第668話 輝く海のクエストは
「「「うわああああーっ!」」」
「なんだろう?」
聞こえてきた声は、スポーツ観戦中にチャンスを逃した瞬間のような雰囲気。
多くのプレイヤーがあげたのであろうその声に引かれて、メイは小走りで音のした方へ。
たどり着いたのは、ラフテリアの港湾部。
帆船が並び、外洋へと続く玄関口にあたる部分だ。
眩しい陽光に照らされた海と空が、青く美しい。
「これは何をしてるんですかっ?」
海から上がってくる冒険者たち。
それを見たウキウキのメイがたずねると、「待ってました!」とばかりに担当の運営がやって来た。
「実はここから300メートルほど先の海中に、一隻の海運船が沈んでしまったのです!」
見れば沖には、帆柱が分かりやすく目的地として飛び出している。
「しかしその輝きを見た海の魔物たちも集まって来ているようで、回収は大苦戦! 冒険者の皆様にお手伝いいただいているんです!」
「なるほどーっ!」
「海の底には、美術品や工芸品、防具に金貨に宝石、長靴から車輪までありとあらゆるものが沈んでおります! 制限時間があるのでできるだけ『高級な物』を選んで回収してきて欲しいのです! その価値でポイントが加算されていきます」
見ればそこには、オールでこぐタイプの小舟が置かれている。
そして回収品置き場も、港に上がってすぐのところに設置されていた。
「これなら船で回収に向かう班と、援護班に分けた方が良さそうね」
魔物の妨害と聞いて、レンは即座に陣形を提案。
「初級、中級、上級とコースは別れていますが……ここでは運営の私から、上級をおすすめさせてもらいますっ!」
「「「おおおおーっ!」」」
「上級はしっかりと高難易度で、高得点なんてそうそう出させませんという我々の意思を感じてもらえるはずです!」
やはり相手はメイたち。
運営のお姉さんも、ここぞとばかりに盛り上げる。
「上級でいきますっ!」
もちろんメイはこれに応え、大きく一つ伸びをして準備完了。
「それではいきましょう!」
運営の掛け声に、観戦者たちの視線が集まる。
メイたちがいると聞いて、駆け寄ってくる冒険者たちの中。
「メイさんパーティ、難易度上級でスタートですっ!」
運営の掛け声に、駆け出すメイとツバメ。
レンは見渡しのいい位置につけて、杖を構える。
「出発します!」
オールを手に取ったのはメイ。
こぎ出すと、その速度に観客たちが驚きの声を上げる。
「モーターボートかよ!」
どうやら船をこぐ速度は【腕力】、操船のしやすさは【技量】が影響してくるようだ。
メイたちが飛沫を上げて突き進んでいくと、進行方向の水面が輝き出した。
「っ!?」
ツバメがとっさにかわす。
弾丸のような勢いで飛んできたのは『猛太刀魚』という、特攻型の魔物たち。
喰らえばもちろん高ダメージ。
ツバメは舳先でダガーを構え、飛び込んでくる猛太刀魚を斬り払う。
「おおっ!」
輝く二刀が猛太刀魚を捉え、粒子になって消えていく。
見事な剣さばきは漕ぎ手のメイを守るが、突然バシャッ! と、大きな飛沫が上がる。
「なんだあの数!?」
まとめて海面から飛び掛かってきた群れの数は約20匹。
上級モードは冒頭から容赦がない。
「メイさん! 身を低く!」
「りょうかいですっ!」
メイが柔軟体操のように上半身を思いっきり前傾させたところで、ツバメがスキルを使用。
「【瞬剣殺】!」
「「「おおおおおお――っ!!」」」
巻き起こる空刃が一気に猛太刀魚を切り刻み、歓声がわき上がる。
この隙に小舟は目印の帆柱のもとへ。
二人はうなずき合い、さっそく海に潜り込む。
「【ドルフィンスイム】!」
メイは人魚のように速い泳ぎで先行し、沈没船の甲板ドアを開くと、その中に置かれた様々な物品に驚く。
昼間のラフテリア湾はその透明度ゆえに美しく、またとても明るい。
しっかりと、そこにある物品を見定めることが可能だ。
ツバメは『呼吸ゲージ』を気にして、宝剣を二本ほど選択すると急いで海上へ戻る。
