第672話 勝てないボスの倒し方
フェス会場にあるそのアトラクションは、落ち着いた賑わいを見せている。
【修練のモノリス】が建てられたその場所から、かつて自分が戦ったことがある敵やボスと対戦の練習ができる。
そのため、せっかく見つけたクエストだけどボスに勝てない場合は、ここで練習できるというのが強みだ。
負けてもペナルティはなく、ワイワイしながら対策を練るパーティ。
お祭り感がないため人気はそれなりだが、皆楽しそうだ。
「今度こそ! いくぜっ!」
「うんっ!」
騎士鎧を部分的に付けた緑リボンの騎士が、掛け声と共に駆ける。
敵は巨大な灰色竜。
全身にトゲを生やした、四足歩行型の魔獣だ。
「【ハイスピード】!」
高速移動で一気にトゲ竜の足元に迫り、手にした剣で二連撃。
トゲ竜の反撃は前足による踏みつけ。
これを二度のバックステップでかわしたところで、体重をかけた前腕の叩きつけ。
「うおおおっと!」
これをギリギリでかわしたところに、仲間が駆け込んでくる。
「【疾空】【斬火閃】!」
続く忍者少女が炸裂する炎の短刀を叩き込むと、トゲ竜はグッと身体を落とした。
「飛び掛かりだ!」
「うんっ!」
二人は急いで左右に回避。
しかしトゲ竜は、その場で一回転。
「「ッ!」」
払う尾の一撃を慌てて防御する二人だが、大きく後ずさり。
「【ウィンドバレット】!」
硬直が解けた時、トゲ竜は味方魔導士の風弾をかわして跳躍する最中だった。
狙いは回避からのボディプレスだ。
「「きゃああああーっ!!」」
範囲の広い一撃を、前衛二人が被弾。
「【ウィンドエクスプロード】!」
「「うわああああーっ!!」」
放った魔法はトゲ竜に当たって大きく体勢を崩したが、仲間二人も吹き飛ばされて転がる。
すると立ち上がったトゲ竜は、その目的を後衛の魔導士少女に変えた。
「【ウィンドストライク】!」
これを早めに狙い撃つが、トゲ竜は迷わず翼を広げる。
「「「ッ!!」」」
振り回す翼から、弾丸のように飛来する大量のトゲ。
前衛二人はこれを喰らいながらも、トゲ竜の跳躍を見て必死に退避する。
「あ、あれ!? 今度はボディプレスじゃないよ!」
炎の短剣を持った忍者少女が、悲鳴を上げる。
「マジかーっ!!」
トゲ竜は二人の前に着地して、そのまま硬質な尾をひと払い。
「「きゃああああーっ!」」
虚を突かれた前衛二人は、これも直撃をもらって倒れ伏した。
こうして戦線が崩壊。
「【ウィンドバスター】!」
とっさに放つ風の上級魔法。
しかし距離がある状態で放ってしまったことで、トゲ竜はこれをかわして前進。
縦の尾の振り回しを魔導士少女は必死にかわすが、続く払いを喰らって転がる。
さらに、起き上がったところに降り注ぐトゲの雨。
「あ、こらダメなヤツっすわ」
HP全損。
三人組の少女パーティはそのまま敗北し、元の空間に戻って来た。
「やっぱ厳しーな……」
「レベル的には勝ててもおかしくないのにね」
「あかんすなぁ」
うつぶせのまま、早くも12回目の失敗にうなだれる三人組の少女パーティ。
「……あれ?」
その目に、一人の猫耳少女が映る。
「メイちゃんだ!」
「メイですっ! ここは何をしてるんですかっ?」
「クエストボスと練習対戦できるアトラクションなんだけど、全然勝てねーんだ……」
騎士少女はそう答えて、不意に三人目を見合わせる。
「頼むーっ! 助けてくれーっ!」
「もうクエストで8回、ここで12回負けてんすよぉ……!」
魔導士少女がそう言ってメイの脚に飛びつくと、騎士少女と忍者少女も「おねがいしますーっ!」と腰もとに抱き着く。
「このままじゃ、夢にトゲ竜が出てきちまうよ……!」
「ええっ!? それは大変だーっ!」
かつてはよくトカゲの夢を見ていたメイ、思い出してノドを鳴らす。
