第788話 乾杯からの突撃!

「それでは栄えあるガルデラ帝国の建国を祝い――――乾杯!」

「「「乾杯!」」」


 皇帝ルーデウスの宣誓によって始まった、華やかな建国祭。

 続いて宰相による乾杯が行われ、一部の貴族や上級兵たちがワインをあおる。

 そして乾杯は、突撃の合図だ。


「さすがルーデウス皇帝だ、いい物を選んでるな」

「ああ、やっぱり帝国は……最高の……」

「おいどうした? ……ッ!」


 始まり出す異変。

【睡眠薬】入りのワインが効果を発揮し、兵士たちが意識を朦朧とさせ始める。

 そうなれば、次はレジスタンスの番だ。


「「「オオオオオオオオ――――ッ!!」」」

「なんだ! どうした!?」


 ワインをもらうことのできない立場の兵士たちが、異変に慌て出す。


「旧市街の者たちが、西通用門に殺到しているようです!」

「あの煙、火を放ったのか!?」

「向こうの兵士たちはどうした!?」

「多くの兵が眠ってしまい、混乱しているみたいです!」

「ならば動ける兵を動員しろ! あの程度の数でどうにかできるはずがない! 自分たちが生かされているだけなんだということを、その身に教えてやるんだ! 潰せ! 薄汚いネズミどもを一掃するんだ! 」


