第689話 崖を登ります!

 ゴール目指して『メイちゃん大ジャングル』を駆けるサバイバルレース。

 進めば巨大魚、止まれば巨大ヘビという地獄の池を、メイたちは見事に先頭で乗り越えた。

 そのまま『視界に現れるガイド』に従って進むと、たどり着いたのは崖だった。

 登山であれば補助用の鎖が付けられるくらいの厳しい角度の岩崖は、なかなかの高さを誇る。


「この角度なら、一応どの職業でもいける感じね」


 三人はメイを先頭に崖を駆け登っていく。すると。


「あぶないっ!」


 危険を察知したメイが、二人を引いて横へそれる。

 するとその直後、転がってきた身の丈ほどもある岩球が跳ね、飛び出た岩肌に直撃。

 砕けて散った。

 足を止めて、上部を確認する。

 するとわずかに見える頂上に現れたのは、紋様入りの仮面をした部族。


「へへっ、お疲れかい? お先に行かせてもらうぜ!」

「敏捷パーティは有利だな! 一気に上がって、ここで順位ポイントを稼ぐんだ!」


『足の遅い魔導士がいるパーティは、どうしてもこういう場面で遅くなる』

 そう踏んだ前衛組パーティは、メイたちを追い抜き先へいく。

 そして自慢の健脚を飛ばしたところで――。


「お、おいっ! うおおおおおお――――っ!?」


 部族の落とした岩が転がってきて直撃。


「「「ぐああああああ――――っ!!」」」


 続々と転がり落ちてくる岩。

 喰らってしまえば、大ダメージの上にそのまま転倒。

 そして一度転がってしまうと、この急な崖ではもう止まることができない。

 どうやらここは、差がつくポイントになりそうだ。


「はははは! ただ足が速いだけじゃ、こういうのは越えられねえんだよ! 右っ!」


 駆け込んできた忍者が、岩を華麗にかわす。


「これくらいなら余裕だぜっ! ここはジャンプだ!」


 そのまま見事な跳躍で、転がってくる岩を跳び越えにいく。


「あっ」


 岩、跳ね上がる。


「ウソだろぉぉぉぉ――――っ!?」


 跳ねた岩に容赦なく弾き飛ばされた忍者は、そのまま滑降して消えていった。

 恐ろしい『岩落とし』攻勢。

 落ちては消えていく参加者たちだが、前にいるプレイヤーが犠牲になった直後には『隙間』あり。


「今だ! 【ラピッドステップ】!」


 その事に気づいた一人のプレイヤーが、一気に崖を駆け登ってみせた。

 そしてこの岩場、恐ろしいのはここからだ。

 先行したプレイヤーは振り返り、ニヤリと笑う。

 そこには、部族が用意していた岩球生成の小型トーテム。


「お前、まさか……っ!」

「これはサバイバルレースなんだ! 悪く思うなよ!」


 先行プレイヤーが落とす岩は、部族が落とす岩の合間を上がってきた者たちを狙って放たれる。


「「「うおおおおおお――――っ!?」」」


 こうなると崖登りは、いよいよ難易度を上昇。


「うははははは! 人がゴミのようだとはこのことか!」


 先行プレイヤーはしっかりと、部族の攻撃の合間を埋めてくる。


「こ、これじゃ先に進めねえぞ!」

「どうすりゃいいんだ……!」


 先行者が後続を攻撃できるシステムによって、攻略は一気に厳しいものに変わってしまった。

 攻めあぐむ、参加者たち。


「……いけるかも」


 そんな中、この状況をしっかり見ていたメイがつぶやく。


「そうですね、メイさんの速さなら」

「メイの柔軟さを持った機動力ならいけそうね……気をつけて」

「りょうかいですっ! 【バンビステップ】!」


 メイは走り出し、部族の転がした岩を左右に回避。


「「あぶないっ!」」


 そこに迫るプレイヤー岩に、レンとツバメが思わず悲鳴をあげたところで――。


「よいしょっと!」

「「「受け止めた!?」」」


 転がってきた岩を避けるのではなく、受け止める。

 まさかの展開に驚く、レンとツバメと先行プレイヤー。

 メイはそのまま岩を抱えたまま走り出すが、そこに不運が続く。

