第665話 アトラクションに参加します!
「なんだか緊張しちゃったね!」
「ショーとして敵と戦うというのは、また少し違う趣がありました」
フェスの開会式を飾る演出の中心となったメイたちは、大盛況のまま仕事を終えて息をつく。
「見に来ていたプレイヤーたちも巻き込んでのオープニングなんて初めての試みでしょうし、なかなかすごかったわね」
メイの開会宣言は大盛り上がりだったことを思い出し、レンも思わず笑みをのぞかせる。
「本当にラフテリア一帯を使っているのですね」
フェス用に飾り付けられた、ラフテリアの街を進む三人。
起点になるこの港町もお祭りの様相で、付近のマップも様々なクエスト用にアレンジされている。
「レンちゃん! なんだか賑やかな感じだよ!」
メイが指さしたのは、街の通りの一角。
小さな広場を囲むようにして建てられた建物は、鍛冶屋たちの店舗のようだ。
「あれは鍛冶屋が武器や防具の強化を行ったり、新装備を素材から作り出しているところね」
「期間中は、普段より成功率がオマケされてたりするようです」
「そうなんだー」
「すごいものができても盛り上がるし、失敗しても盛り上がるから。お祭り感があるのよ」
一喜一憂。
聞こえてくる楽しそうな声に、メイの尻尾も自然と左右に揺れる。
「あっちは何かな?」
「あれは魔術師や錬金術師の工房ね。アイテム製作に使われるのよ」
「この時期限定の特殊アイテムなんかもあるので、これもプレイヤーが素材を集めては生成していますね」
「色々あるんだねぇ」
眩しい太陽を反射する白壁の街は、フェスによく映える。
どこの工房も人が多く、とても楽しそうだ。
「私たちも何か、フェスのクエストで遊んでみたいわね」
「いいですね」
「あっ、あれは何かな」
メイは人だかりを見つけて駆けつける。
そこは通りからぶつかる噴水広場。
現実なら大道芸人でもいそうなこの場所に、運営の女性職員が立っていた。
「あっメイさん! お疲れ様です!」
「おつかれさまですっ!」
運営に声をかけられて、メイも元気に挨拶を返す。
「よかったら遊んでいきませんか?」
「どんなクエストなんですかっ?」
「四体のガーゴイル像が吐き出す『石球』を、ご自身のスキルで斬り飛ばすゲームです! 50、75、100ポイントの目標数値を超えれば、『フェス得点』を差し上げておりますよ!」
どうやらクレー射撃のように的が飛び出してくる仕掛けでプレイヤーを囲み、それが地面に着くまでに斬り飛ばせというもののようだ。
「的が地面に落ちた後に斬ってもノーカウント。スキル使用後の硬直中も的は射出されますのでご注意ください」
「りょうかいですっ」
「これまでの最高値は65ポイント。果たしてメイさんは、どこまでやってくれるのでしょうか!」
ここで運営が声を張って盛り上げる。
「お、メイちゃんがやるのか!」
「映像では見たことあるけど、実際の動きを見るのは初めてだ」
そうなれば当然、プレイヤーたちも集まってくる。
付近をしっかりと見学者たちで囲まれた状態で、メイは剣を手に取り、腰を落として身構える。
「それではいきます! ゲームスタート!」
運営の合図と共に、ガーゴイルの口から飛び出す石球。
「それっ!」
すぐに駆け寄り、難なく斬り飛ばす。
すぐさまターンして、次のガーゴイルが飛ばした石球へ駆け寄りカット。
すると今度は二体のガーゴイルが順番に石球を飛ばす。
メイはこれを、しっかり見据えて大きな振り一回でまとめて斬り飛ばした。
「あれ一発でいけるのか! これは良い攻略法だな!」
「【ラビットジャンプ】!」
続く三つ同時の石球飛ばしも、石球たちが同じポイントを通ることに気づき、そこへ剣を合わせて一網打尽。
観客たちから「おおーっ」と歓声が上がる。
「さすがですね! ですが、まだまだこれからですよ!」
「そうそうここから速くなるんだよ! 並みの機動力じゃ追いつけないぞ!」
これまでは四つのガーゴイルから一つずつ順番に出ていた石球が、一気に飛び出し始めた。
