第799話 村雨の戦い方

 始まったインペリアルとの戦い。

 メイは上空へ、まもりが格闘型との戦いを始めれば、流れは自然と各個撃破の様相になる。

 ツバメの前に立つのは、各所の鎧パーツを抜きライトアーマー化した敏捷型の二刀流剣士。

 その特徴は、短剣ではなく『剣』の二刀流ということだ。


「【加速】」


 先手を打ちに行くのはツバメ。

 手に【村雨】を持てば、いつもより間合いが長くなる。

 まずはシンプルな斬り下ろしから、斬り上げ。

 これを二刀流インペリアルは、身体の傾けでかわす。


「【旋空】!」


 ツバメはそのまま、流れるように回転斬りへ。

 インペリアルは、バックステップで距離を取る。


「【三日月】!」


 下がったインペリアルを追うような形で放つ、抜刀斬り下ろし。


「ッ!!」


 これに虚を突かれたインペリアルは、慌てて剣の刃を合わせて弾く。

 どうやら防御は、剣で受ける形を取るようだ。

 弾かれる両者。

 しかし先んじて体勢を立て直したツバメは、攻勢を続ける。


「【電光石火】!」


 放つ斬り抜けに対し、インペリアルは手にした剣でこれも防いだ。

 刃のぶつかる音が響き渡り、ここでインペリアルが攻撃に転じる。

 踏み込みからの右剣の振り降ろし、その後を追うような形での左剣の振り降ろし。

 これを左右の動きでかわすと、そのまま一回転して剣二本を同時に使った斬り払い。

 しゃがみでの回避を成功させ、顔をあげる。

 するとそこには、二本の剣を右肩の上に掲げたインペリアル。

 そのまま二本まとめて振り下ろす。


「っ!」


 喰らえば攻撃二回分のダメージを受けるのが、剣の二刀流の強さだ。

 ツバメは急ぎのバックステップでこれをかわす。

 するとインペリアルは踏み込み、右剣で大きな払いにつなげてきた。

 これをツバメがしゃがんでかわしたことで生まれる隙。しかし。

 返す刃は速く、かつ二本同時。

 ハサミの様に左右から挟み込む剣撃が、ツバメを切り裂きにいく。


「っ!」


 これをギリギリのところでバックステップ回避。

 するとインペリアルは速い踏み込みから、左右の二連突き。

 その二発目が、ツバメの鼻先に触れた。

 ダメージの判定は極小。

 ツバメは二連突きを連携の終わりと判断し、反撃に出る。


「【電光石火】!」


 再び放つ斬り抜けは、左の剣に防がれる。


「【反転】【稲妻】!」


 しかし即座に振り返り、雷光を描いて進むツバメの刀の振り上げ。

 インペリアルは、これも右手の剣でどうにか受ける。

 弾かれる両者。

 ツバメはすぐさま【電光石火】を再発動。


「【電光石火】【反転】!」


 再び斬り抜けを防御させたところで振り返る。


「【加速】【リブースト】【旋空】!」


 今度はあえてインペリアルの真横を、わずかに通り過ぎてからの回転斬り。

 これが回避に動く途中だったインペリアルの、脇腹を斬る。

 それでもまだ止まらない。

 ツバメは振り返り、さらに攻勢を続ける。


「【電光石火】【反転】!」


 これを防御させたところで振り返り、再び接近。


「【加速】【回天】!」

「ッ!!」


 高速の斬り抜け、通り過ぎてからの回転斬りときて、今度は正面からの前方宙返り斬り。

 敏捷の高いインペリアルだがやはり回避は難しく、これを必死の剣防御で耐える。


「すげえ……『行って戻る』斬撃、振り向いてからの回避は難しそうだな」


 敏捷型のインペリアルを防戦一方にしてみせるツバメに、息を飲む観客たち。

 毎回流れを変える連続攻撃で、ツバメは一方的に敵を削ってみせた。

 インペリアルの反撃は、接近から右剣の振り降ろし。

 これをかわすと、続けて放たれる踏み込みからの左剣振り上げが空を斬る。


「【飛剣】!」

「ッ!!」


 ここでまさかの、右手剣投擲。

