第800話 その一撃の名は
「【電光石火】!」
ツバメは【村雨】を手に、斬り抜けを始動。
インペリアルはこれを、右手の剣で防御した。
「【反転】【加速】【三日月】!」
頭を真っ二つにしてしまいそうな、縦の抜刀斬撃。
振り返りから即座に放つ一撃は、インペリアルには防御するのが精いっぱいだ。
響き渡る金属音と、弾ける火花。
反撃の右手剣の振り上げをかわし、続く左剣の振り上げもかわし、『×』を描く二刀の斬り下ろしも大きなバックステップで回避。
「【電光石火】!」
容赦のない、高速斬り抜けですぐさま優位を取る。
「【反転】【加速】【リブースト】【旋空】!」
「くっ! 【速歩】!」
通り過ぎ際の回転斬りを、インペリアルは慌てて距離を取ることで回避。
だがツバメは逃がさない。
「【電光石火】!」
飛び散る火花は、刀と剣がぶつかる音。
「【反転】」
「どれだ!? どれで来るんだ!?」
「【加速】【リブースト】」
注目されるのは【電光石火】の防御後。
毎回の違うスキルに、観客たちも思わず目を奪われる。
「【紫電】!」
「「「そうくるのか!!」」」
ここまで『どう対応して防御するか』を散々考えさせておいて、突然の防御崩し。
プレイヤー達どころかNPCすら反応に遅れ、電撃による硬直を受ける。
二度目の電撃攻撃は『喰らい時間』も短いが、それでも十分だ。
「【旋空】!」
斬り下ろし、斬り上げからつないだ回転斬りが、インペリアルを斬り飛ばした。
再び駆け出すツバメ。
しかし今回インペリアルは、駆け出すツバメの前に攻撃を『置ける』よう二本の剣を掲げる。
「【加速】【リブースト】!」
それなら、技が放たれる前に最高速で駆け抜けるのみ。
二本の剣が振り下ろされた時、すでにツバメはインペリアルの後方にいた。
「【反転】【稲妻】!」
再び大きく切れ飛ばされたインペリアル。
あっと言う間に削られたHPは、4割を切った。
すると変化が起きる。
手にした二本の剣が、赤色に染まる。
「【速歩】!」
早い踏み出しから払う右剣。
飛び散る血液が、刃となって襲い掛かる。
それは二刀流インペリアルの奥義【ブラッド・ブレード】
真紅の刃が、空を舞う。
「ッ!!」
剣撃が飛ぶような形になったことで、後方への回避は厳しくなる。
「【クロスブレード】」
右剣の払いから、時間差で振り下ろす左剣は血の『十』を描き飛んでくる。
しゃがみ、そして回転。
ツバメはこれをかわすも、前進はできない。
「【ダブルクロス】!」
続く攻撃は時間差『十』字から、さらに時間差で『×』を描く形。
右に回転し、しゃがみ、左に転がり、右に飛び込む。
「ッ!!」
体勢を崩したところに続くのは、垂直二本同時斬り。
「【ブラッドスラッシュ】!」
血の刃がギロチンの様に振り下ろされる。
ツバメは慌てて左に飛び込み、これをかすめるに留めたが、インペリアルは大きく踏み出し右剣を振るう。
弧を描く一撃は低く、しゃがみでかわせる低さではない。
「【跳躍】!」
そして跳べば当然、続くのは血の斬り上げだ。
「【連続投擲】!」
これをツバメは【ブレード】の投擲でけん制するが、インペリアルは【速歩】でかわして距離を詰めた。
左剣の振り上げから放たれる血の刃が、ついにツバメを捉える。
「ああっ!」
血の刃の直撃から落下で、2割のダメージ。
ツバメは二度ほど転がって立ち上がる。
「【速閃歩】!」
さらに速度を上げるインペリアル。
狂ったように振るう二本の剣、そして振り乱す血の刃は、もはや狂戦士のような戦いぶりだ。
『×』を描く斬撃の角度が先ほどとわずかに違ったことで、浅く削られるHP。
ツバメはジクザグの後退を繰り返し、ついに並ぶ建物の前まで押し込まれる。
そして突き出た二階ベランダの陰に入ったことに気づいた瞬間、インペリアルが半身の姿勢を取った。
「【ブルート・スプリッツァー】!」
地が揺れるほどの踏み込みから、赤く輝くエフェクト。
「乱舞ですか……っ!!」
二刀流剣士の最終奥義はやはり、乱舞。
