第683話 星屑ガチャ

「来い、来い来い来い――――っ!!」


 ラフテリアの街角。

 そこは一見普通の商店だが、中には無数の宝箱が詰め込まれている。

 店前の賑わいは、もはや熱狂と言える状況だ。

 剣士装備の男が、買ったばかりの宝箱を祈りながら開く。


「ちくしょおおおおおお――――っ!!」


 中身は薬草。

 剣士は頭を抱えながら、悲鳴をあげて倒れ込んだ。

 そしてそれを見ていた観客たちが、大きな拍手を送る。


「皆何をしてるの?」


 カフェ仕事を終えた三人。

 そんな盛り上がりを見つけたメイが、首と尻尾を傾げる。


「あの宝箱の価格はそれなりに高くって、ちょっとしたレア装備くらいの値になるの。その代わり箱から出てくるのは武器・防具・アイテムなど様々で、とにかくランダム」

「そのため、運が良ければとんでもないレア装備や特殊アイテムが出てくることもあるのです。時には身の丈に合わない強武器なんかも、クエストを達成せずに手に入ります」

「そうなんだぁ」

「罪深いアイテムよねぇ……宝くじみたいな要素もあるから、誰かへプレゼントしたりもするみたい」

「ギャンブルとして熱狂する話もよく聞きます」


 とにかく開封時、皆で開ければ盛り上がるということで人気のこの宝箱。

 フェスの空気もあって、かなり賑わっているようだ。

 全てを使い果たして倒れ伏す者があふれる中、薬草を手にした剣士はふらりと立ち上がる。


「……そうだ。装備品を売ればいいんだ」

「「「やめろおおおおお――――!!」」」


 大慌てで止める、剣士のパーティメンバーたち。


「お前もう炎剣売っただろ! あれだけでもういつもの狩場の効率が下がってんだぞ!」

「次で取り戻して、炎剣を買い戻せばいいだけだ!」


 そう言って剣士の男は、パーティメンバーを振り払って新たな宝箱を買い求める。


「始めたら止まらなくなっちゃう人もいるのよね」

「一度レアアイテムや装備品などが出るのを見てしまうと、我慢できなくなってしまうのでしょう」

「それは怖いねぇ……」

「確かにこいつが外れりゃもうおしまいだ……炎剣どころか耐性防具も売っちまったから、新たに金を溜めるなら雑魚狩りからになる……」

「ええっ!? それは大変っ! いいものがでますようにーっ!」


 震える手を箱に伸ばす剣士を見て、メイは思わず祈る。


「……メイちゃん!? 見ろ、メイちゃんが応援してくれてんだ! これは良い物が出るに違いない!」


 剣士は目を血走らせながら、宝箱に手を伸ばす。


「いいアイテム出ろ! そしてイベントクエストとかで優勝させてくれ! あとメイちゃんたちとクエストで一緒になって、広報誌も同じページに載せてほしい!」

「どれだけ強欲なんだよ」

「ついでとばかりにあれもこれも要求する、図々しさの化身じゃねーか」

「いくぞ! 宝よ現れろぉぉぉぉ――っ!!」


 苦笑いの観客たちの中、気合と共に宝箱を開ける剣士の男。

 まばゆい光の演出の後、中身が明らかになる。

 その中にはなんと、金に輝く一本の杖。


「き、きた……! クフフ王の黄金杖きたぁぁぁぁ――っ!!」

「マジかよ!? 今売買価格40Mとかだろ!? 一発で4000万とか大当たりじゃねえか!!」

「俺、決めたわ……」

「ああそうだな。そいつを売って装備を1ランクあげよう! 戦いも楽になるぞ!」

「これからは真面目に狩りをしようぜ!」

「…………杖を売って、さらに倍にする」

「「「やめろおおおおおお――――っ!!」」」

「今ならやれる! メイちゃん神の加護がある今ならいける――――っ!」

「【痺れ針】!」

「うぐうっ!?」

「よし、取り押さえろ! このまま連行するんだ!」

「「「おうっ!」」」

「メイちゃんありがとう! これで苦しかった新狩場にいけるよ!」

「いえいえーっ」


 パーティメンバーに引きずられて、去っていく痺れ剣士。

 またその姿に、観客たちは大笑い。

 どうやらこういうやりとりが、お祭り会場ではよく見られるようだ。


「まったく、見苦しいですねぇ」


 するとそんな宝箱店の前に、一人の騎士がやって来た。

 全身を黄金で固めた金ピカ騎士。

 成金感を全開で出していくスタイルで、連れらていていく男をあざ笑う。


「運勢はあくまでその人間が持つ『力』のようなもの。他人に振り回される程度なら初めからやめておけばいいのです」


 髪も金色のまばゆい青年は、「ハッ」と前髪を払ってみせる。


「僕くらいの豪運の持ち主になれば、いつでもどんな形でも『当たり』を引くことができる」


 そう言って成金青年は、宝箱店の前に立つ。


「そうだね、宝箱を10個いただこう」

「一気に10個!? こいつはチャレンジャーだな!」


 盛り上がる観客たち。


「そうだ! どの箱を買うかは、君たちに決めてもらおう。どうせなら運の悪さに自信があるプレイヤーがいいんだけど……」


 誰に頼もうかと、付近を見渡す成金青年。


「おや?」


 すると、ツバメが手を上げた。


「ツバメ?」

「ツバメちゃん!?」

「……この最高の運勢を持つプレイヤーさんの持つラッキー力で、流れが変わるかもしれません」

「それじゃあ、そこのアサシンちゃんに頼んじゃおうかな」


 始まるホコタテ対決。

 絶対不運なツバメvs超幸運な成金プレイヤー。


「では、これとこれ。あとこの列の上のものと、この列の3つで計10個。お願いします」


 ツバメは言われた通り、宝箱を10個まとめて選定。


「決まったようだね。それでは君たちも開封を手伝ってくれ。僕の得た大当たりアイテムたちをお披露目しようじゃないか!」


 ワクワクしながら、宝箱の前に立つ観客たち。


「さあ見たまえ庶民ども! この僕の豪運伝説を――――っ!」


 成金青年の言葉に、ツバメを始めたとした観客たちが一斉に宝箱を開封する。


「『木刀』」

「『長靴』」

「『バケツ』」

「『ブラシ』」

「『石ころ』」

「『木炭』」

「『布切れ』」

「『ロウソク』」

「『空きビン』」

「『鍋のふた』」

「…………」


 中身は見事にゴミばかり。

 長靴に至っては穴が開いていて使い物にならないうえに、片方だけというありさまだ。


「「「あはははははははははは――――っ!!」」」


 まさかの事態に、巻き起こる大爆笑。


「き、君は一体……何者なんだい……っ?」

「しがないアサシンです」


 白目でたずねる成金青年に、白目で応えるツバメ。

 その姿にまた、観客たちは盛大な拍手と共に笑い声をあげるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る