「本番はクエストなんだよね。それならレンちゃんとツバメちゃんと一緒の方が色々分かるかもっ」
「そういう事なら、6人でパーティ組んでっていうのはどうかしら」
「ありがたし!」
メイの元気な二つ返事に、魔導士少女が歓声を上げた。
「トゲのドラゴン、今後の勉強になるかもしれません」
「ちょうど同じパーティ構成だし、勉強になること請け合いっすな!」
こうして今度は六人で、【修練のモノリス】を起動。
直方体の石板に吸い込まれるような形で、練習用の空間に移動する。
場所は広い洞窟の内部。
目の前には、四足型の硬質なドラゴンが待ち受けている。
「それじゃあさっそく、攻撃パターンを洗っちゃいましょうか」
「りょうかいですっ!」
「いきましょう」
駆け出すメイとツバメ。
トゲ竜は、振り上げた爪を叩きつけにくる。
これを難なくかわし、トゲの前腕叩きつけも程よい距離を保って回避。
するとトゲ竜は、体勢をグッと落とした。
「どどどどれだ!? 何でくるんだ!?」
先ほどの『飛び掛かり予想が外れて尾撃だった』ことを思い出し、慌てる少女たち。
「次の攻撃は、『首の角度』で判断できそうだよ!」
メイの言葉に、全員の視線がトゲ竜の頭に向かう。
トゲ竜の目は、前を向いたままだ。
「【バンビステップ】!」
「【加速】!」
二人は即座に左右に分かれる。
するとトゲ竜は、予想通り飛び掛かりを仕掛けてきた。
「ここは削りね、【連続魔法】【フリーズバレット】!」
振り返り際を狙った四連の弾丸で、レンがダメージを奪う。
「身体を下げた後、前向きなら飛び掛かり、左右を見たら回転で尻尾、上なら圧し掛かり系だと思いますっ!」
「そうだったのか……!」
トゲ竜はツバメを狙う。
二連続の前腕叩きつけをかわすと、一歩下がって一回転。
縦の軌道で尾を叩きつけにくる。
ツバメはこれを、程よい距離を保って回避。
「反撃は狙わないんですか?」
忍者の少女が問う。
「この振り降ろし、大人しく様子を見た方が良さそうなのよね」
レンがそう言った直後、地面にめり込むトゲの尾。
確かにこの瞬間、隙ができてはいるが――。
「「「ッ!?」」」
炸裂したトゲが、付近に飛び散る。
もし前衛が詰めていたら、ダメージを受けた上に隙まで晒す形になっていただろう。
「反撃はここよっ!」
「はいなぁっ! 【ウィンドストライク】!」
そしてこういう時こそ、魔法が活きる。
上半身を狙った空気砲弾が、しっかりとトゲ竜を叩いた。
「こういうことかぁ……」
魔導士少女がうなずく。
これまで前衛は幾度となく『縦』尾撃の直後を狙っていたが、運よく『炸裂』がきていなかっただけのようだ。
だが、どちらであれ隙はある。
ここは接近からの連携を狙うのでなく、魔法をぶつけてからのコンビネーションが良いようだ。
「それ、それそれっ!」
風の魔法で体勢を崩したところに、メイが三連続攻撃が決め、ツバメがつなぐ。
「【電光石火】!」
「今なら続けるわ!」
「お、おうっ! 【ハイスピード】【聖火剣】!」
「はい! 【疾空】【斬火閃】!」
「いいわね! こうつなげてくれれば、私も続けるわ! 【フリーズストライク】!」
体勢を崩していたトゲ竜は、頭部に氷砲弾を喰らい倒れる。
これでHPは、早くも残り5割ほど。
「……すっげー」
「こんなに綺麗に戦えるんですね……」
「メイちゃんたち、大技とか使ってないのになぁ」
感嘆の声を上げる少女たち。
メイたちならではの特別なスキルを使わずに戦うことで再現性を持たせつつ、こちらにダメージはなし。
完璧な立ち回りに、少女たちは感動すら覚える。
「さあ、ここからが本番よ!」
「がんばりましょうっ!」
「「「はいっ!」」」
メイの元気な声に、三人は気合を入れるのだった。
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