第681話 開店・メイちゃんのフォレストカフェ!
「お待たせいたしましたーっ」
「か、か……」
「「「かわいい――――っ!」」」
フォレストカフェの店内を忙しく駆け回るメイに、女性パーティが身を震わせる。
白のショートパンツに合わせた半そでジャケットには、エメラルドグリーンの意匠。
頭に乗せたツバのない丸キャップには、葉っぱの飾りつけ。
そんなメイの姿に、各所で歓声が上がる。
カフェは開店と同時に大盛況。
メイたちは忙しく店内を駆け回っているのだが、前回とは少し違う。
客席が増えた分、お手伝いとして小型化召喚獣たちも店内を駆けている。
メイが動物たちと一緒に料理を持ってくる瞬間は、自然と歓声をあげてしまうほどだ。
「ありがとーっ」
わずかに遅れてやって来たのは、くちばしでトレーをくわえたケツァール。
その走り方が両翼を広げた状態なのが、とにかくほほ笑ましい。
最後にやって来た子グマが食器を置いていく姿は、悶えてしまうほどだ。
「ああっ!」
手を振る妖艶なお姉さんを見つけて、メイが声を上げる。
そこには新大陸で戦ったプレイヤーたちが、並んでいた。
フロンテラ陣営の中核だった七新星のキュービィとココ、アングル陣営のアトラクナイアの三人だ。
「飲食システムも、すっかり広まったわねぇん」
エジプトの王族を思わせる金の装飾品を身に付けたお姉さんは、『魔眼の輝き紅茶』を飲みながら笑いかける。
「メイちゃんたちがカフェをやる度に、利用者も増えていった感じだよね!」
短い銀髪に子供のようなノリの元気少女。
拳闘の武術家ココは『蓄食フルーツパフェ』に夢中だ。
「メニューはどうやって決めてるのかしらぁ?」
「皆で話し合って決めました!」
「あ、あわああああ――っ!!」
突然の事態に震える召喚士アトラクナイア。
赤リボンに肩までのピンク髪少女は、驚愕に悲鳴をあげた。
頼んだ『グレートキャニオン・パンケーキ』を、小象が背中に乗せて持ってきたのだ。
「今回はこの子も、店内勤務になりましたっ」
「これはさすがに……かわいすぎるのでは……」
手を伸ばすと、小象の鼻と握手。
「こ、この子が召喚できるなら、イフリートは諦めてもいい……」
「ええええーっ!?」
「とんでもないこと言うわねぇん」
「でも、その気持ちは分かるかもっ!」
大きくうなずくココ。
「帰りに必ず、小象ちゃんぬいぐるみを手に入れる……これは瑠璃花と桜子も大変なことになりそう」
メイのいる時間は外れてしまったメイ好きプレイヤー二人は、その分も商品購入に気合を入れているようだ。
アングル陣営組は、この後クジ地獄に堕ちるのだろう。
「……メイちゃん素敵ねぇ」
笑い合うメイたちの光景を見て、つぶやくシオール。
白地の多いシスター服をまとった長い黒髪のプリースト。
メガネの良く似合う、知的な女性プレイヤーだ。
「やっぱりここ、最高に癒されるわ……」
トレーをくわえて持ってきた白狼の頭を撫でると、その表情をうっとりさせる。
「もう、常設してくれればいいのに……っ」
笑顔の眩しいメイと、小型化した狼の組み合わせ。
どうやら日々ストレスの中で生きているシオールに、この空間は最高の癒しになっているようだ。
「そんなことになったら入り浸りですなぁ」
ドール使いの錬金術師なーにゃは、いつもののんびりモードで『紫電スパークサイダー』を口に運ぶ。
「いいなー。次はローチェちゃんも入れてって、運営にメッセージしておこっかなぁ」
そして今回も、ローチェはこの空間を見て「いやんいやん」とあざとく首を振る。
コンセプトカフェが大好きなローチェには、星屑世界でプレイヤーがやるカフェがとにかく羨ましいようだ。
ウェーデン三人組は、これでもかというくらいのくつろぎぶりを見せている。
「さすがメイさんです」
こうしてトッププレイヤーたちがわざわざ集まってくるのは、メイに会うためというのが大きいのだろう。
それを感じたツバメは、感嘆の息をつく。
「ツバメどのっ」
「はい」
そんな中そっとツバメを捕まえたのは、ドール使いのなーにゃ。
「ついに完成してしまいましたぞ!」
「何がですか?」
ツバメがたずねると、なーにゃは連れていたドールのフードを取り払う。
「……っ!」
現れたのは、ツバメをモチーフにしたドール。
近距離敏捷型のアサシンドールは、その作りも見事だ。
「いやぁ、これまでの貯金のほとんどを使い果たす形になってしまいましたな」
それにもかかわらず、やり切った感のある表情のなーにゃ。
「ああっ、こうしてツバメちゃんと並ぶと最高ですな……っ! かわいい、小さい、そして強力!」
「まるで鏡を見ているようです……なーにゃさん」
「なんですかな? もしや! リアルに体型の計測をさせていただけるといった類のお話――」
「この子はせめて、陽のあたる世界を生きさせてあげてください」
「陽のあたる世界……!?」
謎の言葉に驚くなーにゃ。
自身に瓜二つのドールを前にしても、ツバメは相変わらずのようだ。
「…………黒い」
さすがに、言わずにはいられない。
レンはこらえきれずにため息を一つ。
一部の席に集まった黒づくめの集団は、明らかにレンに視線を向けている。
正直、オーダーを取りに行きたくない。
「でも……」
相手をしたメイやツバメが感化されようものなら、それはそれでシャレにならない。
レンはため息をつきながら、木漏れ日差し込むフォレストカフェの一端に陣取った黒づくめたちのもとへ向かう。
「ほう、似合っているではないかナイトメア」
「リズはこの場が似合ってないわよ」
小鳥が集まってきそうなカフェに、堂々と居座るガチガチの黒い騎士鎧にめまいを覚える。
「兜くらい取りなさいよ。リズ自体は普通にしてれば、むしろこういうところが似合う方でしょ」
黒の鎧の中身は、長い金の髪を結んだ美少女。
レンは黒神リズ・レクイエムに兜を取るよう勧めるが――。
「これが正装だ」
「貴方本当に、兜したままお茶飲みそうよね……」
「当然だ。食事もフルフェイスのまま行っている」
「……貴方もよ、雨涙」
「――問題ない。笠は口元を塞いだりはしていない」
鳴花雨涙も黒の笠をかぶったまま、真剣に『ツバメ厳選抹茶ラテ』を楽しんでいる。
「まさか、使徒長がこのような凡俗な格好をしているなんて……っ」
そんな中、一人の黒づくめ少女が信じられないといった雰囲気でつぶやいた。
「そうなのよ! むしろ私はもう、そういうのはやらないの!」
レンはここぞとばかりに『自分は闇の使徒でも何でもなく、今は普通のゲーム好き少女なのだ』という方向に話を持っていこうとする。しかし。
「ふふふ。まったく、何もわかっていないのだな」
そう言って、別の黒づくめ少女がこれ見よがしな息をついた。
「使徒長という身分を隠して生きるための芝居は、落差が大きいほどよい」
「これが世を欺く仮の姿というわけですね」
「この大胆さが、別人のような振る舞いこそが、使徒長が使徒長たるゆえんということか。ククク」
「そろって奇妙な笑い声をあげるのはやめて! こっちが本来の私なのよ!」
「「「フフフフフフフ」」」
集まった闇の使徒団へのツッコミが止まらない。
どうやらレンは、今日も絶好調のようだ。
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