第685話 ケットシーを探します!

「お待たせいたしました! 今年のフェスも、お宝争奪戦が始まります!」


 ラフテリアの北部草原、その一つのステージに運営が上がる。

 するとプレイヤーたちも、あっという間に集まってきた。


「さて、今回のお宝ですが――――魔獣です。会場のどこかにすでに潜り込んでいます! そしてこの魔獣はなんと従魔にしても良し、使い魔にしても良しという特別仕様!」

「「「おおおおおお――っ!」」」

「制限時間終了時に、HPゲージを残したまま所持していたプレイヤーのものとなります! ゲージを失ってしまうと逃げ去ってしまうので気をつけてください!」

「お宝はどんな魔獣なんだ!?」

「今回はこの子! ケットシーです!」

「「「おおおおおお――――っ!」」」


 ステージモニターに映し出されたケットシーは、通常の個体よりも少し大きな身体をした白銀の猫。

 首に巻いた赤いスカーフが、良く映えている。


「魔法を得意とするこの子は、可愛いだけでなく頼りになります! まだ誰も従魔化していないこのケットシーを見つけ出し、奪われないよう守り抜いてください!」


 そう言って運営は、右手を高くつき上げる。


「それでは、第7回お宝争奪戦……スタートです!」

「「「うおおおおおお――――っ!!」」」


 開始と同時に、参加者たちが一斉に走り出す。


「人がいっぱい集まってたから見に来てみたけど、こんな企画もあるのね」

「会場のどこかにいるというのは、なかなかワクワクする設定ですね」

「本当だねぇ」


 駆け出していくプレイヤーたちを眺めながら、うなずくメイ。


「ど、どうしよう……」


 するとそこに、顔を青ざめさせる一人の少女がいた。


「どうしたのー?」

「……メ、メイさんっ!?」

「メイですっ!」

「じ、じじじ、実は……っ! ずっと狙っていた白銀ケットシーが、今回のイベントの賞品になってしまったんです!」


 そう言って少女は、頭を抱える。


「二年ほど前に偶然ケルティアで見かけて、それから追いかけてきたんです……でもそれがこんな形で……っ」

「それは不運ですね……」


 他に誰も連れていない魔獣を見つけて追いかけてきたのに、ここでまさかの賞品化。

 ツバメ、少女の不運にすごく共感する。


「それは確かに厳しいわねぇ。こんなに猫好きなのに……」

「彫金ができる鍛冶師さんに頼んで、入れてもらったんです」


 見れば少女のフードは猫耳付き。

 防具にも、猫の肉球形マークが入っている。

 装備品への装飾は、手間はかかるが『数値的上昇』などはなし。

 それでも複数施している辺り、どうやら猫好きとして気合が入っているようだ。


「そういうことなら手を組んでみる? 四人で探せば、どうにかなるかもしれないし」

「組みましょうっ」

「い、いいんですか? よろしくおねがいしますっ! 私、キティラと言いますっ!」


 まさかの提案に、即座に頭を下げる猫好き少女キティラ。


「お礼は私の持ち物、装備品で良ければ、何でも持って行ってくださいっ!」

「思う存分、ケットシーをなで回す権利をお願いします」

「欲しいですっ!」

「それはいいわね」

「まずはケットシーを見つけないといけませんね。制限時間内に見つけろという時点でもう、運の良し悪しが関係してきそうです……」


 山間部も含めた広い舞台の中から猫一匹見つけるというのは、当然難しい。

 ツバメはキティラから『運』という言葉が出た瞬間からもう、顔を引きつらせている。


「おまかせくださいっ!」


 しかし、メイが右手を上げれば状況は一変する。


「お近くの皆さんっ! 力を貸してくださーいっ!」


【呼び寄せの号令】を使用すると、付近の動物たちが一斉に集まってきた。


「わあ……っ」


 犬や野鳥はもちろん、リスや豹がメイを囲むように集合。

 キティラはその光景に感嘆する。そして。


「ね、猫ちゃんもいっぱい……っ!」


 港町ということもあってか、カモメや猫が多めだ。


「ケットシーちゃんの居場所に、心当たりがある方はいませんかっ!?」


