第692話 大ジャングル攻略戦

「闇の使徒たちを抑えて、わたくしたちの威光を知らしめる。悪くないですわね」

「キミの力では難しいと思うけどね、ボクは」

「あら、試してみます?」


 笑って白夜は、レイピアを構える。

 緊張感のある笑みを見せ合う二人、先手を打ったのは意外にも刹那だった。


「【アイアン・メイデン】」


 それは白夜だけでなく、レンとツバメも範囲内に収めた広域魔法だ。


「させませんわ! 【ライトニングスラスト】!」

「させないっ! 高速【フレアアロー】!」


 しかし三人はすでにこの魔法を知っている。

 足を止められてしまうスキルは最悪と踏み、即座にこれを阻止にかかる。

 白夜の刺突をかわし、魔法がキャンセルされる。

 しかしレンの放った魔法は、今まさに刹那を止めたばかりの白夜に直撃した。


「きゃあっ! ここで二人まとめて片付けようとは、さすが闇の者ですわね!」

「たまたまよ!」

「言い訳は無用ですわ! 【エーテルジャベリン】!」


 白夜は身体の左右に三本ずつの『魔法の槍』を生み出し発射。


「ッ!!」


 放たれた一撃は、レンをかすめていく。


「【加速】【電光石火】!」


 それを見てツバメは白夜に斬りかかるが、白夜はこれをレイピアで防御。

 キーン! と、甲高い音が響き渡る。


「ッ!! 【ファイアウォール】!」


 この隙を突いてモノリスの起動に行こうとしたプレイヤーを、レンが炎の壁でけん制。


「【連続魔】【ブレイズバレット】!」

「くっ」


 すると今度はその隙を狙って刹那が魔法を放ち、弾かれるレン。


「さすがに、やりますわねっ!」


 一方華麗な連撃をかわすツバメに、白夜は思わず笑みをこぼす。


「【瞬剣殺】!」

「ッ! 【エンジェライズ】!」


 さらに即座のバックステップ低空飛行で、空刃をかすめるにとどめた。


「【ライトニングスラスト】!」

「下がって、即突撃!?」


 高速の『後前ターン』で放つ刺突が、ツバメの肩を切り裂く。

【瞬剣殺】は初めてだが、『初見』ではない白夜の見事な反撃だ。


「【電光石火】!」

「光の使徒として貴方たちの動向はチェックしていますのよ! その速さにもしっかり、対応させていただきますわ!」

「【隠し腕】!」

「ッ!?」


 現れた三本目の腕を用い、高さの違う二つの斬撃を放つ。

 同じプレイヤーが三つの武器を振るう姿は、さすがに初見。

 最後の一撃を喰らってわずかに下がる。


「本当に、ツバメさんはトリッキーにもほどがありますわね……っ」

「今だ! 【雷神剣】!」

「「ッ!!」」


 落ちる雷光がまばゆく光り、二人は思わず飛び下がる。

 機会を見計らっていた参加者たちは、ツバメと白夜が動きを止めた隙を突いてきた。


「【グランイグニス】!」

「【インフラートゥス】!」

「【ラピッド・ウィンド】」


 一気に魔法を炸裂させて炎と砂煙をあげると、従魔士が右手を突き上げる。


「サンダードラゴン! 時間を稼いでくれ!」


 真っ当に戦うと苦しい参加者組は、ドラゴンを『壁』にすることでモノリス一番乗りを目論む。しかし。


「ボクの前にそんな壁が役に立つと思うのかい? 【レビティア】! そして邪魔者には消えてもらうよ【ブレイズキャノン】!」

「「うおおおおおお――っ!!」」

「うまい……っ!」


 この状況で大型の従魔だけを先に空へ吹き飛ばし、従魔士とその後続を魔法で消し飛ばす。

 この順でドラゴンを最速退場させた刹那の手腕に、思わず感嘆するレン。


「……この揺れは?」


 わずかに地面が、川面が揺れていることに気づく。


「よそ見している暇があるのかい? 【クルシフィクション】」

「ッ!!」


 紋様入りの鎖が突きあがり、相手を磔にするこのスキル。


「【低空高速飛行】はああああ――――っ!」


 レンはすぐさま前進することで回避しつつ、近接攻撃をしかける。


「【飛び影】!」


 降り下ろす【魔力剣】を、刹那は後方への跳躍で回避。


「逃がさないわ! 【悪魔の腕】!」

「ッ!?」


 つかみに来た悪魔の腕はギリギリで足を弾く形になり、どうにか着地するも刹那はダメージを受けた。


「へえ、ナイトメアも悪魔を駆るようになったのかい?」

「魔法の一つに過ぎないわよ! 【フリーズストライク】!」

「ッ!! 【エンジェライズ】!」


 高速刺突の構えが見えたレンは、即座に白夜をけん制。

 すると『標的』を入れ替える形で、ツバメも走り出した。


「【加速】」


 ツバメの接近に気づいた刹那が右手を上げる。


「【スライディング】!」


 足元を抜けて振り返った時、刹那はスキルを回避されて隙だらけ――――のはずが。


「何かあると思ったよ【飛び影】」


 右手を上げたのは、ツバメの出かたをうかがうため。

 振り返りと同時に、大きく速いバックステップで距離を取る。


「【クルシフィクション】」


 一転足元から突きあがる鎖をツバメに回避させたところで、付近を確認。


「そろそろケリをつけようか。さあおいで――――ボクのアモン!」

「しまった……!」