 叫ぶ兵長。

 しかし様子がおかしい。


「なんだ、あの数は……?」

「それが城壁外の森から、多数の傭兵らしき部隊が!」

「ネズミ共が伏兵を用意していただと……? ならばドレーク殿に通達し、私兵に来てもらえ!」

「それがドレーク殿は、先日から昏睡したままなんです!」

「……どうなっている。いったいこれはどうなっているんだ!?」


 慌てる兵士たちの姿。

 帝国初登場の兵士クエストを受けにきたプレイヤーたちも、その空気の変わり様を見せられて困惑する。


「なんだ? 何が起きてんだ?」

「反乱に対応しろって感じのクエストみたいだな」

「……ふむ」

「どうした計算くん」

「いや、僕が思うにこういう類のクエストは、襲撃側は二手に分かれてたりするものではないだろうか。本命はプレイヤーによる皇帝打倒の確率が高い」

「確かに、『城外の反乱軍を抑えに行け』っていう直接的な指示が出されないのも妙だよな」

「少し、様子を見てみるか」


 各々の判断で動き出す、帝国兵プレイヤーたち。

 そして観客としてやって来た者たちは、まさかの事態に早くも目を輝かせる。


「これでしばらく時間を稼げそうね。多くの兵士たちが反乱を鎮圧しようと、レジスタンスの相手に集中してくれる。城内の兵士や、戦闘の回数は減ってくれるはずよ」


 一方メイたちは、持ち場の正門前から騒がしくなってきた城内へと侵入。

 すでに前庭から建物の並ぶ区画へと入り込んでいた。


「メイはどう?」

「うん、準備しながら進めてるよ!」

「それにしても、大きなお祭りの中を動くクエストというのはワクワクしますね」

「は、はひっ」

「それじゃまずは第二王子の救出から、行きましょうか!」

「りょうかいですっ!」


 四人は主城を目指して走り出し、連なる建物の間を駆けていく。

 正門から主城までには、前庭、教会や議場などの石材建築が並ぶ区画、そして広い中庭がある。

 そしてこの騒ぎの中でも当然、主要となる守備区域には兵士たちが警備についている。


「おい、どこにいくつもりだ!! この先、下級兵の侵入は認められていない!!」

「ここからはもう、下級兵の制服を着てても戦うしかないってことね」


 立ちふさがる上級兵士は、制服に軽鎧という姿。

 手にした黒い剣も濃灰色で、刃の部分だけが銀という渋い見た目をしている。

 そしてその装備から、上級兵の中でも高いレベルの存在なのだと分かる。


「そういうことならっ! 【装備変更】!」


 メイはいつもの装備に変更。


「もう隠れて戦う必要はなさそうだし、この騒がしさなら多少火の手が上がっても問題なしね!」


 続けてレンとツバメ、そしてまもりも装備を変更。


「【電光石火】!」

「ぐっ!」


 速い斬り抜けは上級兵を捉え、大きく体勢を崩す。


「よいしょっと!」


 攻撃に身体を曲げた兵士をメイが跳び越えると、そこに駆け込んでくるのはまもり。


「そ、それっ!」


 シンプルに盾を突き出して頭部にヒットさせると、そのまま横を抜けていく。

 最後はレン。

 掌を突き出し、胸元の軽鎧にタッチしてそのまま走り出す。


「逃がすか!」


 当然兵士は追いかけにくるが、ここでレンが指を鳴らす。


「燃えときなさい!」


 すると軽鎧に刻まれたルーン文字が輝き、一気に火炎を巻き上げた。


「うおおおおおおおお――――ッ!!」


【燃焼のルーン】は5秒ほどかけて上級兵を燃やし、そのHPを削り切る。


「これ金糸雀の【金剛武装】に使ったら、燃えながら走ってくるのかしら」

「お、おそろしい絵になりますね……っ」


 有名ハンマー使いが、炎上しながら大金づちを振り回す姿を想像して唖然とするまもり。


「止まれ! 貴様ら何者だァ!」


 掛ける四人の前に、今度は上級兵三人が道を塞ぐ。


「止まらぬなら撃つ!!」

「【重戦特攻】!」


 中心にいた鎧の上級兵士は、大きく速い踏み出しからハルバードを振り上げる。


「【雷撃断】!」

「【かばう】! 【天雲の盾】!」


 メイとツバメが自然と道を開ける。

 振り下ろされた強烈な一撃は、まもりの盾に直撃して止まった。

 地面へと流れていく稲光は、仮にまもりが受けていなければ付近のプレイヤーをまとめて感電させる、やっかいな一撃だった。

 だが、受け止められてしまえば流れはこちらのもの。


「【フルスイング】!」


 同じく振り下ろす形の一撃は、隙だらけのハルバード兵に直撃。

 バウンドして大きく跳ね転がるほどの威力で、一発打倒。


「【加速】【リブースト】【アサシンピアス】」


 横の槍使いは、最速の一撃に胸を突かれて倒れる。


「【アクセラレーション】!」


 すると残った魔法兵は意外にも、魔力噴射で距離を詰めてきた。

 突き出した手。

 どうやら杖代わりに、魔法珠を仕込んだガントレットを使うようだ。


「【バーニングショット】!」

「【スライディング】!」


 手から噴射される激しい炎。

 しかし直撃寸前でツバメは、敵の足元を滑り抜ける。


「高速【連続魔法】【フリーズボルト】!」


 そのすぐ背後には、レンの放った氷の弾丸が追って来ていた。


「くっ!」

「【反転】」


 魔法兵が氷弾を喰らい、体勢を崩したところでツバメが振り返る。


「【電光石火】!」


 フラつく魔法兵の背中を斬り、HPを減らしていったところに再びレンが続く。


「【フレアストライク】!」

「ぐああああっ!」


 さらに正面から飛んできた炎砲弾を喰らい、倒れる。


「ぜ、前後からの連続攻撃って、すごいですね……」


 前から氷弾、後ろから斬撃、さらに前から炎砲弾。

 恐ろしい連携にまもりは驚き、メイは「お見事ですっ」と拍手。

 一方のツバメは、レンと自然なハイタッチ。

 見事な連携が決まり、満足そうに息をついた。


「内部の様子もおかしいだと……? どういうことだ!? 旧市街の下級兵共は城内にはいないはずだ!」


 一方内部まで騒がしくなり始めたことに気づいた上級兵が、声を荒げる。


「何かあったら皇帝陛下の怒りを買うことになるぞ! 建国祭は帝国の力を披露する場なんだ!」

「冒険者ども、お前たちも怪しい者を見たら容赦なく斬れ! 反逆者を討ったものには褒美をくれてやる!」


 いよいよ慌て出す上級兵たち。

 ここでついに、城内にいる刺客の打倒を指示される。

 そしてこの展開に、笑う者たちがいた。


「やはりな――――感じるぞ、メイちゃんの気配」

「間違いない。メイさんたちが動いている確率は100%です!」

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