第673話 Please! Mei-chan!

「くるっ! トゲ攻撃だ!」


 飛び下がりつつ空中で大きく翼を開くと、それは大量のトゲを降らせる合図。


「きゃーっ!」


 忍者少女と騎士少女は慌てて逃げ出すが、メイとツバメは放たれたトゲ雨の範囲を把握。


「これなら、バックステップを繰り返してしっかり下がれば大丈夫っ!」

「もしくはあえて前進して――――【加速】【リブースト】【四連剣舞】!」


 メイは無理せず後方へ。

 ツバメはあえて高速で前進して、トゲ竜の懐に入り剣舞を放つ。


「この攻撃はモーションも分かりやすいので、発射時点での距離感で進むか戻るか決めても良さそうです」

「はいっ!」


 忍者少女が、歓喜の声を上げる。

 すると剣舞で下がったトゲ竜は、ここで大きく跳躍。


「く、くるぞっ!」


 再び慌てて逃げ出そうとする騎士少女。

 先ほどはボディプレスと予想したところに尻尾がきて、大惨事になった展開だ。

 しかしここでもメイは動かず、しっかりと空中のトゲ竜を見る。

 そして、攻撃モーションに入っていないことを確認。


「大丈夫ですっ」


 直地と同時に振り払われる尻尾を見て、声をかける。


「ここで跳びましょう! 【ラビットジャンプ】!」

「あいよ! 【ロングリープ】!」


 二人が飛び上がると、その足もとをトゲの尾が通り過ぎていく。


「空中で前傾姿勢を取ったらボディプレス、そのままなら着地からの尻尾だねっ」

「慌てず空中姿勢を見れば良かったんか……!」

「ブレスがくるよっ!」


 メイの早い注意が入る。

 するとトゲ竜は、予想通り炎弾を吐き出した。


「めずらしいわね、誘導の炎弾だわ」


 その軌道が弧を描いているのを見て、レンはギリギリまで引き付けこれを回避。


「【フリーズストライク】! 炎弾は後衛も狙ってくるから気をつけておいた方がよさそうね……反撃は速い魔法がベストかしら」

「了解っすな!」


 氷砲弾がかすめる程度にとどまったのを見て、レンが提言する。


「な、なあ、どうしてブレスがくるって分かったんだ?」

「ブレスはほぼ必ず『吐き出す前動作』があるから、頭を後ろに下げたら注意してくださいっ!」

「なるほど……誰でもいいから気づいた時点で声に出すといいかもな!」

「いいと思いますっ!」

「っ!」


 笑顔でうなずくメイに、うっかり目を奪われる騎士少女。


「それじゃあそろそろ、攻めましょうか」

「りょうかいですっ! 【バンビステップ】!」

「いきます【加速】!」


 メイとツバメは、一気にトゲ竜の前へ駆け込んでいく。

 二度の踏みつけを回避し、前腕叩きつけのモーションを見て距離を取る。

 地面にめり込む一撃の後、飛び散るトゲ。

 もちろんその時メイたちは、範囲外に移動済み。


「【フリーズストライク】!」

「【バンビステップ】!」

「【加速】!」


 氷砲弾が直撃し、体勢を崩したところに踏み込んでいく。


「よっ! それっ!」


 メイが先制して剣を入れたところで、駆け込んでくるのはツバメ。


「【電光石火】!」


 前足に斬撃を入れつつ駆け抜ける。

 そして後ろ足前にたどり着いたところで、そのままスキルを発動。


「【紫電】!」


 反撃に移ろうとしたトゲ竜が、ビクリと大きく身体を震わせ硬直した。


「【装備変更】!」


 メイはここで【狐耳】に装備を変えて【狐火】の剣を二連撃。


「【カンガルーキック】!」


 跳躍からの前蹴りで、さらに体勢を崩す。


「【フリーズブラスト】!」


 連携の締めは、激しい氷嵐でトゲ竜のHPを削り取る。


「流れとしては、こんな感じかしら」


 忍者少女は息を飲む。

 見ればここで流れは一段落しているが、ツバメはまだ攻撃を続けられる状況。

 メイも【カンガルーキック】時に敵と距離を取ったことで、氷嵐の範囲外へ抜けている。

 ここからさらに追撃してもいいし、予期せぬ反撃にも対応できる。

 そんな、良い布陣になっている。


「よし! あたしたちもやろうぜ!」

「うんっ」

「了解だ!」

「【ハイスピード】!」

「【疾空】!」


 騎士少女と忍者少女が、体勢を立て直したトゲ竜のもとへ。

 前足の二連打を上手にかわし、続く前足を振り払いを跳躍でかわす。


「【ウィンドストライク】!」


 そこに飛んできた風弾が炸裂し、トゲ竜が体勢を崩す。


「【斬火閃】!」

「【聖火剣】!」


 二人の続けざまの連撃でさらに長い隙を作り出すと、忍者少女が手に取った手裏剣を投じる。


「【爆火手裏剣】!」


 炎が炸裂して、動きのを止まるトゲ竜。