同じ口から二連続、左右のガーゴイルが右左右と連続発射するなど、その勢いは少し過剰なほどだ。
「【バンビステップ】!」
しかしここで、メイも速さと柔軟さを供えた高速移動でこれに対応。
突き、突き、払いという『剣の軌道』で一つも落とさず斬り飛ばし、そのまま足を天に蹴り上げるような形で【アクロバット】
高い側方宙返りを反動にして剣を振り上げカット。
さらに歓声を浴びる。
「よいしょっ!」
そして『走らせること』を狙いにした大飛球を追いかけ、これも見事にしっかりカットする。
「っ!?」
しかしここで一体のガーゴイル像が、嘘のように弱い威力で石球を吐いた。
大飛球で広場の奥まで走らせた後で、よりによって特別な『3ポイント換算』の赤球を吐かせるという嫌らしい仕掛け。
先ほどの大飛球は1ポイントなので、それを捨てて赤球を狙うのが本来賢い選択になるのだろう。
赤球の軌道は低くどう考えても間に合わない。しかし。
「【装備変更】【裸足の女神】っ!」
「「「ッ!?」」」
ゲームに夢中のメイ、思わず【鹿角】で【裸足の女神】を使用。
砂煙が上がるほどの加速で戻り、間に合わないと思われた赤球を余裕で斬り払う。
誰もがその驚異的な加速に驚く中、始まる最後の『稼ぎ時』
次々に撃ち上げられる石球に対し、メイはしっかり目測を計って落ちる順にカットして回る。
「【装備変更】! それそれそれそれーっ!」
跳躍からカット、そのまま【狼耳】の回転受け身を利用してカット。
振り返りからの【バンビステップ】で剣を振り上げ、続く振り降ろしからそのまま前方回転受け身で隙を消し、起き上がりと同時に【裸足の女神】で駆け、遠く落ちる寸前の石球を弾き飛ばす。
「これ……パーフェクトいくんじゃね?」
残り時間はもうわずか。
いよいよ最後の石球が二つ宙を舞い、それを見た観客がそうつぶやいた次の瞬間。
「「「ッ!!」」」
誰もが予期せぬ事態が起きる。
このクエストは現実同様、『特別な空間』になっていない。
お祭りの盛り上がりを見つけて駆けてきた、小学生くらいの少女二人がメイと石球の間に前に飛び込んできた。
すでに走り出していたメイは一人の目の少女をギリギリでかわすが、二人目の少女はかわし切れない。
やむをえず、そのまま抱えて転がる。
「ダメか……!」
「でもあの状況と速度からあんな反応できるって、それだけでもすごいぞ」
さすがにこの状況から、二つの石球を斬りに向かうのはもう間に合わない。
かといって【ソードバッシュ】を、広場で使うわけにもいかない。
逃してしまった二つの的。
しかしメイは、その位置が縦に重なるのを見て――。
「【投石】っ!」
投じた石は、風切り音を鳴らして飛んでいく。
そしてそのまま、二個の的を一発で射貫いてみせた。
「うまくいったー!」
ぴょんぴょん跳ねて喜ぶメイ。
二つの的が縦に並んだ瞬間を狙って投じることで、見事弾き飛ばしに成功。
「お、おお……」
「「「うおおおおおおおお――――っ!!」」」
最後は大技ではなく、意外な技巧技。
まさかのパーフェクトクリアに、歓声を上げる観客たち。
「あれがメイちゃんか……っ!」
「すげえ……」
「これが、野生の力……」
「わあーっ! だだだ大好きなコーヒーの効果ですっ!」
「……コーヒー?」
その耳の良さはさすが。
大慌てで取り繕うメイに、笑ってしまうレン。
ポイントは見事、200でパーフェクトを達成。
「パ、パーフェクトが出ることを計算して作っていなかったんですけどね……」
このクエスト自体が、最高でも120ポイントくらいを想定したもの。
100ポイント超えも、5人出るかどうかくらいで考えられていた。
「これが、メイさん……っ」
状況に気づいてあやまる少女二人に「大丈夫ですっ!」と、元気に応えるメイ。
その機動力を知っていてもなお、運営女性は呆然としてしまうのだった。
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