第688話 サバイバルレースです!
「ありがとうございましたっ!」
ケットシーを手に入れた猫好き少女キティラは、嬉しそうにほほ笑む。
「これであとは、あのお宝を目指すのみですっ!」
「次は何を探すの?」
「はい! 希少なレア景品【レプリカ猫耳】ですっ! こうしてメイさんに出会えた今、きっと良い波が来ているはずっ!」
キティラはそう言って気合を入れると、メイたちに大きく頭を下げて駆け出した。
どうやら、メイちゃん喫茶にも応募していたようだ。
「あっ、そういえば」
「どうしたの?」
「わたしの名前を使ったアトラクションクエストもあるって、話を聞いたんだ」
「どこにあるのですか?」
「向こうだね! メインステージの西側だったはず!」
さっそく見に行ってみるメイたち。
するとそこには、一部屋サイズの密林を看板にしたアトラクションコーナーがあった。
「ここは何をするんだ?」
プレイヤーがたずねると、運営の担当者は元気に応える。
「はい! このために作った地獄のごときマップで、HPが切れても終わり、一撃即死もありのサバイバルレースが行われます!」
「さばいばるれーす?」
「気になるわね」
「各地点を通過順にポイントが付与されるという簡単なシステム。生きて最後までたどり着ければ、多くのポイントが付きます! 舞台は最恐の密林。その名も『メイちゃん大ジャングル』です!」
「ええええええ――――っ!?」
まさかの命名に、驚くメイ。
どうやらメイの名を冠したアトラクションとは、密林が舞台のサバイバルレースのことのようだ。
気軽に了解したものの、まさかこうくるとは思わなかった。
「ルートは視界にガイドとして現れます。もしルート外へ出てしまった場合はすぐに戻ってください。このジャングル、道を外して生き延びられるようには作られておりません!」
説明を受けたプレイヤーたちは、一部屋サイズの密林に足を踏み入れる。
すると一瞬で、特別ステージに送られた。
「すごーい……!」
「これはなかなか面白い趣向ね」
『メイちゃん大ジャングル』にたどり着いた参加者たちは、その大きさに感嘆する。
深い密林には巨大な川があり、切り立ったテーブルマウンテンのようなものもある。
聞こえてくるたくさんの動物の声は、メイたちが最初に参加したジャングルイベントを思い出させる。
「これは到着順でポイントの変わる『競争』でもあります。よって邪魔や妨害やもあり。皆さん、準備はよろしいですか?」
息を飲む参加者たち。
運営担当者が、そっと右手を掲げる。
「それではサバイバルレース……スタートです!」
その手から放たれた炎球の炸裂が合図。
「「「行くぞぉぉぉぉ!」」」
付近に注意しながらも、参加者たちは勢いよく走り出す。
密林を進んで行くと、最初に現れたのは大きな池だった。
見るからに深い池の水面には、まるで足場に使えとばかりに岩が顔を出している。
「へっ、俺の跳躍スキルならこのくらい余裕だぜ! 一発で跳び越えてやる! 【ブーストダッシュ】【ロングジャンプ】!」
青年は高速移動で助走を付け、そのまま長い跳躍で一気に池を跳び越えていく。
「悪いが先に行かせてもらうぜ! 1位通過でポイントはいただきだ!」
そして見事な跳躍は、池の真ん中を越えたあたりで――。
「う、うわああああああ――――っ!!」
水中から飛び出してきた巨大魚に、一口で飲まれて消えた。
「「「…………」」」
それを見た参加者たちは、大慌てで跳躍や飛行の使用を断念。
石の足場を跳んでいく。
足場ごと喰われるということはなく、先頭集団が競争を始めたところで――。
「うおおおおッ!?」
突然足場が沈み、飛沫をあげて池に落ちたプレイヤーを再び巨大魚が飲み込んだ。
ダミー足場。
こうなってしまうと、これまでスムーズだった進行が突然遅くなる。
安全な足場を通るには、誰かが踏んだもの確認して向かうのがいいからだ。
