第661話 まずは集合から!

「レンちゃん、ツバメちゃーん!」

「これで全員そろったわね」

 

 三人が集まったのはいつものラフテリアではなく、幹線駅の商業ビルの中。

 ここから見える大型ビルの外装は巨大なホログラムディスプレイになっていて、この位置からとても見やすい。


「そろそろ始まる時間です」


 多くの人通りが見つめる大画面。

 やがてそこに、『星屑』のロゴマークが表示された。


「始まったよ!」

「なんだか緊張してきました」

「さて、どうなってるのかしら」


 始まったのは、期間イベント『星屑フェス』の宣伝映像だ。

 そのスタートに現れたのはツバメ。

 夜の森の中、暗殺者が放った一撃に倒れ伏す。

 任務の成功に、邪悪な笑みを浮かべる暗殺者だが――。


『それは【残像】です――――【電光石火】!』


 高速の斬り抜けで敵を討ち、「ふう」と息をつく。


『そろそろ行かなくては……【加速】』


 そしてクールに一言つぶやき、走り出した。


『【魔眼開放】』


 続いて、人気のない夜の街。

 包帯と眼帯を外したレンが、その目を金色に輝かせる。


『【フレアストライク】!』


 迫り来るゴーレムの一撃が、床石にめり込み地を割る。

 しかしこれを後方への低空飛行ででかわしたレン。

 叩き込む五連続の炎砲弾が炸裂し、夜空を真紅に染めた。


『急がないと……いけないわね』


 崩れゆくゴーレムを背に、レンは【浮遊】で満月の方へと消えていった。

 そして場面は変わって、昼間のジャングル。

 木の上に座って動物たちと日光浴中のメイのもとに、一羽の派手な鳥が手紙をくわえて持ってくる。


『ありがとーっ!』


 しかしメイは受け取った手紙を読んで、大慌て。


『あわわわわ! 急がなきゃ遅れちゃうよーっ!』


 大急ぎで密林を駆け出すメイ。

 木々の隙間を抜け、一気に走り抜けていく。

 すると周りのさまざな動物たちも、一斉に同じ目的地へ向かって動き出す。

 そして映像はメイの視点に変わる。

 続く木々の先に、見えてくる光。

 密林を飛び出すと、そこにはメイを待っていたツバメとレンの姿。

『星屑フェス、始まる!』という文字と共に、並ぶ新規特典の画像。

 最後は、振り返ったメイの笑顔のアップだ。


『――――星屑のフロンティアで、待ってます!』


「おお、かわいい……」

「これが噂の星屑か、すごいなぁ」

「この子たちがまた、とんでもないんだよ」


 CMが終わり、道行く人たちからも感想が聞こえてくる。


「なんだか少し、恥ずかしいですね」


 わずかに頬を赤くしながら、振り返るつばめ。

 さつきと可憐は、白目をむいていた。


「こ、これまでの戦いで映像は十分取れてるから声だけでいいって言われて、内容は任せたけど……っ!」

「これ完全に野生児だよーっ!」


 今までのクエストで撮った映像などを上手に合成して作られたCMはしっかりと、二人の特性を全面に押し出していた。


「これなら先に内容を確認させてもらえば良かったわ!」


 全身を駆けるゾワゾワに、可憐は身体を震わせる。


「も、もう行きましょう! このままじゃなんか、いたたまれないからっ!」

「そうしましょうっ!」


 早足でビルを降りていく可憐とさつき。

 実は今回、もう一か所見に行くべきところがある。

 それは駅地下の『通り道』だ。


「レンちゃん、フェスってどんなことをするの?」

「そうね……経験値のもらえるイベント戦があったり、プレイヤー参加の企画なんかもあるのよ。各地のイベントクエストは経験値が多めだったりするからチャンスなの。だから人が集まって来てすごく賑やかになるわね」

「運営さんも、色々と忙しくしていますね」

「そうなんだぁ。参加したことがなかったから新鮮だよ!」

「私はずっと、祭に浮かれてる民衆を冷ややかに見るみたいな恥ずかしいマネをしていたわねぇ……」

「私はソロでも参加できるクエストに少しだけ出て経験値をもらうという感じです。一人で淡々とこなす普段のクエストと、何も変わりませんでした」


 どうやらこれまでのフェス、三人とも楽しむ感じではなかったようだ。


「それが今回は公式からの依頼を受けたプレイヤーになっているというのは、不思議な感じです……」


 そう言ってつばめが視線を上げると、そこには駅地下の壁一面を飾る大型広告。


「わあ! すごーいっ!」

「本当に私たちね」


 先頭を駆けるメイに、続くツバメと低空飛行で追うレン。

 そんな普段の三人の『進む』等身大の姿が、横長の広告になっている。


「こうしてゆっくり見られるのもいいですね」


 等身大の三人。

 少し遅れていーちゃんや召喚獣も追ってきている図は、CMとリンクしていてなかなか面白い。


「そう言えば、画面をクリックするタイプの広告あるじゃない? あれにもメイが出てきたわよ」

「そーなの?」

「メイさんはすっかり、星屑のイメージキャラクターですね」


 VRMMO型のゲームは、自分自身が主人公。

 またNPCに『看板』と呼べる者はおらず、特定ストーリーのピックアップということもほとんどもない。

 よって一人の少女やそのパーティに焦点を絞って作られるCMなど、かつて一度もなかった。

 そんな中、現れたのがメイ。

 7年の狂気プレイで、他を置き去りにするレベルとプレイスキルを取得。

 ギネス記録まで手にした元気で可愛い少女が、奇跡を起こしまくっている。

 これだけの要素をそろえたメイとそのパーティを、運営が放っておくはずがない。


「あっ! メイちゃんだ!」


 そしてここは写真が撮れるポイントということもあり、プレイヤーたちが集まっていた。

 気づいた少女が、さつきを見つけて飛び上がる。


「ツバメちゃんもいる!」

「そしてあれは……闇の使徒だ!」

「ちょっと待って! 私だけおかしいでしょ!」

「そうだよ、使徒じゃないぞ。今では使徒長なんだから」

「そういうことじゃない! ていうか勝手に偉くしないで!」

「おおー、あれがメイちゃんか! 本当にかわいいな!」


 掲載初日、もちろん写真を撮りに来るのは熱烈なファンばかり。

 大型ビジョンでの放映やポスターを見るために来ていた人たちともなれば、耳がなくてもメイに気づくことができる。


「メイちゃんたちもフェスに参加するの!?」


 制服姿の少女が、ワクワクしながら問いかけてくる。


「もちろんですっ!」

「やったー!」

「ツバメちゃんの高速戦闘は見られるのか!?」


 戦闘好きなプレイヤーも身を乗り出して問う。


「がんばります」


 その答えに「よしっ!」と拳を握る。


「……使徒長の詠唱も楽しみにしてます」


 全身黒ずくめの女性プレイヤーも、期待の視線を向けてくる。


「だから私はもう使徒じゃないの!」

「そうでした。すでに超越してるんですよね」

「そうじゃないのーっ!」


 こうして駅地下通路にはどんどんプレイヤーたちが集まり、すっかり盛り上がってしまった。


「人が多くなってきちゃったし、迷惑になるから行きましょうか」

「そうしましょう」

「りょうかいですっ!」


 広告を堪能した三人は、帰途につくことにした。

 ブンブンと手を振るさつきに、プレイヤーたちも手を振り返す。

 一年の一度の『星屑フェス』は、いよいよ今日から開催だ。

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