一方メイはその【耐久】値ゆえにゲージが長く、そのうえ泳ぎも圧倒的に速い。
まず頭に王冠をかぶり、ネックレスを首や手、足に巻き、美術品であろう中型の女神像を二体抱えて海上へ。
船の上に乗せると、それだけである程度の量になった。
「これで一度戻りましょう!」
「りょうかいですっ!」
さっそく港へと戻るメイたち。
素早く船をこぎ出すが、『船を沈めれば』全てが無に帰す戻り際こそが、このクエストの本懐だ。
ツバメが先頭に立ち、猛太刀魚の突撃を剣撃で阻んでいると――。
「ツバメちゃん!」
メイはこの状態でもすぐに気づく。
なんと海からの攻勢の隙を突き、空から大海鳥がこちらに猛スピードで接近してきていた。
「【投擲】!」
これをツバメは【雷ダガー】で迎撃。
感電した大海鳥は、そのまま海へ落下した。
すると今度は湾岸から「おおおお……」という観客たちの声が聞こえてきた。
「「ッ!?」」
盛大な水しぶきを上げ、空を舞うのは巨大なサメ。
小舟など一口で喰い尽くしてしまいそうな牙だらけの口で、喰らいつきにくる。
「【魔砲術】【誘導弾】【フレアストライク】!」
炸裂する炎砲弾が巨大サメを弾き飛ばし、着水と同時に大きな飛沫を上げる。
「レンちゃん! ありがとーっ!」
「助かりました!」
レンは杖を軽く上げることで応えようとするが、すぐさま異変に気付く。
「まだよっ!」
船の後部が、何者かにつかまれた。
直後、わずかに離れた水面が勢いよく盛り上がっていく。
「え、えええええーっ!?」
現れたのは巨大なダイオウイカ。
船をつかんでいるのは、その触手の一本だ。
もちろん船は、敵の攻撃によって沈む場合もあり。
プレイヤーが触手につかまれれば、水中に引きずり込まれて酸素切れにもなる。
リスポーン地点は会場のスタート地点になるが待機時間もあり、その間に船が沈められてしまう。
「【紫電】!」
ツバメは即座に感電でダイオウイカを止めにかかるが、本体への影響は僅少。
触手も硬直こそすれ、下がることはない。
「【魔砲術】【フリーズストライク】!」
ここでレンの放った氷砲弾が頭を出したダイオウイカに直撃し、隙を作り出した。
「メイ! 召喚でいってみましょう!」
「りょうかいですっ!」
メイはオールを放すと、右手を突き上げる。
「――――それでは。おいでくださいませ、狼さんっ!」」
現れた魔法陣から吹き付ける、冷たい白煙。
ゆっくりと出て来た白狼は、そのまま海を凍らせ走る……のではなく、犬かきでダイオウイカのもとへ。
「「「…………」」」
思った以上に速い全力の犬かきで、体勢を立て直したばかりのダイオウイカに嚙みついた。
すると、白の輝きと共に本体を凍結させる。
「せ、性能自体は変わらないのね! 【魔砲術】【フレアバースト】!」
続くレンの爆炎で、ダイオウイカが海に沈む。
船に絡みついていた触手も、ここでようやく解けた。
「「「あはははは! すげーっ!」」」
大はしゃぎの観客たち。
どうやら巨大な白狼の犬かきに、すっかり魅了されてしまったようだ。
この隙にメイたちは、お宝を持って港へ戻って来る。
「ふふ、海を凍らせるんだと思ったわ」
「なんだかかわいいです」
「メイちゃんたちはこういうのがあるから目が離せないんだよな!」
皆楽しそうに、メイたちの動向に目を向ける。
すると運営も、負けじと笑みを浮かべた。
「たった一往復でこれだけのポイントを……さすがメイさんパーティです! ですがこれ以上のポイントは稼がせませんよ! 何せ上級者クラスなんですから! ここからは全力モードです!」
「それならこっちも、全開でいきましょうか!」
「りょうかいですっ!」
「いきましょう!」
声を掛け合い、駆け出すメイたち。
陽光眩しいラフテリアの港に再び、歓声がわき上がる。
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