第649話 『Ⅵ』と獅子

 まだ半分ほどHPを残している大罪犯『Ⅵ』

 そこに現れたのは、看守長が放った獅子のキメラ。

 大幅な状況の変化に、さすがに様子を見るメイたち。


「【拡散閃光】」


『Ⅵ』が手を上げると、生まれる魔力の輝き。

 直後、弾ける大量の魔力光が襲い来る。

 これをメイとツバメはしっかりかわし、レンはネルをかばいつつ回避。


「【逆渦閃光】」


 リキャストも早く、続くのは渦のような軌道で外へと曲りながら飛ぶ光弾。

 これは回避が難しく、高い集中が必要だ。


「あっぶない!」


 今度はどうにかレンもこれをかわすが、反撃には入れない。

 この隙に猛然と駆け込んでくる獅子型キメラ。

 メイに放った喰らいつきをかわされると、そのまま一回転。

 翼で起こす風に、わずかに面食らう。

 すると次の瞬間現れたのは、尾の巨蛇。

 毒牙をむき出し、噛みつきにくる。


「【アクロバット】!」


 これも見事なバク転で回避。

 するとそのまま獅子キメラは、大きく前足を上げた。

 吐き出される猛火。

 機をうかがっていたツバメも、慌てて足を止める。


「【閃光散弾】」


 すると『Ⅵ』がすぐさま魔法を使用。

 螺旋を描くように飛んできた20個ほどの光弾が突然開き、前衛のメイとツバメを狙い別れる。


「【バンビステップ】!」

「【跳躍】!」


 誘導のかかった光弾を二人が回避すると、再びキメラが動く。

 狙いはツバメだ。

 駆け込んできた獅子キメラが大口を開いて放つ【喰らいつき】は、出し所がわずかに速い。


「ッ!」


 獅子の【喰らいつき】は、まさかの見せかけだ。

 本命は反転と同時に出てくる蛇の、噛みつき攻撃。

 着地したばかりのツバメは、これをバックステップでかわし――。


「ッ!!」


 覚える違和感。

【喰らいつき】にきたはずの蛇の挙動も、わずかにおかしい。

 次の瞬間ツバメの目前に広がる、濃緑の毒飛沫。

 放たれたのは【毒噴射】だった。


「【スライディング】!」

「うまいっ!」


 レンが思わず声を上げた。

 ツバメはこれを、すべり込むことで見事に回避。

 そのまま左右の短剣で連撃を決める。

 すると獅子型キメラは後方へ跳躍して距離を取った。


「【豪雨閃光】」


 両手を掲げた『Ⅵ』から、投石機で飛ばす石のような角度で放たれた無数の光弾が降り注ぐ。


「「ッ!!」」


 容赦ない光弾の雨はレンやツバメのHPを削り、同時にメイの足止めも成功させる。


「【瞬時跳躍】」


 さらに『Ⅵ』はここで、自らわずかに距離を取った。

 不可解な行動に、思わず目を奪われる三人。

 すると『Ⅵ』はゆっくりと、メイを指さした。


「――――【ソニック・フレア】である」

「「「ッ!?」」」


 輝く光。

 それはこれまで見たこともない速度で飛んでくる、超々高速砲弾魔法。


「『速さに挑んだ』のはキャスト速度じゃなく、魔法の飛行速度だったってこと!?」

「速いですっ!」


 まばゆい光球が、すさまじい速さで飛んでくる。


「【装備変更】っ!」


 しかし、その狙いをメイにしてしまったのが大失敗。

 メイはすでに【魔断の棍棒】を手にしており、真正面から光球に立ち向かう。


「せーのっ! 【フルスイング】!」


 大罪犯『Ⅵ』の奥義魔法に、見事に適応。

 鋭く振り抜いた【魔断の棍棒】で打ち返した光弾は、避けるどころか防御すら許さない速度で飛びキメラに直撃。

 爆発して近くの木に叩きつけた。


「【加速】」


 メイの一撃によって、キメラは吹き飛び動きを止めた。


「レンさん、いきましょう!」

「了解っ!」


 すでに走り出していたツバメは狙いを『Ⅵ』に絞り、斬り抜けを仕掛ける。


「【瞬時跳躍】」


『Ⅵ』は、全てのスキルのクールタイムが短いという反則仕様。

 瞬間移動による回避で、ここも見事に事なきを得るが――。


「その逃げ方。大罪犯の『こだわり』は弱点! 高速【誘導弾】【フリーズボルト】!」


 ツバメがレンに声をかけたのは、回避を予想してのこと。

『Ⅵ』の瞬間移動回避は、突飛な場所に現れない。

 やや大雑把な狙いで早めに放った高速の【誘導弾】は、『Ⅵ』が空中に現れた瞬間即座に軌道を曲げる。


「なにっ!?」


 瞬間移動の連続使用はできず、四発全てが直撃した。


「【加速】【跳躍】」


 空中で大きくフラつけば、斬り抜けをかわされた直後に華麗なターンを決めていたツバメが続く。


「【四連剣舞】!」

「あ、ああああああっ!!」


 空中で放つ四連の剣撃が、『Ⅵ』を真後ろから切り裂いた。


「【誘導弾】【フリーズストライク】!」


 そして落ちたところに飛んで来るのは氷砲弾。

 見事な連携が『Ⅵ』を消し飛ばして勝利。


「いきますっ!」


 一方メイは、体勢を立て直した獅子キメラのもとへ駆ける。

 先手は獅子キメラ。

 鋭い爪で放つ一撃は、スキルエフェクトを閃かせる。

 数メートル先のプレイヤーまで切り裂く高火力範囲攻撃を前に、メイは同じように右手を引くと――。


「【お仕置き戦樹】!」


 振るう右腕に合わせてメイの側方から伸び出した木の根たちが絡み合い、そのままキメラの一撃とぶつかり合い弾ける。

 すると足が止まったキメラに向けて、メイはさらに左手を振るう。


「おしおき!」


 すると今度は左側から伸び出した新たな木の根が、キメラを弾き飛ばした。


「おしおき!」


 さらに右手を振り上げると、月に向かって伸びる木の根の剣が獅子キメラを天高く突き飛ばす。


「おしおきだーっ!」


 最後は左手を、背中側から大きく降り下ろす。

 するとメイの後方からアーチを描くような形で飛び出してきた根が、宙を舞うキメラ叩きつけた。

 地面に激突し、HP全損。

 敵の初撃を『割り込み』で潰した後は、怒涛の連撃だった。


「敵のスキルから身を守るのではなく、敵のスキルにぶつけられるのね」

「そのうえ連続使用も可能……良いスキルです」


 自在に伸びる木の根たちが、手の振りに合わせて突き進んで打ち付ける。

 その重戦車のような戦いぶりに、思わず感嘆してしまっていたレンたち。

 やはりここは森。

 自然がそこにある限り、その全てはメイの味方になってしまうようだ。


「どんどんいきましょうっ!」


 夜の暗い森の中。

 そんな恐ろしい状況も、メイがいればむしろ心強い。

 五人は大罪犯とキメラの共闘という危機も乗り越え、木々の隙間を駆けていく。

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