第787話 出陣

「お待たせいたしました」


 レジスタンスの秘密基地前。

 最後にやって来たのはツバメだった。


「商業都市に行っていまして、遅くなりました」


 その顔には、わずかに笑みが見える。


「お店いっぱいの街だね!」

「はい、色々と良いものを見繕ってきました。アイテムもあります」

「いい物が見つかったみたいね」


 ご機嫌なツバメ。

 一方のまもりは緊張気味だ。


「お、お祭りのような人の多い場所に行くのは緊張します……っ。私なんかがいたら『場違いだ』と、空き缶とかをぶつけられる可能性も……!」

「大丈夫です。まもりさんなら全て盾で防げます」

「そんなこと起きませんが正解じゃない? この場合」

「あははははっ」


 そんなことを話しながら、地下基地へ歩を進める。


「準備できましたっ!」


 戻ってきたメイたちは、さっそくスタンに声をかける。


「これがレジスタンスの皆さんですか」


 そこには、20人ほどのレジスタンスメンバーが集まっていた。


「他にもまだ300人以上が、その時を待ち構えている……恥ずかしい話だが、我々にそろえられるのはこれが精いっぱいでな」


 装備は古く、決していい物ではない。

 そこからも、生活の苦しさが見える。


「でも、300人ちょっとだと数が足りないんじゃない?」


 建国祭のために配備された兵士の数は間違いなく、その数十倍はいるだろう。

 反乱を起こすには、さすがに心もとない。


「帝国の政変に賛同する隣国より兵が来る。第二王子との密約があってな。召喚と転移宝珠を使い、帝国の森の中に潜ませていた仲間たちが『乾杯』の直後に一気に動き出す形だ」

「おおーっ!」

「それはすごいことになりそうね」


 他国からやって来た兵たちが、いきなり森から登場して味方になる展開には、帝国兵たちもさぞかし驚くだろう。


「皇帝は逃げたりしないのかしら」

「逃げることはない。危機が迫ればむしろ式のプログラムを強行することでメンツを保つはずだ。中でもコンサートはヤツのお気に入り。意地でも会場にいるだろう」

「何せ国の威信をかけているからね」

「皇帝は自信過剰で、旧市街民の反乱に対して逃げるなんて真似はできない。まして今日は建国祭だから」

「今回の目的は……二つだけだ」


 スタンがそう口にすると、自然とレジスタンスのメンバーがうなずく。


「第二王子ルティアの救出と……皇帝ルーデウス・ガルデラの打倒だ!」


 建国祭当日の任務は、その二つ。


「帝国の未来を頼む。希望の星たちよ……っ!」


 スタンの言葉に合わせて、頼りない武器を掲げるレジスタンスたち。

 集まる視線を前に、メイは拳を握って応える。


「おまかせくださいっ!」



   ◆



 建国祭の始まりを告げるのは、皇帝ルーデウス・ガルデラ。

 主城3階、パーティホールのバルコニーに出れば、広い広い中庭を見下ろすことができる。

 風に揺れる、黒地に赤金の紋章が刺繍された垂れ幕。

 そこにはたくさんの貴族と、上級兵士たちが集まっていた。


「――――よくぞ集まってくれた。我が臣民たち」


 ルーデウスはバルコニーに立ち、演説を始める。


「今日という新たな門出をもって、帝国は更なる力に手を伸ばし、永遠の栄光と繁栄へたどり着くだろう」


 その言葉に、わき立つ貴族たち。


「世界の王となるこの私が、君たちにそれを分け与えよう……帝国の陰に住み着いた汚い虫共にも、おこぼれくらいはくれてやろうか」


 旧市街の者たちを笑いものにする言葉に、上級兵たちもせせら笑う。

 すると皇帝ルーデウスは、両手を掲げた。


「もっと我を崇め、もっと我に心酔せよ! このルーデウス・ガルデラに忠誠を捧げるのだ! 選ばれし帝国の民、華麗なる血を継ぐものたちよ!」

「「「オオオオオオオオ――――ッ!!」」」

「めちゃくちゃ言ってるわね」

「ひどーい!」


 旧市街の背景を知るメイは、頬をふくらませる。

 帝国軍の制服を着た四人は、中庭から離れた城壁の上に、警備として配置されていた。


「……我が覇道に、間違いなどあってはならない」


 突然そう言ってルーデウスは、冷徹な笑みを浮かべた。


「華麗なる一族だけでなく、旧市街の虫にも我らと同等の権利をなどと、無知極まりないことを口にした者がいる。それは第二王子、ルティア・ガルデラだ」

「なんか、嫌な流れね」

「本当ですね、そわそわします」

「このような蒙昧、我が帝国には必要ない。よって――――」

「こ、これはもしや……っ」

「本日――――その処刑を敢行する」

「「「オオオオオオオオ――――ッ!!」」」


 上級兵や貴族たちが、歓声を上げる。


「第二王子の救出、急いだ方が良さそうね」

「そのようですね」

「しょ、処刑って……恐ろしいです」

「絶対に助けようねっ」


 恐ろしい宣言を発し、再び両手を掲げるルーデウス。


「世界に覇を成す、ガルデラ帝国に――――」

「「「万歳!」」」」


 大きな歓声を受けながら、マントを翻して去っていく。

 その白銀の長い髪に、青い目が冷たく輝いていた。

 挨拶が終わり、一斉にあがる花火。

 中央街へ続く道ではパレードが始まり、どこからか紙吹雪が舞ってくる。

 まさに、帝国の威信をかけた建国祭の始まりにふさわしい盛大な演出だ。


「見ろ、ドラゴンが宙で舞ってるぞ」

「こんな賑やかな祭、初めて見たわ」

「コンサートもあるらしいな」

「すげー、それは初めての試みだな」


 警備の兵士クエストを受けた掲示板勢が、その派手な建国祭の始まりに感嘆の声を上げる。

 見れば一頭の黒い飛竜が、航空ショーのように空中で舞を見せていた。

 そして他のイベントでは見ない、派手なパフォーマンスに確信する。


「これ……絶対メイちゃん絡んでるな!」

「ああ、間違いない!」

「ていうかあれ、メイちゃんじゃないか!?」

「本当だ! やっぱり帝国兵クエストを受けてたんだ!」

「ということは、この建国祭警備クエストを受けて正解だったんだな!」


 メイの姿に、はしゃぎ出す掲示板組。

 手を振ると、気づいたメイも元気に手を振り返す。


「俺……もう処刑されてもいいわ」


 こうしてガルデラ帝国の建国祭は、派手な始まりを見せた。

 7年見つからなかった、帝国の新クエスト。

 兵士としての警備クエストに間に合わなかった者も、一部城内の観覧が可能だ。

 そうなれば、プレイヤーたちが集まらないはずがない。

 こうして建国祭は、上級兵たちによる『乾杯』の段に入る。

 それはメイたちにとって、『皇帝を討て』の合図だ。

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