「お前先いけよ!」
「いやだよ!」
「押すな押すな! ギャアアアアアア――――ッ!!」
始まる争い。
するとその直後、足場待ちをしていたプレイヤーの背後に迫る影。
「「う、うおおおおおお――――っ!?」」
木々の間から出て来た巨大ヘビに喰われて、二人同時に消えた。
「い、いいい行くぞ! このままここにいたら、チャンスもないまま喰われちまう!」
「俺は右側の石を選ぶぜ! うああああ――――っ!」
「私は左で!」
「……邪魔、【ファイアボール】」
「ッ!? きゃああああ――――っ!」
足場を渡る最中の攻撃魔法にバランスを崩し、池に落ちれば即座に巨大魚がやってくる。
早くも始まった地獄絵図。
四匹の巨大魚が、容赦なくプレイヤーを吸い込んでいく。
「大変なことになってきましたね」
「やっぱり飛行と長距離跳躍の類は、認めてない感じみたいね……でも」
「何か良い案を思いついたの?」
「巨大魚の数は4。罠ありの足場を跳び越えていくよりはいいかも。型破りにはなるけど、久しぶりの『釣り』はどう?」
「いいと思いますっ!」
「【加速】【リブースト】」
レンの提案を受け、ツバメが先行する。
助走を付け、池のふちで思いっきり踏み切った。
「【跳躍】!」
そのまま宙を行き、天辺に到達したところで飛び掛かってくる巨大魚。
「きました! 【エアリアル】!」
これを見事な二段ジャンプで越えたツバメだが、新たな巨大魚が空中のツバメ目がけて飛び上がる。
「【アメンボステップ】!」
この時すでに水面を駆け出していたメイも、足元の魚影に気がついた。
「【ラビットジャンプ】!」
水中からの喰らいつきを、高い跳躍一つでかわすメイ。
この瞬間、空中に三匹の巨大魚を釣り上げることに成功。
「……いける!」
巨大魚が空中に三匹、階段状に並んだの見てレンは杖を掲げる。
「【ペネトレーション】【フレアバースト】!」
狙いをつけ、30度の角度で放つ爆炎は三匹の巨大魚を突き抜け炸裂。
猛烈な火炎を天へと噴き上げた。
吹き飛ばされ、水上に叩きつけられた巨大魚。
「「「ッ!?」」」
そのとんでもない光景に、参加者たちは目を奪われる。
「だが……っ!」
降り際のメイに、四匹目の巨大魚が飛び掛かる。
そして空中のメイに、その対応は難しい。
そのまま最後の巨大魚が、メイに喰らいついたところで――。
「高速【フリーズストライク】!」
続けざまに放った氷砲弾が直撃し、四匹目の巨大魚も弾き飛ばしてみせた。
「レンちゃん完璧だね!」
「お見事です」
「メイの腰から下はもう巨大魚の口の中だったし、ギリギリだったけどね。それじゃいきましょうか! 【低空高速飛行】!」
「りょうかいですっ! 【アメンボステップ】!」
四匹の巨大魚が復活して戻る前にレンは飛び、メイはツバメを抱えて水面を走る。
こうして三人は、難なく反対岸へ。
「……ど、退け退け退けぇぇぇぇ――――っ!!」
「【アクセステップ】!」
「行かせるか!【ウィンドストライク】!」
「「「うおおおおーっ!?」」」
するとそれを見た参加者たちも、この好機を逃すものかと一斉に走り出す。
剣に魔法に、再び荒れ始める容赦なき生き残りレース。
「……全く、見苦しいですわね」
そこに現れたのは光の使徒を名乗る少女、九条院白夜。
「さてこのレース、どうなることやら」
そう言って余裕の笑みでレイピアを取ると、池に向かって駆け出した。
「【エンジェライズ】!」
その背に小さな天使の翼を速し、速度を上昇。
「【跳躍】! 【ライトニングスラスト】――――っ!!」
加速からの跳躍を助走にして距離を稼ぎつつ、高速移動刺突の【ライトニングスラスト】へ。
飛行刺突で池を跳び越え、メイたちを追いかけるのだった。
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