第790話 vs帝国掲示板兵

「き、ききき、きましたっ!」


 掲示板組の二人が、まもりを狙う。

 片方は魔法剣士、もう一人は身の丈ほどもある大斧を持った戦士。


「ったく、祭りの日だってーのにお仕事とはねぇ」

「フン、嫌ならそこで見ていろ」

「じょうだん、戦いは……別腹だぁ!」


 この二人、即興で『気だるげ帝国兵と武骨帝国兵』というキャラを作り上げ、掛け合いつつ接近。


「悪ィけど、お縄についてもらうぜぇ【ブレードワルツ】!」

「ク、ク、【クイックガード】【地壁の盾】盾盾盾盾っ!!」


 自らの裁量で剣撃の流れを決めて五連撃を放つ、連続攻撃スキルを慌てながらも完全防御。


「【跳躍】」

「ッ!!」


 続けて大斧を振り上げた戦士の、全力をの振り下ろしに対応する。


「その位置もらった【ガイアクラッカー】!」


 まもりはすぐさま左の盾を出し、再び防御体制へ。


「【地壁の盾】!」


 地を割る一撃となるスキルもしっかりガード。

 飛び散る盛大な火花。


「【シールドバッシュ】!」

「「ッ!!」」


 反撃は衝撃を伴う一撃。

 後方へ弾かれたものの、敵二人はどちらも見事にガード。

 どうやら、新星であるまもりの戦い方もしっかり動画で見ていたようだ。


「さすがメイちゃんパーティの新星。崩せる気がしねーや」

「フン、ならば諦めるか?」

「んなわけねーでしょう【ソード&マジック】!」


 魔法剣士は踏み込み右手の剣を振り降ろし、左手に魔法を輝かせる。


「【剣閃】【アイスジャベリン】! 【唐竹割り】【フリーズバレット】!」

「【クイックガード】! 【地壁の盾】【天雲の盾】【地壁の盾】【天雲の盾】っ!」


 魔法剣士ならではの剣と魔法の連続攻撃を、きっちり防御。

 まもりは続く大斧の攻撃に対し、すぐに視線を動かして――。


「ッ!!」


 短い『溜め』モーションをとっていることに気づく。


「【シールドフリップ】!」

「いきますっ! 【フレアストライク】!」


 一瞬速いまもりの攻撃は、盾からの魔法解放。


「なにッ!?」


 まもりの【マジックイーター】が、炎砲弾を放つ。

 レンの「【コンセントレイト】で放った魔法は火力が上がるかも」の言葉通り、豪炎がカウンターで炸裂。

 大斧の戦士は、これをカウンターで喰らって倒れた。

 まもりの選択は正解。

 大斧の戦士の攻撃は盾を『弾き飛ばす』という、まもりにとって最悪の一撃だった。

 一方魔法剣士は、わずかに笑う。


「その盾は魔法も撃つってわけね! だが特殊効果持ちだと分かればやり方はある! 【クイックステップ】!」


 速く短い踏み出しの連続で、一気に距離を詰めてくる魔法剣士。

 実はその動き、ツバメを真似て練習したため割と上手だ。

 男は一気に距離を詰め、まもりに襲い掛かる。


「【ソード&マジック】! 【剣閃】【フリーズバレット】! 【ターンスライサー】【アイスジャベリン】! 【唐竹割り】――」

「【クイックガード】【地壁の盾】【天雲の盾】【地壁の盾】【天雲の盾】【地壁の盾】っ!」


 剣魔連続攻撃の六発目、突然一呼吸遅くなる魔法に、わずかに虚を突かれるまもり。


「とっておきだ! 【フロスト・エクスプロード】!」


 それは収縮した吹雪を、爆発させるような高火力の上位魔法。

 防御しても付近を凍らせ、プレイヤーもそれに巻き込むという脅威の一撃だ。


「【マジックイーター】!」


 しかし魔法は、炸裂する前に飲み込まれて消失。


「消えた!? 盾の魔法スキルに加えて消滅スキルも持ってんのか!! そんならひたすら攻めるのみ!」


 魔法剣士は勢いづき、踏み込んでくる。


「【フロスト・エクスプロード】!」

「……は?」


 収縮した吹雪は、その火力を今度こそ存分に発揮する。


「吸収放出だったのかよォォォォォォ―――――っ!!」


 一瞬で付近は凍り付き、ど真ん中にいた魔法剣士も足元が凍結。


「【シールドバッシュ】!」


 トドメの一撃に倒れ伏す。


「そういうシステムかぁ……こいつは予想ミスだ……」

「フン、常に裏を考えろと言っているだろう」

「はいはい。そんじゃまあ頑張ってね、可愛い盾少女ちゃん」


 二人の掲示板兵は、最後までキャラを演じたまま消えていくのだった。


「まさか君が帝国を裏切るとはね……残念だよ」


 並ぶ西洋建築の前。

 制服姿で、これ見よがしなため息を吐くその男はマウント氏。


「帝国の酷い状況を、放ってなんておけませんっ!」


 メイもこれに乗っかる。


「ルーデウス陛下こそ、この世界を導くにふさわしいお方。その覇道に立ちふさがるつもりなら……容赦はしない!」

「受けて立ちますっ! 帝国の皆のために!」


 駆け出す二人。

 メイはあっという間に踏み込み、剣を払う。