 どうやら【雷ダガー】に近いタイプの武器のようだ。


「今よ! 射線が空いてるからここで魔法を!」

「はいっ【ウィンドバスター】!」


 猛烈な風の奔流がぶち当たり、トゲ竜は砂煙を上げて転がる。

 そしてこの時点で、前衛二人は追撃に動ける状態だ。


「ないすーっ!」

「これは良いコンビネーションです」


 メイがパチパチと元気に拍手して、ツバメも「お見事です」とうなずく。


「これ、いい戦い方だなぁ……」


 ダメージを取りつつ、次の展開への準備もできる。

 そんな連携に、思わずため息を吐く騎士少女。

 こうしてHPが残り2割を切ったトゲ竜は、その目の色を赤く変えた。


「お、奥義かっ!?」

「ギャオオオオオオ――――ッ!!」


 トゲ竜は咆哮と共に、猛スピードで走り出した。

 その硬く鋭いトゲを鈍く光らせて、怒涛の体当たりを繰り出し続けるという恐ろしい戦法だ。


「おおおおいおいおいっ! こんなの反撃もできねえぞ!?」

「ど、どうすればいいのでしょうかっ!」


 砂煙を上げて暴れ回るトゲ竜に、逃げ回る前衛コンビ。


「【バンビステップ】!」

「【加速】【跳躍】!」


 ここでメイたちは、トゲ竜を引き付けしっかりと回避を続ける。

 一撃もらえば高いダメージに加えて転倒も取られるであろう、脅威の攻勢だ。

『奥義』というより『怒りモード』と言えるこの状況。

 それでもメイとツバメが、ひたすら回避を続けていると――。


「速度が落ちたわ!」


 予想通り、『疲れ』によって低速モードに変わる。

 こうなれば、スタミナが回復するまではチャンスの時間だ。

 通常よりもやや遅い速度で駆けてきたトゲ竜に向けて、メイは大きく息を吸う。


「がおおおおおお――――っ!」


 放つ【雄たけび】でしっかりを硬直を奪えば、後は一気に畳みかけるのみ。


「それでは、よろしくおねがいしますっ!」


 メイはその場を明け渡すように、バックステップで後退。


「い、いくぞ! 【ハイスピード】【聖火烈剣】!」

「うんっ! 【疾空】【斬火双閃】!」


 きっちり前衛二人が火力の高い一撃を叩き込んだところで、続くのは魔導士少女。


「これで終わりだー! 【ウィンドエクスプロード】!」

「「わああああ――――っ!!」」


 最後の一撃ということで、味方も思わず転倒する上級魔法でトドメ。

 HPゲージ全損のトゲ竜は、粒子になって消えていった。


「やったー!」

「お見事です!」

「いい畳み掛けね!」

「あ、ありがとうございますっ!」


 歓喜の忍者少女。


「メイちゃんたちのおかげで、自信がついたぜ!」

「最っ高の指南だった! これならリベンジもできるはずよな!」


 騎士少女は自信に顔を輝かせ、魔導士少女も杖をブンブン振って大喜び。

 もう三人とも、「いける」という感触しかないようだ。


「初めて見るモンスターだったけど、楽しかったわね」

「はい、良い経験になりました」

「うんうん! すっごく楽しかった!」


 こうして歓喜のまま、元の空間に戻ってきた六人。


「…………あれ?」


 そこにはすでに、プレイヤーの一団が集まっていた。

 どうやら戦闘中の各自の動きを確認できるように、モノリス上に投影される映像を見ていたようだ。


「メ、メイちゃん……」

「は、はい?」


 どこかシリアスな空気感に、思わず息を飲むメイ。


「うちのパーティも、指導お願いします――――っ!」

「俺たちも頼む! あの魔獣の戦い方を教えてくれーっ!」

「私たちもっ!」

「ええええええ―――っ!? レ、レンちゃーん!」


 すがりついてくるプレイヤーたちの姿に、驚くメイ。


「……まあそこまで人も多くないし、たまにはこういうのもいいんじゃない?」

「お力になれるなら」


 どうやら皆厳しいボス戦に相当苦しんでいるらしく、必死の様相。

 ツバメとレンは、苦笑いしながら応える。


「こちらもお願いします! メイ先生!」

「ええっ!? メ、メイ先生!?」

「はい! お願いしますメイ先生!」

「えへへへへ、メイ先生だってー。こまっちゃうなぁ……っ!」


 メガネの女教師になった自分を想像して、思わず頬が緩むメイ。


「でもこれ……全部に参加するとなると大変ですね……」


 こうしてメイたちは、いくつものパーティの戦いに参加。

 敵の攻撃をパターンを引き出しては、どう反撃を入れるかを提示。

 自信を付けるパーティの姿を見て、また新たな依頼が舞い込む。

 こうして三人はすっかり、ひっぱりだこ状態になってしまったのだった。

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