第686話 ケットシー防衛戦です!

 ケットシー争奪戦は、メイを中心に大きく動き出した。

 戦いの騒ぎを見つけたプレイヤーたちが、一気に集まってくる。


「相手は最強野生児ちゃんだ! 死力を尽くせぇぇぇぇ!!」

「ち、ちがうんですっ! ちょっと野性味のあるスキルを使う普通の女の子です――――っ!」


 そこはしっかりと訂正しながら走り出す。


「【バンビステップ】!」


 ケットシーを抱えて、走るメイ。

 反撃できないこの状況下、パワー系の前衛が一斉に突撃してくる。


「【ストロングチャージ】!」

「うわっと!」

「【体当たり】!」

「あぶないっ!」


 剣士の突撃を右にかわし、武闘家のタックルを左にかわし、飛びつきに来た重戦士を跳んでかわす。

 するとその直後、身軽な盗賊が速い踏み込みで跳び込んできた。


「もらったぁぁぁぁ!」

「【カンガルーキック】!」

「ぐふっ!」


 これを見事な前蹴りで退ける。


「さすがに単純な近接攻撃じゃ止められないな! いくぞ!」


 このイベントクエストは戦闘もできるが、もちろん捕えて止まる形式も有効だ。


「「「【投げ縄】!」」」

「うわわわわっ!」


 カウボーイのような投げ縄スキルが、一斉に飛んでくる。

 これをメイは、わずかな隙間を抜けて回避。


「いまだ! いけーっ!」

「「「【投網】だああああー!」」」

「ええええええ――――っ!?」


 今度は頭上を覆うような、十人がかりの投網が迫る。さらに。


「【ウィンドウォール】!」


 暴風の壁を張ることで、移動方向を制限。

 とっさだが見事な囲い込みに、メイは思わずキキーッと緊急停止。


「いけるぞ! ケットシーを奪え!」

「メイさんっ!」


 そこに駆け込んできたのはツバメ。


「おねがいしますっ」

「【加速】【リブースト】!」


 メイからケットシーを受け取ると、そのまま網の下を最高速で駆け抜ける。


「ありがとーっ!」


 網まみれのメイは、安堵の一息と共に手を振る。

 ここで参加者たちの狙いは、当然ツバメに移行する。


「「「突撃だああああ――――っ!!」」」


 駆け込んでくるのは、五人組と六人組の波状攻撃。

 ケットシーを抱えた状態での反撃は難しい。

 そう踏んだレンは、即座に声を上げる。


「跳んで!」

「【跳躍】【エアリアル】!」

「【フリーズブラスト】!」

「「「うわああああああ――――っ!!」」」


 計11人もの特攻を、見事に返り討ち。

 しかし着地直後、目の前に来たのはあらたな前衛三人組。

 ここでツバメは付近を確認、思い切ってケットシーをその場に置いて応戦する。


「【加速】【電光石火】!」


 一気に距離を詰めて先行の魔法剣士を斬り、そのままの勢いで二人目の剣士を切り抜ける。


「えいっ!」

「助かります!」


 そこにキティラが三人目を叩いて足止めし、駆け込んできたメイがケットシーを回収。

 その隙にツバメは、三人目にとどめを刺した。

 見事な連携に、思わず笑い合うメイたち。

 しかし戦いが大きくなれば、それだけ目にもついてしまう。


「いたぞ! ケットシーだ!」


 叫び声に動き出した参加者たちの人数はなんと、一気に三十人ほど。


「【アクセルスラスト】!」


 剣士を中心に飛び込んでくる前衛軍団。

 メイはこれを直前まで引き付けたところで――。


「がおおおおおお――――っ!!」

「「「ッ!?」」」


【雄たけび】で、まとめて動きを止める。


「【加速】【瞬剣殺】!」


 そこに飛び込んで来たツバメが、まとめて前衛集団を斬り飛ばした。

 そして振り返るのと同時に、メイからケットシーを受け取る。


「【バンビステップ】!」


 すると迫る第二波の騎士たちの懐に飛び込んだメイは、そのまま剣を振り払う。


「【フルスイング】!」

「「「うわああああ――――っ!」」」

「ツバメちゃん! おねがいします!」

「はいっ! 【加速】!」


 さらに続く、重装戦士の第三波。

 今度はツバメがケットシーをメイにパス。

 高い防御力を持つ重装戦士たちの前に踏み込むと――。


「【紫電】!」

「「「なっ!?」」」


 まとめて硬直を奪った。

 これだけでは終わらない。


「「「ッ!?」」」


 メイはこの隙に詰めてきた盗賊を三連発の尻尾ビンタで足止めして、尻尾突きで転倒させた。

 まんざらでもない顔で転がる盗賊。

 この隙にケットシーをツバメに渡したメイは、今度はツバメごと抱えて腰を落とす。


「レンちゃん、おねがいしますっ! 【ラビットジャンプ】!」

「「「な、なんだそれぇぇぇぇ――っ!?」」」


 これで地上に残されたのは、ライバルたちだけ。

 まさかの事態に驚く者たちに、レンが狙いをつける。


「最後はまとめていくわ! 【フレアバースト】――っ!」

「「「うああああああああ――――っ!!」」」


 地を駆ける爆炎で、見事にこの場をやり過ごした。


「ないすーっ!」


 抱きかかえられて、ちょっと照れるツバメ。

 危機を乗り切った四人は、笑顔でハイタッチ。


「な、なんだよこの防衛コンビネーション!? 全然ケットシーを奪える気がしねえっ!」

「ケットシーを守ってるはずなのに、全然隙がねえぞ!! ていうか猫を抱えたアサシンちゃんをさらに抱えて跳ぶってなんだ!?」

「メイちゃんたち、こんな圧倒的なのかよ……っ!」


 メイとツバメのケットシーパス戦略に、驚愕の参加者たち。

 散り散りになってしまった状態では陣形を直すこともできず、さすがに足が止まってしまう。


「……こんなに心強いんですね、メイさんたちと一緒だと」

「ここは一度離れましょう! そこそこ派手に戦っちゃったし、また集まってきてるわ!」


 感嘆するキティラを前に、レンはすぐさま移動を提案。


「はいっ!」

「りょうかいですっ!」


 四人はそのままできるだけ人通りの少ない通りを抜けて、街の奥地へ向かう。

 狭い場所は囲まれてしまう可能性もあるため、猫の通り道から続く広場へと移動。


「時間はまだ少しあるわね。でもメイが『耳』で敵の接近は気づけるし、焦らずいきましょう」


 うなずき合い、静かに進む四人。

 広場の片隅に踏み込んだ、その瞬間。

 足元に隠されていた魔法陣が煌々と輝き出した。


「わ、罠っ!?」

「うごけないですっ!」


 足が地面にピタリと張り付き離れない。


「な、なんか罠を張っておいたら、とんでもない大物がまとめてかかったー!」


 猫の集まりがちなところに罠を置いておけば、かかるかも。

 そんな感じで偶然メイたちを罠にかけた弓術師が、叫び声をあげた。

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