「それっ!」

「【ソードディフェンダー】!」


 マウント氏の取り出した輝く剣は、メイの剣撃を受け止め弾く。

 これは防具ではなく、剣で敵の物理攻撃を弾くことをメインにしたスキルだ。


「計算君の言葉通りだ、メイちゃんは建物のある場所では剣の通常攻撃を使う率が高い!」


 そしてこの弾きが成功すれば、わずかながらに優位が取れる。


「【凪一閃】! からの【斬岩剣】っ!」

「おっとと! しゃがんでからの【アクロバット】!」


 横薙ぎからの振り降ろしを、メイは華麗な動きで回避。

 ここでマウント氏は広範囲一撃必殺を避けるため、建物の中へメイをおびき寄せる。

 そして帝国議場へと向かう広い廊下の途中で、再び二人は剣を掲げる。


「【フルスイング】!」

「【ソードディフェンダー】!」


 大きな音と共に、弾けるエフェクト。

 とっさに振った剣が【フルスイング】を弾く姿は、まるでライバル同士の熱い戦いのよう。

 マウント氏は思わず「おおっ」と声をもらし、勢いに乗る。

 そしてスキルを弾いたことで、おとずれている好機。

 偶然見つけた二刀流スキルを、ここで放つ。


「【オクタブレード】!」


 放つは剣による二刀流の八連撃。

 輝く剣閃が描く八本の軌跡は速く、しかも強烈だ。

 硬直の解けたメイは、迫る剣舞に正面からぶつかることになった。


「いきますっ!」


 しかしメイは慌てない。

 身体を右に捻って縦の剣をかわし、傾け斬り上げをかわす。

 しゃがんで振り払いを避け、踏み込みからの斬り降ろし、振り上げを二度のバックステップで回避。

 もう一度しゃがんで振り払いをかわし、最後の斬り抜けは前転ですれ違う。


「か、かすりすらしないとは……っ!」


 武器の重量があるため、ツバメの剣舞より振りの大きな剣の連撃は、最低限の回避行動ですり抜けられた。

 それだけではない。

 ここでメイは、新たな試みを遂行する。


「まずは【バンブーシード】から!」


 右手を床に着けると、放つは新たなスキル。


「――――【グリーンハンド】!」

「ッ!?」


 メイの言葉に、一気に広がるスキル発動の輝き。

 足元から一斉に伸び上がるのは、大量の『竹』だ。


「うおおおおおっ!? な、なんだこれはっ!?」


 竹は床から高速で突きあがり、槍の様に天井に突き刺さっていく。

 議場へと続く廊下に、作られていく高密度の竹林。


「おおおっ!? おおおおおっ!?」


 どうにか範囲外へ出ようとするも、すでに伸びた竹が邪魔をして上手に走れない。


「【バンビステップ】!」


 一方のメイは、それこそ鹿のように柔軟に竹をかわして接近。


「こうなったら! 【凪一閃】!」


 払う剣の一撃で竹を斬り飛ばして範囲外を目指すが、新たに突き上がった竹が胸元を斬り、腕を刺し、装備を弾く。

 HPが削られ、体勢も崩される。


「くっ! マズいッ!」

「【フルスイング】!」


 踏み込んでくるメイ。

 振り下ろされる剣に、マウント氏は慌てて防御を選択。

 強烈な一撃に、そのまま竹林を転がっていく。


「全力で防御しても8割……っ、相変わらずとんでもないっ!」


 メイは止まらない。

 竹の隙間が、一直線にマウント氏のもとにつながったその瞬間。


「【裸足の女神】っ!」

「来たっ!!」


 マウント氏はメイの超高速移動を前に、剣での防御を選択。

 全力で目を開き、意識を集中。

 メイが頭を下げたことで、攻撃は剣の振り上げだと予想した。


「イチかバチかだ……ッ! 【ソードディフェンダー】! なにっ!?」


 しかし剣による防御を狙ったその腕が、今まさに伸び上がった竹に阻まれた。

 これではもう、防御も回避もままならない。


「【フルスイング】だああああ――――っ!!」

「こ、こんな戦法、聞いたことないぞ――――ッ!? おおおおおおお――――ッ!!」


 直撃する剣の一撃。

 その凄まじい威力の前に跳ね上がったマウント氏は、一度天井にぶつかり落下。

 HPゲージが消し飛び、勝敗は決した。


「……見事だ。君なら、帝国を変えられるかもな」

「変えてみせます、必ずっ!」


 これまで見たこともない、とんでもない戦い方にマウント氏は息をつく。

 見ればどこか荘厳な石造りの廊下は竹に浸食され、完全な竹林に変わっていた。


「空間を任意の植物の世界に変えるって、さすが野生の王だな……でも今回はメイちゃんと直に戦闘をしたうえにスキルまで見せてもらったぞ……ふふふ、これは掲示板組に伝えてやらないとなぁ!」


 反逆者打倒のクエストは失敗。

 しかしその笑顔は、早くも勝ち誇っていたという。

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