第796話 皇帝のプライド

「これで、鍵も無事に使い切れたわね」

「一気にいっちゃいましょう!」

「はい」

「き、緊張します!」


 レンは気合を入れつつ、ちょっとコソコソしながら眼帯と包帯を装着。


「これを見ると、いよいよだなって感じるね!」

「はい」

「……それはちょっと恥ずかしんだけど」


 狼たちからもらった鍵を使用し、新たなスキルを手にしたメイたち。

 第二王子も場外へ逃がした今、あとは建国祭の大イベントであるコンサートへ向かう皇帝ルーデウスを討つだけだ。

 メイたちは駆け出し、城の南通用門近くに建てられた野外ホールへと向かう。

 建国祭における最大のイベント。

 コンサート会場の造りにもかなり力が入っており、石造りだが半円形の壁を背後に作ることでしっかりと音の反射を考えてある。

 またその壁にも紋様が刻まれ、帝国の紋章が刺繍された垂れ幕が何枚も飾られている。

 現実世界ではなかなか見られない趣だ。


「いたぞ! 侵入者だ!」


 上がる声は兵士たちのもの。

 いよいよ最後は建物の並ぶ区域の中央道を進み、会場入りする皇帝を狙うだけだ。

 突き進むメイたちに、剣を手にした兵士たちが襲い掛かる。


「【フリーズブラスト】!」


 敵数は百に届かない程度。

 レンはまず戦闘力の高い兵長を避け、続く兵士たちに氷嵐を叩き込み数を減らす。


「【バンビステップ】【フルスイング】!」

「【ソードバリアー】!」


 兵長は盾でメイの振り払いを防御する。

 しかしその威力は抑えきれず、吹き飛び兵士を巻き込んで倒れた。


「【氷塊落とし】!」


 その隙を突き、レンが魔法でさらに数を減らす。


「【稲妻】!」


 ツバメがもう一人の兵長に強烈な斬り上げを叩き込み、大きく体勢を崩したところに兵士たちの魔法が迫る。


「【フレイムシェル】!」

「【ウィンドシェル】!」

「【ポイズンシェル】!」


 統制の取れたスキル使用は兵士らしい攻撃だが、見た目も似てしまっていることは失敗だ。


「【かばう】【天雲の盾】!」


 まもりの盾防御一つで、全てまとめて霧散する。

 そして距離を詰めたまもりはそのまま、突撃してくる兵長に向けて盾を全力で押し付ける。


「【シールドバッシュ】!」

「うおおおおっ!?」


 弾き飛ばされた兵長は、こちらも背後の魔法兵たちにぶつかり倒れた。


「【疾風迅雷】【加速】【加速】【加速】!」


 HPの減った兵士たちは【村雨】の斬り抜け攻撃で十分。

 風の様に兵士たちの間をすり抜け打倒。

 この争いに気づき、さらに駆けつけてくる兵士たちは――。


「大きくなーれ! 【フルスイング】!」


【蒼樹の白剣】による豪快な振り降ろしで一網打尽。

 メイたちは足をほとんど止めることもなく、中央道へ駆けつける。


「いたよ!」


 メイの目が、まさに中央の道を移動する一団を発見。

 この日のために用意された赤じゅうたん。

 他の兵とは明らかに違う、濃灰色に金の装飾が施された鎧。

『インペリアル』はその豪華な装備で、威風堂々と道を進む。

 そしてその真ん中にいるのは、皇帝ルーデウス・ガルデラだ。

 兵士たちを片付けたメイたちは、そのままその目前に立ち塞がった。


「何者だ」


 皇帝を守るように、前に出る三人のインペリアル。

 背後には上級兵士が一人、従者として随行している。

 ルーデウスは異変を前に、慌てることもなく視線を向けてきた。


「刺客というわけか」


 しかし皇帝は、メイたちを歯牙にもかけないといった体で、冷ややかな視線を向けてきた。


「我が道の前に立った身の程知らずには、立場の違いを教えてやれ。生かしておく必要はない」

「「「ハッ!」」」


 短く応えるインペリアル。

 そんな中、最後尾にいた重装の兵長が声を上げた。


「こ、皇帝陛下、やはりこのような状況下では危険です。やはりコンサートは控えられた方が良いのでは――」

「……誰がこのルーデウスに、意見しろと言った?」

「も、申し訳ございませんッ!!」


 皇帝はなんと、重装の上級兵を片手で持ち上げ問いかける。


「覇を成す国の王自らが指揮を執るコンサートを、取るに足らないゴミのために止めるなど、ありえぬだろう?」


 そう言って、重装の戦士を放り投げた。


「ぐああっ!」


 そのまま壁にめり込むほど強く叩きつけられた兵長は、その場に崩れ落ちた。

 しかしルーデウスは、気にする様子もなく歩き出す。


「貴様らはガルデラ帝国のインペリアルとして、職務を尽くせ」

「「「ハッ!!」」」


 インペリアルにそう指示した皇帝は、もはや興味もないとばかりに歩き出す。

 メイたちにも背を向ける形で。


「それがさすがに脇が甘いんじゃない!? 高速【誘導弾】【フレアストライク】!」


 レンは単体になった皇帝ルーデウスに炎砲弾を放つ。しかし。

 振り返ったルーデウスは、なんとその右手一つで炎砲弾をつかみ――――そのまま握り潰した。

 粉々になって飛び散る火の粉。


「児戯だな」


 こちらを見下すような表情で、ルーデウスはつぶやく。


「貴様ら程度のアリに、この巨大な帝国を変えることなど永久に不可能だ」


 そう言い残して、立ち去っていった。


「やってくれるわね」


 静かに武器を構える、三人のインペリアル。

 自然とメイたちも、戦いの割り振りを思い描くが――。


「三体じゃない! 四体だよっ!!」

「あれは……っ!」


 メイが指さした先にいたのは、開会式で宙を舞っていた黒い竜。

 一直線に、こちらに向けて滑空してくる。


「み、皆さん私の後ろに! 【天雲の盾】っ!」


 まもりが慌てて盾を黒竜に向け、スキルを発動。

 三人がその背後に隠れるのと同時に、黒竜がブレスを吐いた。

 そしてそのまま空中へと戻って、さらに四発の炎弾を放つ。


「もう一度!【天雲】の盾っ!」


 これもまもりが防ぎ、直後にレンが黒竜に杖を向ける。


「【超高速魔法】フレア――」

「【マギカエッジ】!」

「ッ!!」


 レンは慌てて回避する。

 敵インペリアルの魔力弾に、黒竜への攻撃は阻まれた。


「空から攻撃し放題ってのは……さすがに厳しいわね」


 目前のインペリアルたちは、どう見ても別格の敵だ。

 地上戦の相手と同時に、空に意識を割くというのはさすがに難しい。


「レンちゃん、ここはわたしにおまかせくださいっ!」


 この厳しい状態の中。

 空を自在に舞う敵に対し、メイは右手を高く突き揚げた。


「それでは――――何卒よろしくお願いいたします!」


 空中に現れる魔法陣。

 そこから飛び出してきたケツァールに飛び乗ったメイは、そのまま空へ。

 ケツァールに乗ったまま、宙を舞う黒竜に向けて一直線に飛行する。


「お、おい見ろ! あのドラゴンに向かっていくの、メイちゃんだぞ!」

「本当だ! おい、こっちで戦いが始まるぞ!」


 そして空を行くメイに気づいた観客たちが、続々と集まり始めた。

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