第792話 vs帝国スライム分隊

「第二王子には……帝国に反旗を翻す者たちへの見せしめになってもらうぽよねぇ」


 乗っけた濃灰色のコートをなびかせながら、兵長スライムが悪人口調でする宣言。

 こうなってしまったらもう、掲示板組のテンションは全開だ。

 そして広い中庭から建築区画へとつながるこの場所なら、大きな戦いをすることも可能。


「かかれぽよーっ!」

「「「おうっ!!」」」


 兵長スライムの号令に、帝国兵プレイヤーたちが動き出す。


「先手は後衛組ぽよ!」

「【炸裂炎弾】!」

「【フレイムエクスプロード】!」

「【アローレイン】!」


 メイとツバメによる超高速特攻からの無双を防ぐため、先んじてけん制を放つ。

 そして仮に大技を受けても即敗北とならないよう、前衛を中心にした先行組を二つ作って左右から迎撃に向かう。

 そんな中、中央に飛び出してきたのは黒少女。


「使徒長、まさか貴方まで帝国を裏切るなんて……っ!」

「みんな本当にノリがいいわね!」

「帝国で一緒に闇の使徒を大きくしていこうと、約束したのに!」

「新しい設定を加えないで!」

「【三連射】【アイシクルエッジ】!」

「【連続魔法】【フリーズボルト】!」

「「ッ!!」」


 黒少女の放つ氷の刃が、レンの氷弾とぶつかり弾ける。


「切り裂いて【氷のイバラ】!」


 黒少女が両手を開くと、地面を伸びる氷の枝から氷刃が生える。


「また面白い魔法を……っ! 【低空高速飛行】【旋回飛行】!」


 レンは攻撃範囲を視認し、その範囲外へと抜けていく。


「【連続魔法】【誘導弾】【ファイアボルト】!」


 大きく旋回しながら放つ炎弾は、弧を描いて黒少女のもとへ。


「さすが使徒長……! 移動しながらの魔法がしっかり的を捕らえにくる……っ!」


 これを肩に受けながらも、黒少女は右手に持った杖を掲げる。


「顕現せよ、冷徹なる零度の白牢【臨界氷樹】!」


 渦巻く冷気が、レンの足元に集まっていく。

 そして急速に降りる霜が、一気に氷の大樹を生み出す。


「あっぶな!」


 この氷樹に巻き込まれれば凍結。

 そして直後の爆発を喰らってダメージ。

 そんな魔法を、レンは装備を氷雪に白く染めながらも飛び込み回避。


「戦い方的には『樹氷の魔女』ってところかしら? 急にレベル上がりすぎじゃない?」


 二段階効果を持つめずらしい魔法に、思わず声を上げる。


「撃てーっぽよ!」


 こうしてパーティの『頭脳』であるレンを、黒少女が足止めしている間にスライム兵長が次の指示を出す。


「後衛は第二王子をターゲットにしてくるのね!!」

「【乱れ氷弾】!」

「【エアカッター】!」

「【サンダーボルトアロー】!」


 先行組の動きにメイとツバメが対応しにきたのを見て、第二王子へ遠距離攻撃を仕掛ける。

 この状況は確かに、防衛対象の守りが手薄だ。


「き、きききましたっ! 【かばう】! 【クイックガード】【天雲の盾】盾盾盾!」


 しかし手薄なのは、それだけ防御に自信があるがゆえ。

 大慌てで第二王子の前に立ったまもりは、飛来する魔法攻撃を盾で完全ガード。さらに。


「【ギガントサンダー】!」

「【マジックイーター】!」


 掲示板組魔導士の放った上級魔法を察知し、即座にスキルを切り替えた。


「まだまだ! 【貫け矢】!」

「【地壁の盾】!」


 カーン! と響き渡る矢と盾のぶつかる音。

 続く矢の攻撃を盾で弾いたところに、駆け込んでくる一体の忍者。

 スライム兵長は魔法攻撃と共に、近距離対人戦を得意とする刺客を遊撃として動かしていたようだ。

 高速移動スキルで跳び込んできた忍者は、まもりに向けて直進する。


「盾の防御は手が付けられないほどの鉄壁。だが攻撃は手数が少ない! それはすなわち、敏捷に利がある俺が貴様を足止めすれば、その隙に王子を狙うことができるという――」

