第669話 海クエストは大盛り上がり!

「まだまだ、このクエストはここからが本番ですよ!」


 一度目の回収で、早くも高得点を叩き出したメイたち。


「それならこっちも派手にいきましょう!」

「りょうかいですっ!」

「はい!」


 メイとツバメは再び小舟に乗り込み、海に出る。

 するとすぐさま、海の邪魔者たちが集まって来た。


「さあ勝負です! 私の担当アトラクションの恐ろしさ、とくと味わってくださいっ!」


 海上にきらきらと輝くのは、猛太刀魚の群れ。

 今回は正面と、右前方の二方向からやってくる。


「ツバメちゃん! 先にくる正面のお魚さんたちをお願いしますっ!」

「はい!」


 ツバメは短く答え、正面から迫る猛太刀魚たちの突撃をしっかり引き付ける。


「【瞬剣殺】!」


 広がる空刃が猛太刀魚を斬り飛ばし、船の安全を確保。

 そしてツバメの硬直を狙ってやって来た、右前方からの突撃には――。


「それーっ!」


 メイは全力でオールを引く。

 すると小舟が飛び上がるほどの威力で推進。

 続けて片方のオールだけで強く水をかくと、船が回転してこちらに向き直した猛太刀魚と相まみえる形になった。

 再び飛び掛かるも、そこにはクールタイムを終えたばかりのツバメ。


「【瞬剣殺】!」


 見事に猛太刀魚の特攻をさばいてみせた。しかし。


「メイさん、マーマンです!」


 さらに船を狙って泳ぎ来るのは、魚人の群れ。


「おまかせくださいっ!」


 メイは再び全力で船をこぐ。


「ここっ!」


 飛沫を上げて突き進む小舟はさらに、メイのオールさばき一つで進行角度を変える。

 速度は速く、小回りも利く。

 見事な操縦で、マーマンたちの隙間を一気に駆け抜ける。

 だが上級コースの攻勢は止まらない。

 突き進むメイたちのもとにやって来るのは、大海鳥の群れ。


「【フリーズブラスト】!」


 空から接近し、小ダメージを無限に与え続けるタイプの敵にはレンの範囲攻撃が活きる。

 船にダメージを与えないよう放たれた氷嵐が、大海鳥を散開させた。


「さすがです……っ! ですがまだまだっ!」


 メイの船さばきに、思わず気合の入る運営。

 沈没船のポイントにたどり着いた二人は、そのまま海に飛び込み物品の回収へ向かう。

 甲板のドアから内部に入ると、メイは再び貴金属を両手足に可能なだけ巻きつける。


「…………?」


 そしてツバメにボディーランゲージ。


『わたしが先に行くから、ツバメちゃんは高ポイントになりそうなものを持ってきて』


 これにツバメがうなずいたのを確認し、メイはドアから外へ。

 すると予想通り、マーマンたちが貴金属持ちのメイを狙ってやってきた。


「【ドルフィン・スイム】!」


 メイはすぐには海上に上がらず、あえて沈没船の後方へ向かう形で泳ぎ出す。

 マーマンたちは必死で追いかけるが、メイの泳ぎはそれこそ人魚のよう。

 水中でも見事にオトリ役を務めてみせる。

 そうなれば、運搬に余裕が生まれる。

 ツバメはいかにも高価そうな物品を抱えて小舟へ。

 そしてメイがまだマーマンたちを引き付けているのを確認し、もう一度海中へ。

 再び高級物品を抱えて船に戻る。


「それーっ!」


 さらに二度の回収を成功させ、めぼしい物を運びこんだツバメ。

 すると水中からイルカのように飛び上がってきたメイが、小舟の上に着地した。


「戻りましょう!」

「りょうかいですっ!」


 船に大量に乗った物品を見て、メイはすぐにオールを取る。

 あとは岸に戻るだけだ。


「一回目よりはるかに多い宝を……ですが、勝負はここからですよ!」


 運営の叫びに応えるように、迫るのは新たな巨大サメ。

 猛スピードでやってくると、そのまま喰らいつきにくる。


「【投擲】!」


 巨大サメが空中に飛び上がった時点で放った【雷ダガー】で、動きを停止。


「ッ!?」


 しかしなんと、海中から迫っていた二匹目が続けざまに飛び上がってきた。

 これに気づけていたのは、メイのみ。


「いーちゃん!」


 呼び出したいーちゃんの吹かせる暴風は壁となり、サメの突撃の軌道を変えた。

 それでも、敵陣の勢いは止まらない。

 ここで現れたのは、先ほど水中に逃げ込んだはずのダイオウイカ。

 その触手で付近の漁師船を持ち上げると、そのままこちらに投じてきた。


「わ、わわっ! うわわわわーっ!」


 メイは見事な操縦でこれをかわすが、飛んでくる船たちはそこそこ大きく、投擲の速さが上回る。


「【誘導弾】【フレアストライク】! 【誘導弾】【フリーズストライク】! 【誘導弾】【フレアストライク】! 【誘導弾】【フリーズストライク】!」


