第666話 射的に参加します!
ラフテリアの東部は、山がちになっている。
広がる緑の光景も美しく、この街はとても風光明媚だ。
「ここは、私がメイと出会った場所の近くね」
「そうだね! オレンジ農家さんの近くだよ!」
「お二人はどうやって出会ったのですか?」
「定例イベントの後に、オレンジ農家近くの山間で私が落ち込んでいたところにメイがやって来たのよ」
「そのあと一緒にコウモリ軍団と戦ったんだよ!」
「そうだったのですね」
「『真実に気づいた瞬間』のことは、今思い出しても震えるわ……」
三人がそんなことを話ながら賑やかな道を進んでいくと、そこにはまたも人だかり。
そして、見知った顔があった。
「ローラン?」
「金糸雀さんも一緒です」
「おや、レンちゃんということは……皆一緒みたいだね」
ほほ笑む弓術師ローランは、今日も爽やかだ。
「よう、開会式見たぞ。すごかったな!」
少年のような笑顔で手を上げてみせたのは、ハンマー使いの金糸雀。
「グラムさんは?」
「グラムは補習でね、後で待ち合わせなんだ」
どうやら神槍のグラムは到着が遅れていて、ローランたちは暇つぶし中だったようだ。
「ここで開催されてるのは、山の合間に出てくる『的』に、どれだけ魔法や矢を当てられるかっていうゲームみたいだね」
「距離的には遠距離専門クエスト、面白そうね」
「対戦もできるみたいだよ。良かったらどうかな? レンちゃんが相手だったら、ちょっと燃えちゃうんだけど」
そう言って、レンを誘うローラン。
「いいわね。せっかくだし私もゲームに参加させてもらおうかしら」
遠距離担当の二人は、自然と笑い合う。
ちょうど手前のプレイヤーが遊び終えたのを見て、そのまま参加することにした。
「え、使徒長とローランが対戦すんの!? これは見なくては!」
このゲームには当然、遠距離攻撃が得意なプレイヤーが集まっている。
そうなれば、この二人の勝負は見逃せないところだろう。
さっそく観客たちが、レンたちを取り囲む。
「…………」
そんな中レンは覚悟を決めるように息を吸い、『眼帯』と『包帯』を装備する。
急に中二病感を増し出したことに、首を傾げるローラン。
「レンちゃん?」
「な、何も言わないでっ」
勝つためには手を抜けないレン、ちょっと恥ずかしそうにしながら先手を打ち、これ以上の追及を抑える。
「運営さん、説明お願いします」
「は、はいっ」
ローランとレンという好カードに驚きながら、運営の青年が説明を始める。
「こちらのゲームは、見渡す山の木々の中から出てくる的を魔法や矢で撃ち抜いていき、その数を競うものとなっております。対戦の場合は個々のポイントで勝負となり、相手の的を撃ってもポイントにはなりません」
運営の説明に、レンは「なるほど」とうなずく。
「射線に障害物も入ってきますので、臨機応変な対応が大事になります。それでは、準備はよろしいですか?」
「いいわ」
「もちろんだよ」
「それではいきます。よーい……スタート!」
運営の合図と共に、獲物を構えるレンとローラン。
見渡す山の中に、それぞれ白地に赤の円が描かれた的が現れる。
「【誘導弾】【フリーズストライク】」
「【ライトニングアロー】」
両者問題なくこれを撃ち抜くと、続けて二枚の的が順番に現れる。
「【誘導弾】【フレアアロー】【誘導弾】【ファイアボルト】」
「【ライトニングアロー】」
両者共に問題なし。
ここから的は、断続的に現れるようになる。
「【バーストアロー】」
基本的には連射度の高い弓術師の方が、有利なこのゲーム。
的の出る速度の上昇に合わせて、レンは少しずつ遅れ出す。
「高速【誘導弾】【ファイアボルト】」
しかしここでレンは杖を片付け、素手で魔法を使用する形に変更。
「序盤に色々使ってたのは、的を撃ち抜くのに『威力の高さ』が関係しているかどうかを確認していたんだね」
これにはローラン、「さすがだね」と笑みを浮かべる。
当然直に手で打つ方が威力は低いが、『手の動き』は速くなる。
さらに【魔法速度変化】によって速く的を撃ち、ローランにしっかりついていく。すると。
「きたぞ、風だ!」
「これが難しいんだよな」
吹き付ける風が、魔法を矢を押し流す。
それは誘導のかかった魔法や矢でも、大きく到達点を変えてしまう嫌らしい仕掛けだ。
「そうくるわけね! 高速【誘導弾】【フリーズボルト】!」
「【オートエイム】【ライトニングアロー】!」