強烈な踏み込みから、飛び散る血しぶき。
右剣の振り降ろし、左剣の振り降ろし、回転して右剣を払い、左剣で突く。
背中側を回ってきた右剣の振り降ろし、左剣で遅れて放つ振り降ろしから、そのまま二本並行の回転撃。
「ッ!!」
血の刃を生み出す高速乱舞は後半ほど早く、必死の回避で対応するがその全ては不可能。
右剣の振り降ろし、続く左剣の振り上げ、そして最後の左剣を返しての振り降ろしという最後の三発は防御して、2割強のダメージを受けた。
「【加速】!」
だが少なくとも、大技を耐え抜くことには成功した。
大きく弾かれたツバメは、すぐさま走り出す。
戦いの中で不意に生まれた『往復』の連携。
さらなる思い付きから、ツバメはここで【クールタイム減少薬】を使用。
これは商人街へ行った際に見つけた、レアな掘り出し物だ。しかし。
「【ブルート・スプリッツァー】」
「「「ッ!?」」」
最終奥義となるスキルの、あまりに早い二発目に皆驚く。
インペリアルの仮面からこぼれる血。
どうやら、多くのHPを犠牲にすることでクールタイムを減らすというスキルのようだ。
「これはマズいぞ!」
「次の乱舞を受けたらもう……っ!」
聞こえた声に、しかしツバメは息をつく。
「受けて立ちます」
二度目の乱舞に目を凝らし、あえて立ち向かう形を選択。
二連続の振り降ろしから続く回転斬り、そして左剣での突きは問題なく回避。
背中側からくる大きな振り降ろしの二連撃を右左のステップでかわし、続く二本同時の並行回転撃に、勝負を賭ける。
一度目の乱舞ではここでその迫力に大きく頭を下げたため体勢を立て直し切れず、続く三連撃を防御することになった。
狙いは、メイのような『センチ単位』の回避だ。
失敗すれば四連撃をもらい、即死の可能性が高いが――。
「……ここです!」
迫る並行回転撃。
ヒザを曲げる角度に集中し、勝負に出る。
直後。頬に風を感じるほどの一撃が、頭上わずか1センチのところを通り過ぎていった。
ここからは右剣の振り降ろし、続く左剣の振り上げ、そして最後の左剣を返しての振り降ろし。
これなら最低限の動きで避けられる。
血の刃は、ツバメの長い黒髪をわずかに散らしていく。
そして剣舞最後の一撃を見事にかわしたツバメはすでに、【村雨】を柄を握ってわずかに腰を落としている。
「【電光石火】」
高速の斬り抜けを、乱舞直後のインペリアルは守り切れず腹を斬られた。
「【反転】」
振り返りは最速。
刀はすでに鞘の中。
放つは、最強の斬撃。
「――――【斬鉄剣】」
インペリアルは喰らいモーションが解けた直後に振り返り、ツバメの発動するスキルを目で確認。
急いでもう一度防御体制に入ろうとするが――――間に合わない。
ツバメの前後、約300度を駆け抜ける斬撃の刃が閃き、インペリアルの動きが止まった。
そっと【村雨】を鞘に戻すと、巻き起こった風にバサバサとなびいていたツバメの髪が止まる。
そして収めた刃が、カチンと音を鳴らした瞬間。
「ぐ、ああああああっ!!」
インペリアルはその場に崩れ落ちる。さらに。
「「「ッ!?」」」
今度は建物のベランダに当たる部分が斬り取られ、遅れて滑り落ちてきた。
落ちたブロックは砕け、砂煙をあげる。
「なんだこれ……」
「あの返しの刃、どうやって対処するんだよ……?」
【斬鉄剣】は使用後の隙は長いが、発動から振り終わりまでは異常なほど速い。
斬り抜け後に敵が振り返った瞬間にはもう、剣閃が放たれているような状況だ。
よって振り返って状況を確認してからどうするかを選んだのでは、その後の行動がほぼ間に合わない。
「――――ツバメ返し」
そんな恐ろしい連携を前に、誰かがぽつりとそんな異名をつぶやいた。
「……さすがツバメね。独自の攻撃連携に呼び名が付くのって初めての事じゃない?」
そのすさまじさにレンは笑い、迫るインペリアルに再び杖を向ける。
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