 部族の転がした岩が跳ね、今まさに動き出したばかりのメイに襲い掛かる形となった。しかし。


「せーの……よいしょっとー!」

「「「ッ!?」」」


 誰もが「これは厳しい」と思う中、メイはなんと抱えた岩の上に岩を重ねてみせた。

 二段のアイスクリームみたいになったメイに、さすがに驚愕するプレイヤーたち。


「うわわわわわ!」


 しかしその急な角度で後ろに倒れそうになって、メイは足を大きくフラつかせる。


「メイさんっ!」

「メイっ!」


 緊張感の中、メイは体重をどうにか前へ。


「…………せーふ」


 危うくひっくり返って転がり落ちてしまいそうだった体勢を、どうにか立て直した。そして。


「いきます! 【バンビステップ】!」


 なんと今度は、二個の岩を抱えたまま走り出す。


「……さすがだな。だが悪いなメイちゃん! さすがに三つは無理だろ!」


 しかしそんなメイを見ていた先行者は、ここで新たな岩を生成。


「おらよォォォォ!!」


 二個の岩を抱えて走るメイに、トドメの岩を放った。


「メイ!」

「メイさんっ!」


 ゴロンゴロンと跳ね転がる岩は、真っすぐにメイに向かって特攻。

 両手が使えないメイに、そのまま直撃した。


「よいしょーっ!」

「……マ、マジかよーっ!?」


 メイ、三つ目の岩も受け止める。

 二段のアイスが三段に。

 まさかの事態に、驚きふためく先行プレイヤー。


「そ、それなら連続攻撃だ! そんな体勢じゃ前もロクに見えないだろッ!!」


 先行プレイヤーは慌てて岩を生成し、まとめて突き落とす作戦に変更。

 駆け上がってくるメイに、連続で岩を転がしてきた。


「こっち! 次はこっち!」


 しかしメイも、転がる岩の大きな音に合わせて右左。

 見事な回避を決めながら崖を駆け登る。


「ここまでか! 俺は先に行くっ!」


 そしてついに攻撃に見切りをつけ、走り出そうとしたところで――。


「失礼いたしますわ!」

「ッ!?」


 ここでメイの背後という一番安全なルートを駆け登ってきたのは、白の戦闘用ドレスを着た白夜。


「【ライトニングスラスト】!」


 高速飛行突きスキルで最後の距離を突き進み、一気に登頂部へ到達。


「少し調子に乗りすぎてしまったようですわね! 【エーテルライズ】!」


 足元から突きあがる光の柱で、先行者を弾き飛ばす。


「う、うおおおおおお――――っ!」


 白夜の一撃を受けた先行者は、そのまま崖を転落。


「それではお先に失礼いたしますわ。メイさん、壁役ありがとうございました」

「白夜ちゃん! どういたしましてーっ」


 ちょっとした挑発も、メイはどこ吹く風だ。


「ナイトメアさん、同じレースで出会ってしまった以上、勝たせていただきますわよ」


「ふふっ」と余裕の笑みを見せた白夜は、中継ポイントを1位で通過し先を行く。


「わたしたちも行きましょう!」


 メイたちはそのまま後を追う形で崖を登り、参加者たちも後に続く。


「……もしかして、【腕力】や【耐久】が高ければ持ち上げるのは無理でも防御で身を守れるんじゃないか?」

「高火力のスキルなら、岩の軌道を変えたり割ったりできるかも……」


 そしてメイの『受け止め』から、岩は不干渉オブジェクトでないということが明らかに。

 見つかった攻略法。

 こうしてレースは、テーブルマウンテン上部へと移る。

 一方、岩を落としまくっていた先行者はもう止まらない。

 そのまま転がり落ちて、最下層へと落ちていく。


「へえ。ナイトメアがいるのを見かけて参加してみたけど、ずいぶんと賑やかなレースだね」


 転げ落ちていく先行者の姿に、しかし少女は涼し気な表情を見せる。


「さて……そろそろボクも参戦させてもらおうかな」


 そうつぶやいて維月刹那・ルナティックは、楽し気に笑みを浮かべた。

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