第789話 帝国掲示板分隊
「間違いない メイちゃんは反逆者側で動いてる!」
「僕たちは攻略者たちから帝国を守るクエスト、そして常々言われていた帝国兵たちの感じの悪さ……これは100%間違いありません」
「本当か?」
「ホントにいんのー? これで外部からの攻撃に対応してたとかだったら笑うよ?」
「俺が今まで、メイちゃんたちの動きを外したことがあったか?」
「おお……普段はただただウザイだけのマウント氏の言葉が、今はこんなに頼もしい……!」
「行くか!」
「ああ!」
走り出す、10人ほどの掲示板組。
先ほど聞こえた戦いの音から、主城へと向かう道へ先回りを仕掛ける。
するとそこに見えたのは、走る四人の少女たち。
「「「いたっ!」」」
メイたちを見つけた掲示板組は、即座に進路に割り込みに行く。
「そこまでだ!」
「「「「ッ!!」」」」
マウント氏の言葉に、メイたちが足を止める。
「貴方たち、壁の復旧クエストにいたメンバーね……」
「先日は急にいなくなってしまい、申し訳ありませんでした」
「あ、これはどうもご丁寧に」
ツバメの言葉に、帝国制服のまま頭を下げる掲示板組の面々。
一段落したところで、あらためて言葉を続ける。
「俺たちは帝国側から、建国祭を無事に終了させるというクエストを受けている」
「なるほど、聖教都市みたいな対立システムを含んでいるのね」
「……やはりか。それなら仕方ない」
掲示板組は、静かに目を閉じる。
そしてまるで気持ちを切り替えるように、大きく息をつくと――。
「まさか、貴様が帝国に潜り込むスパイだったとはなぁ」
「まったく、残念だよ」
突然、その表情を冷徹な帝国兵に変えた。
「お前たちは、皇帝陛下のもとへたどり着くことはできない」
「なぜなら……ここで俺たちに処刑されるからだぁぁぁぁ!!」
「相変わらずノリがいいわね!」
すぐさまタチの悪い帝国兵になりきって武器を取る掲示板組に、思わずレンが叫ぶ。
メイとツバメが笑い、驚きにまもりがポカンとする。
それが、始まりの合図だ。
「行くぞ! 麗しき帝国のために!」
「帝国に弓引くやつは、ここで剣の錆にしてくれる!」
動き出す掲示板組。
先頭を駆ける剣士の前に出たのは、ツバメ。
「お相手いたします【加速】」
「うおおっ!?」
ツバメは斬り抜けではなく、真っ直ぐ踏み込んできた。
その手には【村雨】
放つ抜刀からの払い、そして返しが、慌てて防御に走った剣士のHPを削る。
「【三日月】!」
続けて大きな踏み込みから、縦の抜刀振り降ろし。
背中側から手前に描く三日月形の軌跡が、防御を続ける剣士の盾に当たり、派手な火花が散った。
「ア、アサシンちゃん、短剣の二刀流じゃなかったのかよ!?」
二刀相手にどう戦うかを考えていた剣士は、その変化に慌てふためく。
「【加速】」
ツバメは再び接近し、刀の間合いへ。
シンプルな振り降ろしから、そのまま回転斬りへとつなぐ。
「【旋空】!」
「うおおおおっ!?」
防御一辺倒の剣士は、必死の盾防御。
弾かれ合う両者の間に、距離が生まれた。
「くっ、ここから巻き返しだ! 【バスターブレード】!」
掲げた剣は、当たろうが外れようが爆発を起こして敵を巻き込む強烈な一撃。
武器を地面に叩きつけることで範囲攻撃となるスキルは、基本的に隙が大きい。
大きなバックステップでこれを回避したツバメは、その瞬間を逃さない。
「【稲妻】!」
「ッ!?」
鞘から抜かれる刀が、一瞬の輝きを見せる。
次の瞬間ツバメは、まさしく雷のような青白い光の線を描きながら高速接近し、豪快な抜刀振り上げ斬りを放つ。
刃の軌道に一瞬遅れて描かれる白の軌跡は、シンプルで美しい。
「……なっ」
反応もできず、喰らった掲示板組剣士のHPはすでに残りわずか3。
「カッコいいー!」
それを見て、思わず声を上げるメイ。
「サマになってるじゃない!」
「す、すごいですっ」
