第690話 つり橋と狂気

「よいしょっと」


 崖を登り切り、抱えた三つの岩を下ろしたメイ。


「避けて登るものとばかり思っていました」

「えへへ、岩を避けちゃったら後ろの人たちにぶつかっちゃうかなと思って」

「ふふ。まだまだメイには驚かされるわね」


 笑い合いながら進む三人。

 登ったテーブルマウンテン上部も、続けて深い森になっている。

 このサバイバルレース、本当の難関はここからだ。


「あれは……?」


 やがて見えた森の切れ目。

 テーブルマウンテンには深い谷があり、そこに少し距離を置いて二本の大きなつり橋がかかっている。

 幅はそこそこあるが左右に手すりのない作りは、強風に吹かれただけで落下してしまいそうだ。


「なんだこれ……!?」


 遅れてやって来た参加者たちも、長く頼りないつり橋を見て驚きの声を上げる。


「これを渡って向こうに行けってことか……」


 そんな言葉に、広がる緊張感。


「とにかく進もう」


 早い決断をしたのは、ここでも敏捷型のパーティ。


「揺れるだろうから、気をつけようぜ」

「「おうっ」」


 さっそく長い長いつり橋を走り出す。

 合わせてギーギーと、嫌な音が鳴る。


「確かに不安定だけど、これならいけるぞ!」


 そう、先行パーティが確信したその瞬間だった。

 つり橋上に、炎弾が炸裂した。


「「「うおおおおおおおお――――ッ!?」」」


 その爆発に、三人組の先行組は吹き飛ばされる。


「おおおおおお……ぉぉぉ……ぉぉ……ぉ」


 高い高いテーブルマウンテンの谷間に、消えていく三人。


「お、おいおい、部族はここでも攻撃してくるのかよ!」


 見れば崖下には、岩場を削って作られた射撃ポイント。


「それなら俺は防御スキルでいくぞ! 【鋼鉄硬化】!」


 飛び来る魔法攻撃を、防御で耐えて進む盾戦士。


「うおおっ!」


 飛んでくる炎の魔法弾に足をフラつかせたものの、ギリギリで耐え抜いた。


「よ、よし! これなら問題な――――へぐぅっ!?」


 ゆっくり移動の盾戦士、岩塊をぶつけられて落下。


「と、投石機だぁ!? それなら俺は空から――ぐああああーッ!?」


 空から行こうとした従魔士は、即座に放たれた光の矢が突き刺さって炸裂。


「ああああぁぁぁぁ……ぁぁ……ぁ」


 そのまま崖下に消えていった。


「……ひ、飛行系で越えることは絶対に許さないという、運営の強力な意志を感じる」

「ていうか部族の火力どうなってんだよ!?」


 つり橋渡りは、思わぬ難所となっているようだ。


「いや、この方法ならっ!」


 そんな中、つり橋に踏み出したのは一人の騎士。


「【マジックシールド】! 【リフレクト】!」


 炎弾を光の盾で払い、岩塊はしっかり足をすえて反射スキルで対応。

 部族の攻撃を種類の違う『防御スキル』でしっかりさばき、橋の中央部を越えていく。

 確かな手ごたえ。

 つり橋クリアの確信を得る。


「い、行ける! 行けるぞ! うはははは! 悪いが先に行かせてもらうぜ! お前らはここで部族のお相手でもしてるんだなぁぁぁぁ!」

「はい【エクスプロード】」

「うぎゃああああああ――――っ!!」


 煽りに反応した魔法剣士の放った魔法が、騎士を弾き飛ばした。


「おい、ふざけんなよ! 【ストライクレイ】!」


 爆発に巻き込まれかけた細剣使いが反撃を放ち、魔法剣士の肩を貫く。


「あ、あっぶねえ! 【フレイムシェル】――ッ!!」

「おいやめろ! どこで魔法撃ってんだ!」

「いいから早く行けって! 部族の攻撃が来る――――」

「「「ぎゃあああああああ――――っ!!」」」


 プレイヤーたちが揉めだした瞬間、つり橋を狙って放たれた部族の砲撃が炸裂。


「「「…………」」」


 このやりとりがきっかけとなり、つり橋前に緊張の空気が流れ出す。

 誰かが進まなければ攻略できないが、攻略しそうになったら参加者に撃たれるという地獄。

 誰もつり橋に向かわない。しかし。

 ここでまさかの事態が起こる。


「渡れました」

「「「ッ!?」」」


 人が途切れた瞬間を狙って発動した【隠密】は、部族の目にもかからない。

 ツバメは攻撃を受けることなく、難なくつり橋を渡り切っていた。


「このままここで争っていたら、ツバメの一人勝ちになるわね」


 そしてレンが、一言で状況を変える。


「……こ、ここはひとまず協力して、つり橋を渡っちまおうぜ」

「そうだな」


 すでに成功者が出ている以上、争っている場合ではない。

 レンを送るため、メイは一気に駆け抜ける形ではなく対応しつつの進行を選択。

 先頭に立って、つり橋を進む。


「ジャンプ!」


 飛んでくる岩塊をかわすと、つり橋に当たって大きく跳ねる。


「「「うおおっ!?」」」


 これに慌てたものの、メイの声によって『予期』することができたプレイヤーたちは見事につり橋の跳ねに対応。


「メイ! 来たわっ!」

「おまかせくださいっ! 【装備変更】!」


 続けて飛んできた炎弾が飛んできたの気づいて、【魔断の棍棒】に持ち帰る。


「それええええーっ!」


 弾き返した火炎弾は、部族たちの射撃ポイントに炸裂して火を上げる。

 この炎が落ち着くまでは、ボーナスタイムだ。


「いきましょうっ!」


 駆け出すメイと、それを追う後続たち。

 見事な対応で、難所のつり橋を駆け抜けて――。


「そこ、邪魔だよ」


 聞こえた声。

 後続プレイヤーが振り返るとそこには、魔法のバングルを付けた少年のような姿の悪魔召喚士。


「【飛び影】【ブレイズキャノン】」

「「「うおおおおおおおお――――っ!?」」」


 闇属性の砲弾魔法が、つり橋にいたプレイヤーたちをまとめて吹き飛ばした。


「レンちゃんっ!」


 大きく跳ね上がるつり橋、落ちていくプレイヤーたち。

 落下しながら、メイはとっさにレンをつかむ。


「【ゴリラアーム】! それーっ!」


 そのまま投擲し、レンを反対側の崖にいるツバメのもとへ。


「わああああああ――――っ!」

「メイっ!」

「メイさんっ!!」


 そしてレンを助けたことで【ゴリラアーム】の『硬直』に入ったメイは、そのまま落下。

 ここでコースを外れることになった。


「……おや、もしかして本命の野生児ちゃんを脱落させてしまったかな?」

「刹那……っ!」


 つり橋に並んだライバルたちを、意に介することもなく一掃した刹那は、「ふふ」と余裕の笑みで問いかけるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る