 ツバメはこれを身体を大きく反らすことで、頬をかすめるにとどめる。


「【投擲】!」


 対してツバメも即座に投擲で対抗、これはインペリアルの腕を斬っていく。

 だがこちらは【雷ブレード】

 かすめれば、それで十分だ。


「ぐっ!」


 電撃を喰らったインペリアルは、身体を硬直させる。


「【稲妻】!」

「うああああああ――――っ!」


 雷光を描いて迫る振り上げは、空中に美しい剣閃を描き出す。

 派手さはなくとも美しい刀特有のエフェクトに、観客たちは思わず息を飲む。

 そして抜刀斬りは威力こそ高いが、追撃には少し遅くなる。

 この隙に起き上がったインペリアルは、剣をひろい直した。


「刀に変えてもあんなに戦えるのか……」

「アサシンちゃんやるなぁ」


 聞こえる感嘆の声の中、互いに向き合い再始動。


「【速歩】」


 インペリアルは、細かい足の運びで一気にツバメのもとに駆け込んでいく。


「【クロスブレード】!」


 両手の剣を『×』の形に振り上げると、生まれる空刃。

 これをツバメは、バックステップからのしゃがみで回避。

 するとインペリアルは、振り上げた剣をそのまま叩きつけにくる。


「【リバースブレード】!」


 返しは『V』を描く二本同時の振り降ろし。


「ッ!!」


 振り下ろされた剣に、魔力光。

 真っ直ぐに駆け抜けていく衝撃波が、右に避けたツバメの肩をかすめていく。

 安易な後退の連続で回避を狙っていたら、ここで大きなダメージを受けていただろう。

 サイドステップを選んだことが、ダメージを軽微なもので済ませてくれた。

 だが攻勢は終わらない。

 インペリアルは踏み込み右の剣を外へ払い、再度の挟み斬りを放つ。


「ッ!」


 続けてもう一歩踏み出し、今度はハサミを開く形の斬撃へ。

 しゃがみからの後転を強いられたツバメはさらに下がろうとするが、二連突きの速さに横移動での回避を選択。

 するとインペリアルはそのまま一回転し、二本の剣を重ねるような形で斬り払いを仕掛ける。


「……この勢い、仕方ありませんっ!」


 初見の戦闘法に押されるツバメは、嫌な予感を覚えつつさらに後方へ跳躍。


「【ダブルブレード】!」


 直後の攻撃は、二本の剣の振り下ろし。

 予感は当たる。

 振り下ろされた二本の剣から放たれる衝撃波が、バックステップ直後のツバメに直撃。

 猛烈な衝撃が、ツバメを粉々に消し飛ばす。


「「「ッ!?」」」


 インペリアルと観客たちが、慌てて視線を動かす。

 消えた【残像】に代わって現れたのは、【村雨】の柄に手を添えたまま静かにたたずむツバメ。

 激しい剣舞の直後。

 わずかに腰を落とした状態から、発動するのは――。


「――――【斬鉄剣】」


【村雨】で放つ抜刀の一撃は、閃く光のエフェクトと共に。

 斜めに払う超高速斬撃のスイングスピードは、視認できるギリギリといったレベルの速さ。


「な、にィィィィッ!?」


 インペリアルは発動直前から防御状態に入っていたことが功を奏し、生き残ることに成功。

 しかし剣は欠け、鎧には深い切り傷が刻まれ、大きく弾き飛ばされて転がった。

 そして防御してもなおその威力は高く、HPが6割ほどまで減少。


「……お、おい。見ろあれ」


 鞘に戻す刀、美しい残身。

 その時間の長さは、強力な抜刀スキルゆえ。

 刀身を全て納めカチンと鳴らすと、ツバメの背後の石柱が二本、遅れて滑り落ちる。


「オブジェクトまで斬るのかよ……っ!」


 斜めに斬れ落ち倒れた石柱に、驚きの声を上げる観客たち。

 剣撃の軌道上にある一部オブジェクトは、斬られて落ちる。

【斬鉄剣】の持つその特別なエフェクトに、思わず鳥肌を立てたのだった。

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