第680話 メイちゃんカフェ・リターンズ

『実はメイさんのカフェは、今回のフェスでも開催が熱望されています』

『プレイヤーからこのような要望が大量に届くことはなかなかない』

『またおかげさまで、飲食システムも非常に人気が高くなっている』


「おおー……」


 届いた運営からの手紙に、感嘆の声を上げるさつき。

 どうやらすでに『メイちゃんカフェ』は、要望がまとめて届くほどの状態のようだ。


『つきましては今回の星屑フェスでもカフェを開催、メイさんたちにもお手伝いいただければ幸いです』


 メイとしてはカフェというもの自体におしゃれなイメージがあり、素敵なお姉さん感もある。

 ぜひとも参加したいところだ。


「えへへへへ」


 レンやツバメと三人、綺麗な衣装でスタイリッシュな店舗を駆け回る姿を想像して、思わず笑みがこぼれる。

 そして一緒に同封されていた、カフェ案を手に取って――。


「ええええええええ――――っ!?」


 一つ目の案は『メイちゃんの大ジャングルカフェ』

 南国の密林の中に原木を削り出して作ったテーブルやイスが並ぶ、野生児の営業してそうなカフェ。

 そこに描かれた店員メイは、裸足に毛皮のマント。

 背後にはフルーツを持った動物たちの姿。

 下手をすれば、使う器もヤシの実を半分にしたものになっていそうだ。


「だだだ大ジャングルは困りますーっ!」


 悲鳴をあげながら、もう一枚の図案に目を向ける。

 二つ目は森の中に立つ『メイちゃんのフォレストカフェ』

 木々の中、木漏れ日が北欧を思わせる白木のテーブルやイスにかかる。

 その上に乗せられたクロスも、穏やかな色使いで目に優しい。


『現在この二案のカフェでなやんでいるのですが……』


 メイはすぐさま、そこに書かれていた担当者の番号に電話をかける。


「メメメ、メイですっ! フォレストカフェでお願いしますーっ!」



   ◆



「というわけで、大ジャングルカフェはどうにか免れましたっ」


「あぶなかったー」と、額の汗をぬぐうメイ。


「もともとは二つ選択肢があったのですね」

「ふふ、そんなやりとりがあったのね」


 レンは笑いながらも、もしこれが『闇の大魔導士カフェ』だったらと想像して冷や汗をかく。

 メイたちがやってきたのは、ラフテリアの西南部に作られた穏やかな森。

 下草も柔らかく、そこに建てられた一軒の木造建築はスキー場のロッジのようにも見える。

 各所に飾られた花によって、エルフでも住んでいそうな雰囲気だ。

 店舗フロアは庭にも広がっていて、かなりの面積と席数を有している。


「今回はこれまでよりさらに広いですね」

「お客さんがいっぱい来るから、大きなお店にしたんだって!」


 そう言ってメイたちが、店の中に入ると――。


「わあ! みんな可愛くなってるーっ!」


 今回は召喚獣も一緒に手伝いをしてくれるようだ。

 いつものクマは2メートルほどになり、パティシエ帽。

 狼も体躯は大型犬ほどになり、首元にスカーフを巻いている。

 ケツァールや白象も程よく小型化しており、メイは思わず皆を抱きしめる。


「ふわふわだーっ!」

「これは今まで以上の人気になりそうです……っ!」


 そしてそんな姿を見て、歓喜の声を上げるツバメ。

 前回はメイたちがいない時間も、クマ親子が人気がけん引。

 狼がとことことスイーツを持ってくる姿も大人気だった。


「レンちゃん! 見て見てーっ!」


 店長メイは、これ見よがしにカップを手にするとキリッと決め顔。


「コーヒーの旨味がとてもいいです」

「……コーヒーはあんまり、『旨み』って言わないと思うけど」


 笑いながらツッコミを入れるレン。


「まずは制服に着替えましょうか」


 制服に装備を換えると、ショートパンツをメインにした、白地に鮮やかな緑の入った衣装になる。


「いつも思うのですが、おしゃれなカフェに入れない私が店員をしてよいのでしょうか……」


 制服姿の自身を見たツバメは、ポツリとつぶやく。


「ラーメン店や牛丼店なら行けるのですが……」

「……逆じゃなくて?」


 女子としてはカフェの方が余裕な気がするが、ラーメン店の方が入りやすいというツバメに、思わず首を傾げる。

 どうやら個人でスッと行ってサッと帰れるタイプの店の方が、ツバメには楽なようだ。


「それではそろそろ、お店をオープンさせましょうか」


 開店時間の直前。

 そこにやって来たのは、一人の運営女性。


「本日はよろしくお願いします。私たちは店内のスペースでクジなどの販売をさせていただきますね」


 次第に聞こえてくる、賑やかな声。

 今日はオープンからメイたちがお出迎えということで、別の運営に引き連れられたプレイヤーたちが続々とやってくる。

 メイたちのいる時間帯のお宝チケットを手にワクワクで店内に入ると、その目はまず『物販』に向かう。


「お、おい見ろ! や、やりやがった」

「どうした!?」

「同じポーズのフィギュアなのに、猫メイちゃん、鹿メイちゃん、狐メイちゃんみたいな差分攻勢で、コレクションが大変なことに……」

「う、運営は鬼なのか……?」

「それだけじゃない! さらに……!」

「まだ他にもあんのか!?」

「メイちゃんと、各召喚獣が一緒っていうものもある」


 こちらもクマに跨るバージョン、ケツァールの背で飛ぶバージョンなどパターンが多い。


「ふ、ふざけるなよ運営! クジ10個ください!」

「一言で矛盾してんじゃねえよ! 10ダースください!」


 始まったメイちゃんのフォレストカフェ。

 どうやら今回も、賑やかな時間になりそうだ。

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