フリーズボルト】!」
しかし互いに連射で撃ち合う形式なら、レンに分があり。
あっという間に、押していく。
「攻め切る! 【超高速魔法】【誘導弾】【フリーズボルト】!」
『眼帯』を外しながら使えば、一斉に放たれる氷弾の最初の一つが超高速となる。
「っ!」
信じられない速度で飛んでくる氷弾。
これを慌てて横っ飛びでかわすが、追いかけてくる残り30発の氷弾をかわし切れない。
いくつもの氷弾が、防御に入ったインペリアルを大きく弾く。
「はあああん、使徒長……っ!」
黒少女、両頬を抑えて感動。
「黒の装備に氷魔法の組み合わせはやはり最高」と、大興奮だ。
しかし2割程度のダメージを受けたところで、インペリアルは早くも大きく杖を振り上げた。
「……何これ?」
空中に浮かぶ魔法陣の思わぬ大きさに、レンは驚く。
「【大砂落とし】」
直後、付近に大量の砂が降り始めた。
バケツをひっくり返したという言葉が合う、豪雨ならぬ豪砂だ。
「視覚阻害としては……少し弱い気がすぎるけど」
砂自体にはダメージも特殊効果もなし。
ただ帝国の石材造りの建物が、道が、一部だけ砂漠の街の様になっていくのはめずらしい光景だ。
そんな中、インペリアルは杖を輝かせた。
「【ロックエッジ】!」
「そういうことッ!!」
すると足元の砂が『サメの背びれ』のように突きあがり、2メートルほどの岩の刃となって迫る。
「アイン! ツヴァイ! ドライ!」
さらにそれを三連発。
レンはこれを慌てて右方向への移動でかわし、即座に反撃に入る。
「【連続魔法】【誘導弾】【フリーズボルト】!」
横っ飛びから放つ魔法が、敵をしっかり捉えられるのがレンの強み。
放たれた氷弾は弧を描き、インペリアルのもとへと迫る。
「【ロックウォール】!」
集まる砂が、ブロックに変換される。
生まれた防護壁の見た目は崩れかけの民家の壁のようだが、厚みもあり防御には十分。
迫る氷弾は、ブロック壁に弾かれた。
「魔導士ではなくて錬金術師だったわけ。それにしても面白い戦い方するわね……!」
二人を阻む壁。
こうなってしまった以上、互いに動いて攻撃を当てる必要がある。
「魔法を縦に曲げる形が一番かしら」
インペリアルがいるおおよその位置の空に向けて魔法を放ち、【誘導弾】の性能に賭ける形はどうかとレンが考えた瞬間。
足元に生まれる小型の魔法陣。
「そっちにはそういうのがあるのね……ッ!!」
慌てて横っ飛び。
直後、魔法陣は足元の砂を岩剣に変えて突き上げた。
「それならこっちは移動攻撃でいかせてもらうわ【低空高速飛行】【旋回飛行】!」
レンはインペリアルを中心にした旋回で回り込みつつ、再び魔法を放つ。
「【連続魔法】【誘導弾】【フリーズボルト】! 【連続魔法】【誘導弾】【ファイアボルト】!」
「【ロックウォール】! 【ロックウォール】! 【ロックウォール】!」
しかし錬金術師インペリアルも、レンの魔法に合わせて壁を設置。
魔法攻撃を阻む。
「これならどうっ! 【魔法蝶】【フリーズブラスト】!」
周りに4匹の薄青羽の黒蝶を舞わせて、戦闘方法を変更。
低空飛行中に何度も足を着き、直線移動を連続。
足元から突き上がる岩剣をかわして突き進む。
「見つけたあっ!! 【魔剣の御柄】!」
蝶たちが放つ氷弾をインペリアルがかわしたところを突き、『フリーズストライク剣』を発動。
「はあっ!」
「ッ!!」
振り払う一撃が、インペリアルの肩を斬る。
「【ロックエッジ】!」
すぐさま狙う反撃。
その初撃をレンが横っ飛びでかわすと、続く攻撃は魔法蝶が放つ氷弾に弾かれ強制停止。
さらにHPを削る。
「はあっ!」
レンの振り降ろしから振り上げという連続斬りを、必死のバックステップでかわすインペリアル。
「解放!」
直後放った氷砲弾が、その頬をかすめた。
レンはさらに踏み込み、今度は手にした杖を叩きつけにいく。
すると追い詰められたインペリアルは、十字杖を強く地面に突いた。
「【サンドスプラッシュ】!」
するとウォータークラウンのように弾き上がる砂が、刃となって弾け上がった。
「あっぶな!」
レンは慌てて急停止。
直撃を回避して尻もちをつく形になるが、しっかりと杖はインペリアルを捉えている。
「【ロックウォール】!」
しかし先んじて放つスキルが、砂をブロックに変えた。
「悪いけど、この位置関係は嫌いじゃないの!」
先行して防御壁を建てたことは、失敗だった。
「【ペネトレーション】【フリーズブラスト】!」
「なっ!? うああああああああ――――っ!!」
ブロックの壁を、突き抜け吹き荒れる氷嵐が直撃。
吹き飛ばされたインペリアルは、砂を巻き上げながら転がった。
「さすが使徒長だな。あんな相手に対応できるって……!」
「はぁぁぁぁん! さすがぁぁぁぁっ!!」
「黒少女ちゃん、段々隠さなくなってきてるよね」
「ふっ、さすがは使徒長」
「声が笑ってるぞ」
この見事な戦いぶりで、インペリアルはHPを大きく減らした。
しかしそうなれば敵は、当然その戦い方を変えてくる。
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