第682話 小型召喚獣と一緒に!
「……あれ?」
メイは立ち止まり、客席にいた一人の少女のもとへ。
「この前も来てくれてましたねっ。ありがとうございます!」
メイが声をかけたのは、なぜか覆面姿で盾を持ち、その陰に隠れながら【世界樹の実タルト】を頬張る少女。
「ひぇああっ!? すすすすみませんっ。わわわわたしのような日陰者が、何度もこのような場所に来てしまい……っ! す、すぐに退店しますのでっ!」
覆面少女はそう言って、慌てて大盾の裏に隠れる。
「いえいえっ! また来てくれてうれしいですーっ!」
メイがそう言うと、飛び出してきたいーちゃんが少女の肩に飛び乗った。
「か、かわいい……っ」
サムズアップするいーちゃんにそっと触れて「はぁぁぁぁ……っ」と、盾少女は歓喜の声をもらす。
そんなほほ笑ましくも楽しい光景の、すぐ隣。
「やあ、元気かいナイトメア」
現れたのは、維月刹那・ルナティック。
和装混じりの近接型魔導士にして、大罪悪魔『強欲のアモン』を駆る悪魔召喚士だ。
「貴方たち、こういうところにくるタイプじゃないでしょ……?」
「ナイトメアのいる店だなんて聞いてしまったら、来ないわけにはいかないだろう?」
「こういうところに気まぐれで来ちゃう強キャラがやりたかったんでしょう?」
「……否。如月は偵察にやって来た」
【ネビロス】を使役する元踊り子の悪魔召喚士、如月輪廻。
そう言ってメニューに目を落とす。
「使徒の先をゆく者。その世を忍ぶ姿を拝見したくなったのでございます」
弓術師から【フールフール】を使役する悪魔召喚士となった六道彼方は、静かな笑みを浮かべる。
彼女たちは、聖教都市アルティシアの崩壊をかけて戦った『暗夜教団』の連中だ。
「はいはい。いいから注文してちょうだい。言っておくけど意味深な顔で『――例の』みたいなのはなしよ」
「如月は【もこもこクリーム尻尾フラペチーノ】を選択する」
「私のオーダーは【白狼アイスプリン】でございます」
「クックック、ならばボクはこの【クマさんメープルケーキ】にさせてもらうよ」
「その見ためと言い方で、全員可愛いやつを選ぶのね」
暗夜教団の思わぬオーダーの可愛さに、レンは思わず苦笑い。
「それで、この店の裏ではどんな恐ろしい野望を企てているんだい?」
「そんなのないわよ……あ」
もう一つ上のレベルの妄想を叩き込んでくる刹那に、不意に思いつく。
「でも、そろそろかしらね」
「そろそろな感じですね」
「そろそろ……?」
メイが首をかしげていると、案の定一人のNPCが店に駆け込んできた。
「さて、今度は何かしら?」
「こ、この店のいい匂いを嗅ぎつけた魔獣が、突撃してきてるんだ!」
「ええええええ――――っ!?」
直後、広い店先に飛び込んできたのは二体のサーベルタイガー。
その獰猛さがまるでカフェに見合わない恐ろしい魔物は、メイたちを見るなり盛大な咆哮をあげ走り出す。
「【バンビステップ】!」
しかし次の瞬間、攻撃モーションに入る前にメイはその懐に入り込んでいた。
「【キャットパンチ】!」
華麗な猫パンチで下あごを叩き上げる。
「パンチパンチパンチ!」
そこから数発叩き込んだところで、敵の前足攻撃をわずか一歩の横移動で回避。
「おねがいしますっ」
隙を作ったとこに駆け込んでくるのはなんと、親子グマ。
料理長のきまぐれクマパンチが二発決まったところで、ぴょーんと飛んできた子グマがフライパンを振り上げる。
そしてそのままフライパンを放り投げ、子グマパンチを叩き込む。
「ないすーっ!」
地面を転がるサーベルタイガー。
「それでは最後、よろしくお願いいたしますっ!」
メイが指さすと、ケツァールは高く舞い滑空体勢に入る。
そのまま敵頭上に飛来すると、強烈な蹴りを叩き込んだ。
「ないすーっ!」
「「「おおーっ!」」」
メイと小型従魔との連携に、あがる歓声。
「【加速】」
もう一体のサーベルタイガーのもとに駆けつけるのは、ツバメと白狼。
ツバメが高速移動による斬りつけを放つと、即座に振り返る。
その瞬間、白狼の爪が敵の肩口を斬りつけた。
続く飛び掛かりを、慌ててかわすサーベルタイガー。
しかしその隙に背後を取ったツバメの短剣が決まる。
「ガオオオオオオ――――ッ!!」
サーベルタイガーが再び振り返り、放つ咆哮。
これをツバメはあえて防御で済ます。
するとこの隙に小象が放った水砲弾が直撃し、水飛沫が飛び散ったところに白狼がかじりつく。
炸裂する白煙。
サーベルタイガーの脚が氷結し、身動きが取れなくなった。
「【低空高速飛行】!」
爆発する技は飲食店的に無しと考えたレンは、【魔剣の御柄】に【フリーズストライク】を灯らせつつ接近。
「はあっ!」
見事にサーベルタイガーを切り裂いた。
「お、おおおおっ」
「「「おおおおおおおお――――っ!」」」
可愛い動物たちとのコンビネーションを見た観客たちが、一斉に歓声を上げる。
「なんだよその連携っ! 小型召喚獣とのコンビネーションもあるのか!」
「この可愛さで一緒に戦えるとか反則だろ……っ!」
動物大好き従魔士勢は、歓喜に思わず立ち上がる。
小象の額を撫でるツバメと、狼をポンポンするレン。
さらにメイも、クマやケツァールと一緒に拳を突き上げる。
「やっぱこれだよな!」
「カフェだけでなく、メイちゃんたちのアクションまで見られる。これがいいんだよ!」
すっかり過熱していたクジ勢も満足そうにうなずくと、再びクジを無限に引き続ける作業に戻っていく。
「小型召喚獣との連携、とても楽しいです」
「このコンビネーション、普段も使えたらいいのにね」
「……ナイトメア」
笑い合う二人、レンのもとにやって来たのは刹那。
白狼の頭を軽く撫でると、倒れたサーベルタイガーを見ながら意味深な笑みを向ける。
「やはり背後に、きな臭い野望がうごめいているようだね」
「そういうことじゃないの! これはアトラクションなの!」
「ボクはとっくに予想していたよ?」とばかりに笑う刹那に、「……やはり」と静かにうなずく教団員達。
今回もカフェは大盛況だ。
「あ、当たりくじきたーっ! メイちゃんフィギュア、野生の王者バージョンだぁぁぁぁ!!」
「ええええーっ!? そんなのもあるの――――っ!?」
慌てて商品の確認に走るメイに、また皆が笑う。
楽しいメイちゃんカフェはフェスを盛り上げ、星屑の飲食システムまでさらに加熱させることになりそうだ。
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