第791話 第二王子ルティア奪還

「このまま一気にいきましょう!」


 クエストを受けたプレイヤー兵士たちを見事に打倒し、城内を駆けるメイたち。

 中庭付近には二頭の灰色狼がウロウロしているが、メイたちを見つけても襲ってくることはない。


「止まれ不審者め!」

「そこまでだ!」


 駆けつけてくる兵士を鼻先で突き飛ばし、こちらを援護してくれる。


「ありがとーっ!」

「【電光石火】!」

「【フリーズストライク】!」


 そうなれば転倒した兵士を、軽い追撃で打倒するだけ。

 そのまま四人は、一気に主城への侵入を果たす。

 その中は、のんきなものだ。


「わたくし見に行きたいわ。下民が必死に抗う姿を」


 貴族たちは外部の反乱など、兵士たちによって片付けられるであろうと判断。

 些末な事態と考えているようだ。


「それはいいね。身の程知らずもはなはだしい連中が抗う姿は、きっと面白いよ」


 そんな風に言い、笑っている。

 事実帝国兵は旧市街出身の者をのぞいても十分数がおり、そこに従魔を加えれば戦果は火を見るより明らかだ。

 レジスタンスが味方を呼んだことで戦況は変わっているが、兵士たちが負けるということはあり得ない。

 メイたちは、大ホールの端を通る。

 ここでは攻撃が禁止されていることもあり、貴族たちはメイたちの姿に首を傾げても声を上げることはない。

 そんな気の抜けた貴族たちの間を抜け、そのまま公会堂へと向かう通路へ。

 小ホールの魔法陣の中心に嵌められた魔法珠を四回踏めば、その先は第二王子ルティアの監禁された部屋だ。


「待っていたよ」

「行きましょう!」

「この国に正しき平和を取り戻す。弱い僕らの力だけど、スタンは本当に良い仲間を見つけてくれた」


 渡してあった鍵を手に取り、ルティア王子は静かに立ち上がる。


「あらためて頼む、王城脱出に力を貸してくれ」

「はいっ! おまかせくださいっ!」


 そして細身の剣を取り出し、腰に提げた。


「武器なんて、よく見つけたわね」

「昨夜のうちにちょっと、抜け出してみたんだ」

「お、思ったよりアクティブなんですね」

「それで捕まってたら、大変だったわね」


 四人で笑って、準備は完了。

 ルティア王子を挟む形で、部屋を出る。


「HPゲージあり、防衛クエストですね」

「防衛で敵にプレイヤーもいる状況は、ちょっと怖いわね」


 NPCとは違い、どんな手を使ってくるか読みにくいという要素もある。

 そんなことを話しながら通路へ戻り、再びホールへ踏み入れる。


「第二王子?」

「どういうこと?」


 ざわつき出す貴族たち。

 だが、駆けるメイたちを止めにまで来る者はいない。

 豪商ドレークを眠らせて置いたことは、ここでも活きているようだ。

 四人は第二王子を先導しながら、そのまま主城を脱出した。

 あとは先日使った裏口へ向かうだけ。

 そこでレジスタンスに受け渡した後、皇帝ルーデウスを打倒、ルティアが再登場して政変を宣言するという流れだ。

 だがもちろん、このままでは終わらない。

 中庭を通りかかった瞬間、現れる見回りの兵士たち。


「貴様何をしている!」

「第二王子を連れ出す気か! 止めろ!」

「【連続魔法】【フリーズボルト】!」


 即座に放つ氷弾の連射が、手前にいた二人の兵士を足止める。

 こうなれば前衛二人が即座に追撃を開始する。


「【バンビステップ】!」

「【加速】!」


 あっという間に距離を詰め、メイは剣の振り降ろし一つで兵士を打倒。

 ツバメも【村雨】でそれに続く。


「矢が来るよ!」


 風切り音一つで、屋根上からの攻撃に気づくメイ。

 その一言に動いたのは、まもりだ。


「【かばう】! 【地壁の盾】!」


 カーン! と高速で飛来した矢が盾に弾かれて飛ぶ。


「【超高速魔法】【誘導弾】【魔砲術】【フリーズボルト】!」


 反撃は矢よりも速い高速氷弾。

 一撃で屋根上の弓術兵を貫き打倒した。


「そこまでだ!」


 そこに現れたのは、NPC兵士とプレイヤー兵。

 そしてその先頭は掲示板組だ。

 メイたちの前に出てきた一人の男。

 帝国兵らしい悪い笑みを浮かべて、一歩下がると――。


「スライム兵長、お願いします」

「ぽよっ!?」


 遅れてやって来たスライムに、突然この場を任せた。

 帝国兵の制服を乗っけたスライムは、少し困った風にぽよぽよした後――。


「――――第二王子には今日、消えてもらうぽよ」


 即座に、悪い帝国スライムになった。


「……打ち合せでもしてるの?」


 ちゃんと全員が帝国の姿勢に合わせた『感じの悪さ』を演じ出すことに、さすがに言わずにいられないレン。


「アドリブぽよねぇ」

「見事な柔軟性です。ですが敵プレイヤーとしては、まさに怖さを覚える相手と言えますね」

「それは間違いないわね」


 これまで見てきたプレイヤーの中でも、色々な意味で侮れない相手の登場。

 四人をよく知るプレイヤーたちと、中身はプレイヤーの人外キャラ。

 その実力は、これまでにも何度か目の当たりにしてきた。


「野生の王を引き入れ皇帝打倒の刺客にするとは、レジスタンス共にしては見事な作戦だ」

「だがオレら帝国スライム隊に見つかったのが、運の尽きだったなぁ」

「ちちち違いますっ! 野生の王ではございませんっ! 最近はコーヒーのお店にも行きましたっ!」


 焼け石に水アピールのメイに、ちょっと笑ってしまうレン。

 その尻尾ブンブンぶりに、掲示板組も頬が緩みそうになる。


「第二王子を倒せばこっちの勝利ぽよ。最初から全力でいかせてもらうぽよねぇ」


 同じくうっかりメイに見惚れていたスライムも、目を覚ますようにブンブンと頭らしき部分を振り、頬らしき部分を手らしき部分で叩く。

 すると掲示板組が武器を構え、気づいたNPCの兵士たちもこちらに駆けてくる。


「そういうことなら、こっちも力づくで行かせてもらうわ」

「こちらも防御のプロがいます。そう簡単にはいきませんよ」

「が、ががが、がんばりますっ」

「がんばりましょうっ!」


 第二王子を背に、始まる戦い。


「さあ、いくぽよぉぉぉぉぉぉ――――っ!!」


 帝国スライム兵長の号令が響く。

 こうして中庭に集まってくる兵士と、プレイヤーの混合部隊を相手にした防衛戦が始まった。

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