レンたちも、その戦いぶりに歓声を上げる。
「だが、まだ終わったわけじゃない! 【空刃乱舞】!」
剣士は最後の大技を発動。
速い剣の振りに合わせて空刃を飛ばすこのスキルは、連発が可能だ。
「【バンビステップ】!」
ここでメイが走り出し、空刃の隙を縫って接近。
剣士は慌てて空刃による迎撃を狙うが、メイはそのまま横を通り過ぎていった。
「なにッ!?」
「【跳躍】」
次の瞬間、かかる影。
「ッ!?」
上を見上げれば、刀を持ったツバメの姿。
メイの行動は、単なる目くらましだったようだ。
「【回天】!」
刀を鞘に収めた状態で飛び上がり、そのまま空中で縦に回転しながらの抜刀斬り。
強烈な斬り下ろしが、見事に決まった。
「ここ、までか……」
剣士は、これ見よがしな体勢で倒れていく。
「ルーデウス皇帝陛下……バンザァァァァイ!!」
最後まで帝国兵を演じる男に、「おお……っ」と感嘆するツバメ。
「裏切りのアサシンは左右の動きより縦移動の速さで戦う! 魔法で一気に勝負を掛けるぞ!」
「「「ハッ!!」」」
するとここに出てきたのは計算君。
5人の魔導士と共に距離を取り、建物付近から魔法攻撃を開始。
「撃てぇぇぇぇ!!」
そして追ってくるツバメに対し、一斉に魔法を放つ。
隊列を組んでの魔法斉射は見事。
ツバメは回避に集中せざるを得ない。
「一度さがるぞ!」
この隙に計算君は建物の内部、廊下まで下がって魔導士たちに杖を構えさせる。
そして予想通り追ってきたツバメに、再度の魔法斉射。
「撃てぇぇぇぇっ!!」
「【壁走り】!」
しかし三次元移動を始めたツバメに、魔法は当たらない。
「【天井走り】!」
「一発も当たらないだと……っ!?」
そのまま時計回りに壁を駆け上がり、全弾回避。
天井の途中でスキルを解除して落下すると、着地時には足の装備を換えている。
「【疾風迅雷】【加速】【加速】【加速】!」
【暗転のブーツ】は、移動スキルの使用中に姿が消える装備。
【加速】を連続使用をされると、ほとんど姿を視認できない。
「っ!」
突然のダメージに、魔導士たちが困惑する。
「なにっ!?」
現れたツバメに、慌てて皆が杖を向けるがすぐさま消失。
「マジで、全然攻撃が見えないぞ!」
消えたと思えば、いつの間にか斬られている、
魔導士たちはもう、慌てるほかない。
しかもその火力は、【村雨】に替えたことで上昇している。
「……フッ」
しかしこの状況に、薄く笑みを浮かべる計算君。
「裏切りのアサシンよ、貴様の敗因は相手がこの僕だったということだ。HP1を残して攻撃を耐える【食いしばり】と、自分をも巻き込む高火力範囲攻撃は、この狭い廊下で逃げ場なし!」
「ッ!?」
「終わりだ! 【マイン・エクスプロード】!」
巻き起こる盛大な爆発。
味方も巻き込むこの戦略は、味方にも通達済み。
魔導士たちはたとえ倒れても、共にツバメを打倒したという実績を得られる。
そしてこの煙の上がり方は、対象を捉えた証拠だ。
「やった! やったぞ! 我らは帝国を裏切ったアサシンを、討つことに成功したんだ!」
歓喜の声をあげる計算君。
晴れていく煙の先にいたのは、大きく黄色い鳥類の子。
「ヒヨコォォォォォォ――――ッ!?」
弾け飛んでいくヒヨコの背後から出てきたツバメが、【村雨】を閃かせる。
「【稲妻】!」
そして残り1のHPは、刀の一振りで削り切られた。
「急ぎで買い集めたスキルですが、やはり新武器を振るうのは楽しいです」
ツバメは【村雨】を払い、静かに刀を収める。
「て、帝国の頭脳と言われた……この僕の戦略がぁぁぁぁ! ……ぐふっ!」
まるで『斬撃』が遅れて傷を開いたかのような、ワンテンポ遅れの片ヒザ突き。
そのまま倒れ伏す流れは完璧。
こうして計算君も、帝国の軍師的な役を最後まで演じ切ってみせたのだった。
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