しかしこの仕掛けも、二人は見事に乗り越える。
強い風による『流され具合』を考慮し、射出角度を調整。
見事に的を撃ち抜いていく。
「おお! すげえ!」
「なにこれカッコいい!」
風の吹き荒れる中、大きな弧を描く軌道で飛んで行った氷弾と矢が見事に的を撃つ瞬間に、誰もが歓声を上げる。
的の数が増えても、次々に撃ち抜く二人。
風はもはや二人にとって大した障害ではない。すると。
「「……っ」」
そこに現れたのはなんと、飛行型の大型魔獣の群れ。
「今度は視界とルートを塞ぐ形ね!」
「そうみたいだねっ! 【曲芸射撃】【ライトニングアロー】!」
しかしローランは、こういう状況も苦にしない。
ステップで発射位置を調整し、飛び来る魔獣たちの隙間を縫うようにして矢を当てていく。
「……これ、魔導士にはきつくないか?」
聞こえてくる観客たちの声。
するとレンは、魔獣が視界を塞いでしまう前に手を打ちにかかる。
「そういうことなら! これでどうっ!?」
レンは【眼帯】を外し、手を振り上げる。
「【氷塊落とし】!」
前もって、五連の氷塊を魔獣たちの進行方向上に生み出す。
すると飛んできた魔獣が、氷塊を避けるために軌道を変えた。
「今っ! 高速【誘導弾】【ファイアボルト】! 高速【誘導弾】【フリーズボルト】! 高速【誘導弾】【ファイアボルト】っ!」
この隙に一気に魔法を打ち込み、飛び来た巨大な翼竜には――。
「【ペネトレーション】【誘導弾】【フリーズボルト】!」
魔法を貫通させて発射。
翼竜という壁を越え、見事に的を打ち抜いた。
「す、すげえ……」
いよいよ言葉を失う観客たち。
ローランとレンは、どんな状況下でも的確に攻撃を当て続けていく。
「二人ともすごいね……っ!」
「はい……素晴らしい遠距離攻撃です!」
思わず肩を寄せ合いながら歓声を上げる、メイとツバメ。
「いいぞー! 二人ともいけいけーっ! やっちまえーっ!」
金糸雀も、拳を振り上げ二人の戦いを盛り上げる。
残り時間は、もうわずかだ。
「【速射】【ライトニングアロー】!」
そんな中でも、やはりローランの精密さと連射力は圧倒的。
ここで再びレンを先行し始めた。
そこに現れたのは、攻撃を20発当てないと撃ち抜けない黄金の的。
連射が求められるため時間的に厳しいが、抜ければポイント加算は大きい。
「ここだわっ!」
レンは身に付けていた包帯を外し、ここで炎の魔法を放つ。
「【誘導弾】【ファイアボルト】!」
「「「おおおおおっ!!」」」
一斉に飛ぶ30本もの炎弾が、一気に的を打ち付け一発破砕。
これによってレンは、ローランのポイントを追い抜いた。
「【速射】【バーストアロー】!」
「うおおっ、ローランも大的を撃ち抜いたぞ! すげえな!」
しかしローランも、負けじと自慢の連射スキルで対抗。
負けじと黄金の的を弾き飛ばしたところで、時間終了。
両者共に、すさまじい高得点を積み上げた。
「ふう……」
勝負を終え、息をつくレン。
「さすがレンちゃんだね、お見事だよっ! まさか最後の最後まで拮抗するなんて思わなかった!」
速度で劣る分、装備品の使い方で戦うという勝負勘を見せたレンに、ローランは興奮気味だ。
「はっ!」
ここでようやく、我に返った運営。
「お、お二人ともお見事でした……」
運営はようやく両者のポイントを確認し、右手を突き上げる。
「勝者は――――星城レン・ナイトメアさん!」
勝利を飾ったのはレン。
その勝敗を分けたのは、最後数秒の攻防だ。
ローランも黄金の的を撃ち抜いてみせたが、レンはその後さらに2枚の的を撃っていた。
「大物の的が最後の仕掛けだったからこその勝利って感じね。最後は完全に運の良し悪しだったわ」
高すぎるポイントを積み上げた二人は、楽しそうに笑い合う。
「す、すごい勝負だったな……」
「そもそもローランが弓使いとして化物なのに、魔法で対抗するレンちゃんマジでヤバい」
「あれであの二人、近接もできるんだろ?」
「やっぱり、トップはすごいなぁ……」
あらためてわき上がる拍手。
そんな中ローランはやはり、決め手になったレンの装備に興味をひかれたようだ。
「ところでレンちゃん」
「なに?」
「あの眼帯と包帯は、どういう――」
「それは今すぐ忘れてーっ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます