第797話 インペリアルガード

 正面に当たる門から入って、少し進んだ先の前庭に作られた特設のコンサート会場。

 そこへ向かうため、皇帝ルーデウスは歩を進めていく。

 広い中央の道は幾本もの石柱で飾られ、左右に国教の神殿や官職につく者の研究棟などが並んでいる。

 この道を南に進んでいくと前庭へと続く形だ。

 メイが黒竜を追って空へ向かったため、こちらの残りは三人。


「皇帝ルーデウス・ガルデラ閣下の命により、処刑を開始する。消えろ――――卑しき反逆者ども」


 最初に動き出したのは、鎧姿にナックルを付けたインペリアル。

 そしてナックルの内側には、魔法珠。

 見ればブーツの踵にも宝珠が埋め込まれている。


「【ジェット・ラウフェン】【首狩り蹴り】!」


 速く、そして長い低空跳躍から放つのは、鎌のような蹴り。

 首を狩るような角度で迫る蹴りで、容赦なくまもりを狙う。


「【地壁の盾】!」


 まもりは身体を驚きにすくめながらも、これを見事に防御。

 豪快に弾け飛ぶエフェクトと衝突音が、戦闘開始の合図になった。

 互いに弾かれる、まもりとインペリアル。

 もちろん格闘型インペリアルは押してくる。

 右拳、左拳、そして回転蹴り。

 続く連撃をまもりは、シンプルな防御でさばく。


「はあっ!」


 するとさらにインペリアルは右拳を二発。

 これを防御したまもりに向けて続けざまに出す左手は、拳でなく掌。

 直後、ナックルに埋め込まれた魔法石が輝く。


「ッ!!」

「【バスターフレア】!」


 放たれる魔法は、狭い範囲ながらに強烈。

 赤熱の爆破が、一瞬遅れて炸裂する。


「【天雲の盾】ッ!!」


 虚を突かれたまもりだが、それでも防御には成功している。

 わずかに弾かれてこそいるが、ダメージはなし。

 どうやら敵は、魔法を挟む格闘家のようだ。


「すげえ……あれが盾子ちゃんか」


 初めてまもりの防御を間近で見る観客たちが、そのすさまじさに驚く。

 今回は拳撃の多い相手ゆえに、手数も多い。

 対してまもりは常に恐る恐るなのに、それでも防御は完璧だ。


「【跳躍】【雷蹴】!」

「ッ!?」


 インペリアルは大きく跳躍。

 すると空中で脚部の宝珠に雷が発生。

 雷光をまとったまま、蹴りを放つ。


「【天雲の盾】!」


 ツバメの【紫電】のように、当てれば防御されても通電による隙を作れるそのスキル。

 まもりは狙いに気づいて、魔法防御でこれを受ける。

 まばゆい光と共に散る輝き。

 着地に生まれるわずかな隙を狙い、まもりは盾を引く。


「【シールドバッシュ】」

「くっ!」


 大きな踏み込みから放つ盾の払いが衝撃波を生み、インペリアルを大きく弾きとばした。


「【ローリングシールド】!」


 すぐさま縦の振り払いで続くも、身軽なインペリアルはこれをバックステップで回避。


「【ストライクシールド】!」


 続けざまに放った左盾の投擲も、格闘型の回避力が浅い当りにとどめた。

 ダメージは1割に届かないほどだ。


「盾子ちゃん、なかなか攻めが決まらない感じだな」

「でも、ダメージは全然受けてないんだよな」


 インペリアルは、生まれた距離を再び詰めにいく。


「【影送り】」


 そして突然、その姿が掻き消えた。


「ッ!!」


 現れたのは視界の左側から。

 右拳、左拳、そして大きく振りかぶっての右拳。


「【サンダーボルトブロー】!」

「【天雲の盾】っ!」


 これを感電対策に、念のため魔法防御盾で受けられるのがまもりの強さ。


「【影送り】」


 しかしほとんど瞬間移動のこのスキルは、まもりを防戦一方に追い込んでいく。

 次に現れたのは、視界の右側だった。


「【破敵乱舞】!」


 左拳から右拳、そして右の蹴り。

 相手の速く範囲の小さい攻撃に合わせて、まもりは右の盾をやや小型な三角のヒーターシールドに交換。


「【クイックガード】! 【地壁の盾】盾盾!」

「【バスターフレア】!」


 振り返りから放つ魔法に対して、まもりは即座に左の盾で使用スキルを切り替え対応。


「【クイックガード】【天雲の盾】!」

「【ライトニングフック】! 【ショットガンフレイム】!」

「【地壁の盾】【天雲の盾】!」


 見事、拳打と魔法を織り交ぜた全攻撃に対応。

 これには掲示板勢も息を飲む。


「【影送り】」

「ッ!?」


 しかし三度目の瞬間移動は、視界から完全に姿を消す形だった。

 まさかの事態に硬直するまもり。


「…………!」


 しかし同時に思い出す。

 ツバメ曰く『メイの戦い方をマネするのは難しいが、参考にすると戦いが変わる』とのこと。

 まもりは【敏捷】型ではないが、確かに目の前で見てよく覚えている。

 それは二頭の狼相手のミッション。

『相手が見えなくなった時メイは視線を上げ、そこにいなければ後方』と判断していた。

 視界上部に、インペリアルの姿はなし。


「【エクスプロードナックル】!」

「【天雲の盾】――っ!」


 背後から放たれた、盛大な爆発を巻き起こす一撃。

 まもりはイチかバチか、振り返りの防御で迎え撃つ。

 すると火花をまとった爆炎ナックルは、まもりの盾のど真ん中に直撃して炸裂。

 巻き起こる爆発に遅れて衝撃波が巻き起こり、強烈な風が吹く。


「背中に目でもあんのか……?」


 驚きに息を飲む見学者たち。

 だがこれだけで終わらない。


「【首狩り蹴り】!」


 なんとインペリアルの連携の最後の一撃を、まもりは思い切ってしゃがみで回避した。


「【魔神の大剣】!」


 そして完全な隙を作り出すと、すかさず攻撃に出て見事に1/5を引き当てる。


「ぐっあああ!」


 大剣の振り上げを喰らったインペリアルは吹き飛び、そのまま地面を転がった。


「「「うおおおおおおおお――――っ!!」」」


 一連の流れに、観客たちは思わず声を上げ拳も突き上げる。

 完全な防御型ゆえに、反撃に難しさもあった敏捷タイプとの戦い。

 まもりは思い切って『回避』を選び、反撃を成功させてみせた。


「メイちゃんたちは、こんなとんでもない子をどこで見つけてきたんだ……!」

「野生組、鬼人ばっかじゃねえか!」


 盛り上がる掲示板組と観客たち。


「う、う、上手くいきました……っ」


 そんな中、回避からの一撃を見事に決めたまもりだけが、ドキドキそわそわしているのだった。

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