 これをレンが、怒涛の魔法攻撃で破壊。

 だが、それでもダイオウイカは止まらない。

 10本の足で投じ続ける船は、ついに魔法でも破壊が間に合わなくなった。


「【跳躍】」


 ここでツバメが跳び、ダイオウイカのターゲットを奪う。


「【エアリアル】!」


 そして船が投じられたところで、これを二段ジャンプで回避。

 続け様に飛んでくる漁師船に、身体を向ける。


「【アクアエッジ】【サクリファイス】【八連剣舞】!」


 HPを削って火力を増した水刃によって、そのまま破壊。


「またつまらぬものを斬ってしまいました」


 着地と同時につぶやくツバメ。

 見事な連携で小舟を守ったメイたちだが、これ以上の船乱舞は抑えたい。

 ここでメイは、右手を高く突き上げる。


「というわけで――――よろしくお願い申し上げますっ!」


 水面に現れた魔法陣から現れたのは、巨大なクジラ。

 狼のものとは違い、今度は見事な泳ぎでそのまま空中へ舞い上がる。

 そのままスクリューのように空中で二回転して体当たりをかますと、ダイオウイカは水中へと消えていった。


「「「うおおおおおお――――っ!」」」


 派手な一撃に、あがる歓声。

 するとここで、これまで暴れ回っていた海棲モンスターたちが一斉に水中へ身を隠し始めた。


「……なんでしょう」


 海が凪ぐ。

 広がる奇妙な静けさに、思わず付近を見回すメイとツバメ。


「「ッ!!」」


 現れたのは、帆船数隻でも一撃で沈めてしまいそうなほど巨大なタコの化物。


「最後はクラーケンですか……っ!」

「これは三人じゃ無理だろ!」

「海上なんて最悪な立地で船を守るのは、難しすぎるぞ!」


 次々に上がる悲鳴。

 クラーケンの視線は確実に、メイたちの船を狙っている。

 迫り来る、長い触手の数々。


「ツバメちゃん、後はお願いしますっ!」


 そんな中メイは、船をツバメに託した。

 クラーケン以外の敵が逃げた状況なら、操舵もそう難しくはない。


「行ってきます!」


 メイは一言そう言い残して、海面へ飛び出していく。


「【アメンボステップ】!」

「海の上を……走るのかっ!」

「生で見るのは初めてだ!」


 水しぶきをあげながら水面を蹴り、一気にクラーケンとの距離を詰めていくメイ。

 接近に気づいたクラーケンは、全ての触手でメイを狙う。


「右、左、上! また右……下からっ!」


 迫る触手の数々を走りながらかわし、メイはさらにスキルを発動。


「【モンキークライム】! 【ラビットジャンプ】」

「すげええええーっ!!」

「敵の攻撃を避けて駆け上がる! こんなの見たことねえよっ!」


 上方から突き刺す形で来た一撃をかわすと、触手を駆け登って跳躍。


「【アクロバット】! からの――――っ!」


 輝く水滴をきらきら舞わせながら、空中で大きく一回転。


「くる!」

「くるぞ!」

「いくぞ! それではみなさんご一緒に!」


 高く振り上げた剣を、全力で振り下ろす。


「「「【ソードバッシュ】だああああああ――――っ!!」」」


 叩きつけ【ソードバッシュ】が、大きな飛沫をあげて海を割る。


「「「いやっほおおおおお――――っ!!」」」


 ド派手な一撃に、観客たちは大喜び。


「ま、まさか、直接叩いてクラーケンを沈めるとは……っ! トッププレイヤー10人がかりでも難しい想定で作ったのですが……お見事ですっ!」


 舞い散る飛沫の中。

 最高の盛り上がりに、運営も思わず賛辞の声を上げた。


「楽しかったー!」

「海は本当に気持ちいいわね!」

「良いクエストでした!」


 盛り上がる観客たちの拍手の中、綺麗な海を堪能しつつ戻ってきたメイ。

 三人のハイタッチに、さらに歓声があがる。

 稼いだポイントは、運営の最高予想値を大幅に上回っていた。


「めちゃくちゃ楽しかったな!」

「メイちゃんたちは、見てるだけでも楽しめるよね!」

「俺たちもやってみようぜ!」


 メイたちの活躍によって、一気に賑やかになった沈没船クエスト。

 そんな中、レンがつぶやく。


「……さて。まだ時間はあるけど、そろそろ現地に向かいましょうか」

「途中で何かアトラクションが見つかるかもしれませんし、早めに移動するのもいいですね」

「いきましょう!」


 参加者たちに手を振って、歩き出すメイたち。

 行き先は、ラフテリア北部草原のステージだ。

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