 一体で戦況を変えうる悪魔召喚に、唇を噛むレン。


「さあいくよ! 【フレイムバスター】!」


 発射された炎の砲弾が炸裂し、炎の柱を上げる。

 残火が参加者たちの足止めをする中、刹那はさらに攻勢を続ける。


「【フレイムディザスター】!」


 地面に走り出す大きな割れから、噴き上がる溶岩のごとき灼火。


「「「う、うわああああああ――――っ!!」」」


 参加者たちが一気に倒れる。

 大罪悪魔アモンは、その戦況を一瞬で変化させた。


「ははははは! こうなってしまったらもう、誰も止められないよ! どうやら流れは、このボクに傾き出したようだね!」


 もはや手が付けられないその勢いに、笑う刹那。

 その炎にHPを減らした白夜も「マズいですわね」と息をつく。しかし。


「さあ、それは」

「どうでしょうか」


 レンとツバメは、そう言って笑った。



   ◆



 メイは駆ける。

 恐ろしい密度で配置された食プレイヤー植物は、まさに『生き残れるように作っていない』という運営の言葉通り。

 しかし【四足歩行】のメイは、植物がメイに気づいてその根や茎を伸ばした時にはもう『先』にいる。


「【ラビットジャンプ】!」


 小さな崖からの跳躍。

 その足もとを占める大量の食プレイヤー植物たちに気づいて、メイは右手を掲げる。


「【ターザンロープ】! あーああ――っ!!」


 そしてハッと気づいて「てへへ」と笑う。

 他にプレイヤーが見ているわけでもないから、ギリギリセーフの判定だ。

 大きなショートカットによってたどり着いた池を駆け抜け、そのまま落岩の崖登りへ。

 しかしメイは止まらない。

【四足歩行】は巨大魚を置き去りにし、落ちてくる岩を難なくかわして一瞬で登頂し、そのまま森を抜けてつり橋へ。

 部族はここぞとばかりにメイを狙い撃つが、かすりもしない。

 通り過ぎたあとの橋に、虚しく魔法や矢を飛ばすのみ。

 再び森に入ったところで、黒鎧の復讐者と戦う青年を横目に先を急ぐ。


「あっ、あれは!」


 その巨大な悪魔に、見覚えがあり。

 同時に、状況を理解した。


「いきます! 【ラビットジャンプ】!」


 超加速からの跳躍は、大きく空を舞う。


「からの……【フルスイング】だああああ――――っ!」

「な、なんだって!?」


 直撃を受けたアモンは、その凄まじい一撃に木々をなぎ倒して派手に転がった。

 上がる砂煙に、刹那は驚きの表情を見せる。


「キミは、脱落したんじゃなかったのか……っ!?」

「おいおい、メイちゃん不死身かよ……っ!?」

「ウソだろ……どうして間に合うんだ!?」


 完全に脱落したはずのメイ。

 仮に何かで生き残ったとしても、ほぼ最速でここまで来た自分たちに、こんなに早く追いつけるはずがない。

 あり得ない事態による驚きが、硬直を生む。

 そしてこんな『非常識』を、『メイなら当然』と即座に納得できるのはレンとツバメだけだ。


「メイ!」

「メイさん! 無事だったのですね!」

「この感じ……危ないよ!」


 再会のメイはすぐに、ツバメとレンの手を引き川から距離を取った。


「【ブレイズキャノン】!」

「【装備変更】!」


 ここで自分たちに背を向けたメイに対し、魔法攻撃を選んでしまったことが明暗を分ける。


「からの【フルスイング】!」


 振り返るのと同時に【魔断の棍棒】で打ち返されたブレイズキャノンがあげた炎と煙で、塞がれる視界。


「跳びますっ! 【ラビットジャンプ】!」

「【跳躍】!」

「【浮遊】!」


 メイの言葉に、疑問を挟まず即応えるツバメとレン。

 そこに『異音と地揺れ』の正体が姿を現す。

 サバイバルレース最後の仕掛けはなんと、浅いはずの川に巻き起こる大水の氾濫。


「こ、これはっ!?」

「「「う、うおおおおおおおお――――っ!?」」」


 状況は一秒を争う状態だった。

 容赦ない濁流に、流されていく参加者たち。

 その勢いは、刹那をも巻き込んだ。


「……くっ、見事だよ野生児ちゃん」

「や、野生児ではございませんっ!」

「だがボクは何度でも蘇る……! この世界に光ある限り、そこには必ず闇が生まれ――」

「早く流されなさいよ」

「さらばだナイトメア! ははははは! あはははははははっ!」


 直撃ではなかったために耐えていた刹那もついに流され、そのまま滝から落下していった。


「間に合ってよかったー!」

「ありがとうメイ!」

「よく戻ってきてくれました!」


 歓喜の声と共に抱き着いたレンとツバメは、そのままハイタッチ。

 三人はモノリスに触れて起動すると、生まれた光に包まれゴールへ向かう。


「いやー、やっぱメイちゃんだな」

「この流れはもう仕方ねえな」

「……まったく、いいところを持っていかれましたわ」


 運良く氾濫から逃れたプレイヤーたちも、遅れてモノリスに触れる。

 こうして『メイちゃん大ジャングル』を抜けたメイたちは、見事1位でのクリアを達成したのだった。

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