「【ギガントサンダー】!」

「なっ!?」


【マジックイーター】のシステムを知らない掲示板民忍者、視界を焼くほどの雷光を一人でその身に受ける。


「うあああああああ――――っ!!」


 伏兵のごとき登場を見せた忍者は、こうして打倒された。

 この鉄壁の守りがあるゆえに、メイたちは『引き』ではない戦いが可能になっている。


「今ぽよっ!」

「「「死兵召喚!」」」


 メイから数メートルの距離に、スライム兵長の指示で集ったのは三人のネクロマンサーたち。

 足元に生まれる、三重の魔法陣。

 その外辺に当たる部分に現れるのは、合計60体に登る死兵たち。

 メイは一瞬で取り囲まれてしまった。


「この状態ならどこに攻撃をしても、必ず背中側が空くぽよっ! できた隙を逃がしちゃダメぽよっ!」


 その言葉に、NPC兵士とプレイヤーたちも攻撃体勢に入る。


「【装備変更】!」


 するとメイは、頭装備を【狼耳】に変更。


「ウォオオオオオ――――ッ!!」


 あえて【遠吠え】で、ターゲットを自分に集める。

 そして囲みの輪が目前まで迫ったところで、両足を大きく曲げると――。


「【ラビットジャンプ】!」


 そのまま、真上へ跳躍。


「【加速】【リブースト】【跳躍】!」


 すると跳んだメイの真下に代わりに、ツバメが飛び込んできた。


「【アクアエッジ】【瞬剣殺】」


 その手はまた、二刀流に戻っている。

 広がる水刃の乱舞は、集まっていた敵兵たちをまとめて斬り飛ばした。


「ツバメちゃんっ!」


 落ちてきたメイのウィンクに、ツバメは意図を理解。

 メイをそのまま受け止める。


「ありがとーっ!」


 うれしそうに、満面の笑みを向けるメイ。


「…………は、はい」


 ツバメ、受け止められる側でも受け止める側でも赤面する。


「見事だな」


 そんな中、我こそはと出てきたのは掲示板組の中でも準トップ級の実力を持つ重装騎士。


「ここはお任せください」


 ツバメはメイに、他前衛組の相手を任せて立ち塞がる。


「アサシンよ、帝国を裏切ったことを後悔させてやろう」

「……民から奪うことで贅を尽くす国に、未練などありません」

「行くぞ!」


 重装騎士がハルバードを構えた、次の瞬間。


「【疾風迅雷】【加速】【加速】!」


 ツバメが走り出す。

 真正面からの接近に対し、重装騎士はハルバードの振り払いで対応。

 その軌道は、しゃがんでも回避が厳しい角度。


「【スライディング】【反転】」


 しかしツバメはさらに低い位置をすべり込み、即座に振り返る。

 そしてそのまま、背中に二連撃を叩き込んだ。


「くっ!」


 慌てて振り返る重装騎士。


「【電光石火】【反転】」


 しかしその瞬間を狙い、斬り抜けで再び背後へ。

 さらに振り返って斬撃を叩き込む。


「舐めるなぁぁぁぁ!! 【灰塵旋風】!」


 重装騎士は大きな一回転の払いで、ツバメを吹き飛ばしにかかる。


「【スライディング】」


 しかしその軌道がまたも『払い』だと気づいたツバメは、もう一度すべり込みで背後を取った。


「――――【アサシンピアス】」


 そして、クリティカルの一撃が突き刺さる。


「ウソ……だろ……?」


 なんと重装剣士、攻撃を当てるどころから防御すらできずに崩れ落ちる。


「一体何が、どう……なってんだ?」


 対人こそ、アサシンの得意とするところ。

 困惑しながらも『ヒザから崩れ落ち型』の敗北モーションで、重装騎士はしっかり勝負の終了を演出。


「な、なんだあの戦い方……」

「あんなの、見たことねえよ」


 背後を取ることで視界から姿を消し、削り、刺す。

 まさに手練れのアサシンのように敵を圧倒するツバメに、掲示板組は思わず足が止まってしまう。


「さすがメイさんパーティ。勢いが失くなってしまったぽよ」


 そしてここまでの勢いを失った掲示板組を見て一息。


「このままでは戦況が崩れるぽよ。兵長スライム――――出るぽよっ!」


 帝国兵長スライムが、ゆっくりと動き出す。

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