 メイがたずねると、始まる動物たちの話し合い。

 名乗りを上げたのは、一匹の黒猫だった。


「あの子を追いましょうっ!」

「猫ちゃんが、先導してくれるんですかっ!?」


 駆け出す黒猫の後を追い、メイたちは走り出す。


「いい移動スキルを持っているのね」

「ケットシーを捕まえるために、機動力を付けたんです!」


 ケットシーと一緒に旅をすると決めた彼女は、【敏捷】系にステータスを振っていたようだ。

 なかなかの速さで、三人の後を付いてくる。


「人が集まってるよ!」


 黒猫がやってきたのは、街外れにある魚店。


「ここですね」

「安易だけど、皆考えることは同じってところかしら」


 やはり対象は猫ということで、目を付ける場所は同じようだ。しかし。


「ただ、ケットシーは施されることを良しとしない気高い一面もあるので、お店にはいないと思います」


 その言葉通り店前に白銀猫の姿はなく、参加者たちはきょろきょろと付近に視線を走らせている状況。


「あの子も、気づいてるみたいだよ」


 黒猫の足は止まらない。

 そのまま進んで、店の裏手へと回っていく。

 するとそこには、港へ抜ける一本の路地が続いていた。

 その壁の上、木の枝葉の陰に寝転んでいるのは、気品を感じさせる白銀の猫。


「あの子だー!」

「こ、こんなに早く……」

「ありがとーっ」


 メイが黒猫を撫でると、少女は驚きに目を見開きながら白銀猫のもとへ。

 キティラが手を差し出すと、ケットシーは鼻で確認するようにした後おとなしく立ち上がり、足元に降りてきた。

 恐るべき早さでの発見に、「信じられません……」と繰り返すキティラ。

 しかし、このアトラクションの難しさはここからだ。


「おい、いたぞ! ケットシーだ!」

「ていうかあれ、メイちゃんじゃねえか!」


 そんな声と共にやって来たのは、四人組のパーティ。


「……よし、あれをやるぞ!」

「「「おうっ!」」」


 相手がメイたちだと知ったパーティは、うなずき合う。

 そして剣を手に、下卑た表情を見せ出した。


「へっへっへ、お嬢ちゃん。その猫をこっちに渡してもらおうか」

「ケガしたくなかったら、言う事を聞いた方がいいぜぇ」


 意外と堂に入った演技で、悪人パーティを始める三人。さらに。


「アタイにその子を寄こすんだよ!」


 同パーティの女子プレイヤーまで、自分なりの悪人を演じ始める。


「この子には譲れない理由があるんですっ!」

「はっ、こうなったら仕方ないねえ! やっちまいなーっ!」

「ケットシーにはHPゲージがある、そこは気をつけろよ!」

「「「おうっ!」」」

「【ストームブレード】!」

「【グラビティアックス】!」

「うわわっ!」

「【ファイアボール】!」

「うわわわっと!」

「いまだ! 【ラピッドダッシュ】!」

「っ! いいコンビネーションね!」


 二人の剣技を回避させ、魔法で崩して高速接近。

 まとまった連携は、並みのパーティならすでに不利に追い込まれていただろう。

 しかし伸ばした手は、メイを捉えるには至らない。


「【アクロバット】!」


 アタイ女子の高速接近は、ケットシーを抱えたままの回転跳躍で回避。


「速っ!? 気をつけな! アタイらが思ってる3倍くらい早いよ!!」

「【加速】【リブースト】」

「「「ッ!?」」」

「【瞬剣殺】!」

「「「うわああああ――っ!!」」」


 次の瞬間、風のように飛び込んできたツバメの放つ一撃がまとめて斬り飛ばす。


「【バンビステップ】!」


 そのまま四人組パーティを置き去りにしたメイたちは、港側へと抜けていく。

 しかしそこには、ケットシーを探して駆け回っていた無数のライバルパーティ。


「い、いたぞぉぉぉぉ――っ!! ケットシーはメイちゃんの手にある!!」

「捕えろぉぉぉぉ――!!」

「「「うおおおおおおおお――――っ!!」」」


 こうして港町でのケットシー争奪戦は、その激しさを一気に増していくのだった。

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