第670話 フィッティングします!

「楽しかったー!」

「海を駆けるメイさんは久しぶりに見ました」

「ラフテリアはきれいだから、あがる飛沫もキラキラしてて良かったわね」


 海ステージのクエストを最高に盛り上げたメイたち。


「ここはなにをしてるのかな?」


 メインステージのある北部草原へと向かう途中に見つけたのは、街の片隅に作られた大きな石畳の広場。

 そこに人がワイワイと集まっているのを見て、不意に足を止めるメイ。

 様々な装備品を手にするプレイヤーたちの姿は、どこかバザーのような賑わいがある。


「フィッティング会場ね」

「ふぃっしんぐ?」


 釣竿を引くようなポーズで首を傾げるメイ。


「フィッティング。色々な装備品を職業関係なく使ってみることができるようです」

「楽しそうだね!」

「せっかくだし、お仕事前に遊んでみましょうか」

「やったー!」


 石畳の上には等間隔で魔法陣が並び、その周りではプレイヤーたちがわいわいと着替えを楽しんでいる。

 メイが魔法陣の上に立つと、視界に様々な装備品がずらりと並んだ。

 この中から好きな物を選んで、組み合わせれば――。


「すごーい!」


 金縁のメガネにグレーのベスト、白シャツに紺のスラックス。

 綺麗なマントを羽織った姿は、魔法の研究家のようだ。


「どうかな? お姉さんっぽい?」

「いいじゃない。魔法学校の先生みたいね」

「分かります!」


 ブンブンと、首を縦に振って歓喜するツバメ。

 少し背伸びしてる感じが可愛くていいと、レンもほほ笑む。


「こんな先生なら、何十年でも留年し続けたいですっ!」

「えへへへへへ」


 メイもうれしそうだ。


「ツバメはどんな装備をしてみたいとかあるの?」

「決まっています。やはりギリギリの回避を続けている私としては、一度ずっしりと重い鎧を着てみたいです」


 ツバメはそう言って、重装の騎士鎧を選択。

 魔法陣が輝き、その姿が変わる。


「ツバメちゃん可愛いー!」

「ふふふ、やっぱりこうなったわね」


 やはり重装鎧をツバメが装備すると、どうしても着込んでいる感じになる。

 ガチャガチャさせて歩く感じは、子供騎士の様相だ。


「でもこれで魔法とかを喰らってたじろぎもしなかったら、迫力はあるわね」

「それなら、こういうのはどうでしょうか」


 ツバメが新たに身にまとったのは、大型のハンマーを持つ闘士スタイル。


「いいじゃない。大きな武器を小さな女の子が持っているのは、やっぱり映えるわね」


 これにはレンもうなずく。


「次はレンちゃんだよ!」

「私はそうね……この『お勧め装備』にしてみようかしら……あっ!」


 そう言って『お勧め』を選択したところで気づく。


「なしなし! これやっぱりなしに――――!」


 できない。

 そして嫌な予感は見事に当たる。

 これまで選んできた装備や職業などから趣向を読んで選ばれる『お勧め』装備は、見事な黒装備。


「顔の半分を隠す、黒い仮面はやりすぎでしょう!」

「やっぱりレンさんはこれですね!」

「うんうんっ! これだよーっ!」


 長い黒のコートにはファー、胸元に飾られたバラの花。

 また少し方向性の違う雰囲気に、うれしそうなメイとツバメ。


「はい交換!」


 レンはすぐさま次の装備を選び直し、魔法陣を光らせる。


「ほ、ほら聖騎士! こっちの方がいいでしょう!?」

「「……いいですね」」

「なんでしっくりきてないのよ!」


 白を基調にした騎士装備に、リアクションに困るメイたち。


「それじゃ次はメイの『お勧め装備』が見たいわね」

「わ、わたしはやめておこうかな」


 嫌な予感に、メイはすっと視線を背ける。


「メイさん、これはいかがでしょうか」

「じゃじゃん!」

「さ、最高です……! 今すぐケガをしたいですっ!」


 薬師メイの姿に見惚れるツバメ。


「ツバメちゃん、お大事に」


 メイのそんな言葉に、思わず昇天しかける。


「あっ、これはどうかな!」


 今度はレンに負けじと、闇騎士装備でポーズ。


「目覚めろ! 我が闇の力っ!」

「メイはこっちに来ちゃダメ! 今すぐ着替えなさーいっ!」


 こんな三人の会話に、周りのプレイヤーたちもうっかり笑ってしまう。


「でもこれ、本当に楽しいわね」


 あらためて、色々な装備を早替えできるシステムにレンがつぶやく。


「……もう、こういう形で現実の服も売ってくれればいいのに……」


 そう言って苦笑い。

 私服も黒い問題は、まだしばらく棚上げになりそうだ。

 こうして三人が楽しく着替えをしていると、運営からアナウンスが入り始めた。


『――――フィッティングをお楽しみの皆さんに、時間限定特別装備を開放いたします!』


「お、なんだ?」

「何が使えるんだ?」


『――――今回は特別に、伝説の剣の一つ【デュランダル】を用意いたしました!』


「「「うおおおおおおーっ!」」」


『――――いまだ発見者のいないこの武器、今から3時間限定でお試しいただけます! ダメージにはなりませんが、そのエフェクトや効果を見ていただくことも可能です』


 その言葉に合わせて、登場する巨岩。

 さっそく参加者たちが、【デュランダル】を装備する。


「【ロックスレイヤー】!」


 衝撃を伴った剣撃が放たれ、吹き荒れる風と共に深々とした切り傷を刻み込む。


「この威力はいいな!」

「これどこにあるんだろう、見つけたい……っ!」

「こういう伝説の剣を見ると、アルトリッテたちを思い出すわね」

「……レンさん、このスキル【腕力】依存だそうです」


 説明文に書かれたその文言にレンが笑みを浮かべると、付近のプレイヤーたちも自然とメイに向けてくる。


「これは……メイちゃんだな」

「ああ、メイちゃんだ」


 期待に応えるように、【デュランダル】を手にするメイ。


「いきますっ! 【バンビステップ】!」


 走り出したメイは、一直線に巨岩のもとへ。


「【モンキークライム】からの【ラビットジャンプ】!」


 そのまま岩を蹴り上がって跳躍。

【デュランダル】を掲げると、そのまま全力で降り下ろす。


「もっと近くで見ようぜ! ダメージなしなら面白いことになるぞ!」


 メイの振るう【デュランダル】を前に、その岩の近くに集まり出すプレイヤーたち。


「いきますっ! 【ロックスレイヤー】だあああーっ!」

「「「う、うわああああああ――――っ!!」」」


 メイの【腕力】で放たれた一撃は、予想通りの超高火力広範囲。

 巨岩は真っ二つに割れ、そのまま粉々に砕け散る。

 吹き荒れる猛烈な風に、巻き込まれにいったプレイヤーたちは吹き飛ばされた。

 その威力に爆笑しながら地面をゴロゴロ転がるプレイヤーもいれば、呆然と感嘆の息をつく者もあり。


「と、とんでもねえな!」

「これよこれー!」

「ダメージありだったら間違いなく消し飛んでるな!」


 こうして、フィッティング会場で思わぬアトラクションを生み出したメイ。

 集まったプレイヤーたちと共に、様々な新装備を楽しんだのだった。

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