第691話 三つ巴

「メイちゃんが……落ちた」

「マジかよ、メイちゃん脱落!?」


 メイたちが見せた『しっかり守る』『部族の射撃ポイントを魔法などで攻撃する』という方法で、つり橋を攻略。

 密林を進む参加者たちは、驚きの声をあげる。


「待ちなさい刹那! 高速【連続魔法】【フレアアロー】!」

「へえ、ずいぶんと熱くなるんだねナイトメア。このレース、ちょっと本気で勝ってみたくなってきたよ【飛び影】!」


 一方つり橋でライバルたちを撃ち落とした刹那は、得意の高速移動で炎の矢を回避。


「【加速】【リブースト】!」

「【獄炎】!」

「ッ!!」


 さらに自らを一周する炎の噴きあがりで、ツバメの特攻をけん制。


「ふふっ。気まぐれで出たレースで『野生児パーティ』に勝つ。アルティシアの良いリベンジになりそうだよ!」


 刹那は強い目で笑って、密林の中へと駆けていく。


「負けられないわね! 【低空高速飛行】!」

「いきましょう! 【疾風迅雷】!」


 後を追うレンとツバメ。

 続く森の中は当然、どこを進むかでどんな障害物が待ち受けているかも違ってくる。


「グオオオオオオ――――ッ!!」

「「ッ!?」」


 飛び出してきた、大型のホワイトタイガー。

 しかしツバメは慌てない。


「【紫電】」

「【フレアストライク】!」


 硬直を奪うと、レンが魔法で吹き飛ばす。

 そしてこの隙を、刹那は逃さない。


「【ブレイズキャノン】」

「ッ!!」

「レンさんっ!」


 即座にツバメがレンに飛び掛かり、刹那の攻撃を回避する。


「さあキミたちはここで足止めだ、アイアン・メイデ――――!?」


 影の動きに異変を感じた直後、地面を穿つ岩塊。


「なるほど、部族の投石機はここからフル稼働ってわけだね【飛び影】!」


 不用意に戦えば、空からくる岩塊の餌食になりかねない。

『勝ち』を優先することにした刹那は、ここで戦うことよりゴールを目指すことを選ぶ。


「ありがとうツバメ! 追いましょう【低空高速飛行】!」

「はい! 【加速】【リブースト】!」


 すぐさま起き上がり、二人は刹那の後を追う。


「うおおおおおお――――っ!?」


 バラけて密林を駆け抜けていく参加者たち。

 聞こえてくる悲鳴は、突然現れた猛獣によるものだ。


「ぎゃああああっ!!」


 そこに投石機による無尽蔵攻撃の悲鳴が混じる。


「【誘導弾】【フリーズボルト】!」

「おっと、そうはいかないよ【飛び影】【連続魔】【ブレイズバレット】!」


 木々を避けるようにして飛来する氷弾を加速でかわし、炎弾で反撃を仕掛ける刹那。


「【跳躍】【連続投擲】!」


 ツバメも刹那の攻撃をかわしつつ、【雷ブレード】でチャンスを狙う。

 これを刹那は、立ちはだかる樹を盾にして防御。


「部族の攻撃が、激しくなってきたわ」


 投石に混じり出す炎弾。

 どうやら、ここを駆け抜けるのがレース最後の難関になりそうだ。


「レンさんっ!」


 そんな中、刹那の視線を追っていたツバメが気づく。

 密林の先に、青く輝く光があることに。


「【加速】【リブースト】!」


 ツバメは一気に加速して、青い輝きのもとへ向かう。

 見えたのは、ゴールへ飛ぶためのモノリス。


「あれを起動して飛べば、ゴールというわけですね」

「よそ見していていいのかい?」

「ッ!?」


 モノリス前10メートル地点。

 足首ほどの深さの川によって木々が開けたその場所に着地すると、すぐさま刹那が飛び込んできた。


「ボクが接近の得意な魔導士だったこと、忘れていたのかな? 【レビティア】!」

「ッ!?」


 足元に描かれる魔法陣。

『打ち上げ』魔法を発動し、ツバメを強制的に空中へ。


「【ブレイズキャノン】!」


 隙だらけになったツバメに向けて、豪快な炎砲弾を放つ。


「もちろん、忘れてなどいません! 【エアリアル】【連続投擲】!」

「ッ!!」


 まさかの反撃に慌てて横っ飛び、急いで顔を上げるとそこに迫る炎の矢。

 レンの【フレアアロー】が、刹那の頬をかすめていった。


「……やるね」


 そう言いながら、その目を鋭くする刹那。

 姿勢を直し、右手の魔法バングルの感覚を確かめる。

 自然と始まるにらみ合い。


「あら、これは闇の者たちの密会ですか? それとも仲間割れでしょうか?」


 ここで華麗な着地を見せたのは、九条院白夜。


「まあ、どちらでも構いませんわね。これも良い機会、闇を継ぐ者たちにはここで討たせてもらいますわ!」

「白夜……」


 ゴールへと向かうために起動しなくてはならないモノリスは、どう考えても『ここで順位争い』をさせるための仕掛け。

 ややこしくなる展開は、さらに状況を変えていく。


「お、おい! なんだあれ……!」

「使徒長と光の使徒。それに……悪魔召喚士!?」

「見ろ、あのモノリス。今なら強豪プレイヤーを出し抜くことすら可能だぞ!」


 上手くやればこのジャングルを、トップで抜けられる。

 森を抜けてきたプレイヤーたちも、この数奇な状況に目を光らせる。


「あっはっはっは! 参加してよかったよ、こんなぞくぞくする状況でナイトメアたちと戦えるなんてさぁ!」



   ◆



「わああああああ――――っ!」


 刹那の放った一撃で、谷間を落下していくメイ。

 レンを助けるために使った【ゴリラアーム】の硬直が切れた頃、見えたのは流れの速い川。

 どうやら着水した後は、流されて失格という形になるようだ。


「【ドルフィンスイム】!」


 しかしメイは、ここで見事な泳ぎを発動して岸壁へ。


「【モンキークライム】!」


 そのまま近くの草地へ登る。


「失格にはならなかったけど、コースから外れちゃってる。どうしようかな……」


 ケツァールで飛んで戻ろうとすれば、間違いなく部族の光矢の餌食だろう。

 身体の大きなケツァールは、いい的になってしまいそうだ。


「……あれ?」


 困るメイは、不意に思いつく。


「でもここだったら……誰にも見られてないよね?」


 メイはキョロキョロと辺りを見回して、人気がないことを確認。

 幸い方角は【帰巣本能】で分かる。

 またあの岩落としの崖まで戻って上がれば、本来のコースに戻れるのは間違いない。

 ただし、『生き残れるように作ってないコース外』を走り、また崖登りからゴールを目指すというのは距離で考えれば絶望的だ。

 さすがにもう『競争からは脱落、完走できるかどうか』に挑むくらいが関の山だろう。だが。


「…………いきますっ!」


 走り出したメイは、ここで一気にギアを上げる。


「よ……よ……【四足歩行】だああああ――っ!」

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