第671話 星屑発表会

「そろそろ時間だね」


『依頼』を受けたメイたちがやって来たのは、ラフテリア北部草原のステージ。

 それはオープニングセレモニーを行ったメインステージから、向かって右側にある。

 予定時間ちょうど、舞台の上に運営の司会者が上がる。


「そ、それではただ今より、星屑新職業の発表を行いますっ!」


 緊張の司会者は、今回初めて大きなアトラクションを任された運営の一人だ。


「うまく……いきますように……っ」


 これまで雑用ばかり続けてきた彼女の、初の大舞台と言えるだろう。

 祈るようにつぶやいてから手を上げると、光景が一変する。

 観客たちは一瞬で、白んだ青空と赤茶けた大地が広がる荒野へと移動した。

 VRMMOという世界ならではの、特別空間への瞬時移動だ。


「お、これってもしかして」


 勘の良いプレイヤーが気づき始める。


「すでにマップやクエストの開放が行われていた赤砂の荒野ですが、お待たせしていた新職業『シャーマン』の実装が始まります!」


 その情報に「おおっ!」と歓声が上がる。

 どうやら秘められているタイプの職ではなく、新たに広く公開されるもののようだ。


「その特徴は……こちらになります!」


 掛け声と共に、塔のような岩山から飛び降りて来た少女が華麗に着地する。

 鷲の羽を使った頭飾りに、大きなターコイズを付けたシルバーネックレス。

 使い込まれた槍を手にした少女は、インディアンのような姿をしたレン。


「「「おおおおーっ!」」」


 その姿に、早くも歓声が上がった。

 独特な世界観を持つ衣装に、プレイヤーたちは目を奪われる。


「まだまだ、新職業の紹介はここからですよっ!」


 運営は姿を変え、なんと巨大なドラゴンに変身した。


「「「おおおおっ!?」」」


 これまでの発表会では、見たことのない演出。

 噴き出す猛烈な炎に、観客たちが驚きの声を上げる。


「それっ!」


 しかしレンは迫る炎を意に介さず、長い側方宙返りでこれを回避。

 着地と同時に駆け出し、手にした槍を突き出した。


「【狼月】!」


 衝撃波を伴う一撃と共に、狼の咆哮のごとき音声エフェクトが鳴り響く。

 ダメージ範囲外でも突風によって敵を吹き飛ばすその一撃で、ドラゴンは後方へ大きく跳び下がる。

 反撃は巨大な炎弾。

 放たれた三連発の炎弾に対し、レンは右手を突き上げる。


「おねがいっ!」

「承りました! 【回転跳躍】!」


 すると同じく羽飾りの装備にレザーのショートパンツ姿のツバメが駆け込んできて、空中で錐もみ回転。


「【精霊の矢】!」


 そこから四連続で放つ矢は、炎弾に直撃するのと同時に水をまき散らして炎を消した。

 そして最後の一矢がドラゴンに刺さり、地に落とす。


「今です!」

「はいっ!」


 ツバメの声に応えるのはメイ。

 頭に動物の頭蓋骨を乗せ、羽飾りのついたローブをまとうシャーマンスタイルのメイが、右手を静かに上げる。

 すると一転して付近が夜に変わり、星の瞬きが美しい荒野へと変わる。

 続けて白の輝きが手の中に生まれ、白光の大きなバッファローが現れた。


「大いなる神の裁きです!」


 メイの合図に、駆け出す白光バッファロー。

 そのまま突撃して、まばゆい白炎を散らす。

 弾き飛ばされたドラゴンは、天高く弾き飛ばされた。


「まだまだですっ! 【神霊砲火】!」


 払う手から生まれる四つの巨大な白炎弾が、ドラゴンに直撃して爆発。


「お見事です……っ」


 ヒザを突いたドラゴンが運営の司会者に姿を戻すと、また昼間の荒野に光景が戻る。


「「「おおおおおお――――っ!」」」


 これまでになかったほどの盛り上がりを見せる発表会。

 メイたちが運営から頼まれた仕事は、新職業と新装備をお披露目する『モデル』だ。

 これまではNPCを使い、それこそモデルのように歩いて来て皆の前で一回転。

 スキルをいくつか使ってみせて終わりという形だったのだが、メイたちがやるのであれば派手なアクションと共に行った方が良い。

 そんな運営司会者の狙いは成功だ。

 こんな派手な演出を見せられてしまっては、『自分も!』と思うのは当然。


「この空間ではシャーマンの体験ができますので! ぜひ遊んでみてください!」


 ここでは新職業の装備を試したり、スキルを使ってみたりすることも可能。

 さっそく参加者たちがワイワイと盛り上がり出し、いつも以上の盛り上がりを見せる新職業の発表会。


「メイさーん!」


 発表が一段落すると、歓喜の運営担当者が駆けつけてきた。


「やっぱりメイさんたちにお願いしてよかったです!」


 そしてそのままメイに飛びついた。

 各アトラクションをどう構成するかは担当者に任されるのだが、この発表会は間違いなく大成功と言えるレベルだ。

 緊張の中にあった担当者は、最高の盛り上がりを見てうれしそうに「きゃっきゃ」と足を飛び跳ねさせる。


「ありがとうございましたっ!」

「いえいえー!」

「皆さんのおかげで、発表会も大盛況ですよー! 本当に良かった!」


『星屑』には『隠し』の職業もあるため、公開職業のお披露目はやや地味に終わることが多い。

 またフェス特有の高経験値クエストを皆が優先するため、発表関係はなかなか盛り上げにくい一面もある。

 それでも、これまでは雑用に奔走していた彼女にとっては初めての大仕事。

 任された以上は何としても成功させたかったため、メイたちにモデルを頼むことにしたのだった。


「新職業でのコンビネーション、いつもと違う感じで楽しかったわね」

「はい。普段とは違う構成になっているのは新鮮でした。先手をレンさんが取るというのは不思議な感覚です」

「本当だね! 魔法で戦うっていうのも楽しかったよ!」


 レンが先行して戦いを仕掛け、ツバメが弓矢で援護。

 最後はメイが後方から精霊魔法を放つ。

 今回は『依頼』されてのアトラクション参加だが、いつもとは違う位置での戦い方をメイたちも十分に楽しんだのだった。

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