第643話 突破します!

「このまま突き進みましょうっ!」

「もちろんよ!」

「はいっ!」


 いよいよ出入り口へと続く、最後の道を駆けていくメイたち。

 そこに待ち構えていたのは、たくさんの看守。


「【氷塊落とし】!」


 しかしまとまって陣を組んでいたのがアダとなる。

 落ちてきた氷塊で、数を半減。


「いきます! 【加速】【リブースト】【電光石火】!」


 ツバメが高速移動からの斬撃で追撃をかける。


「【フルスイング】!」


 残りの看守たちは、メイの振り払いでまとめて片付ける。

 もはや看守など相手にならないが、ここは大きな関門だ。


「ッ!!」


 置かれた装置から放たれる『痺れ矢』

 容赦のない強制停止罠は、猟犬などがうろつくこの場では脅威でしかない。


「よっ! はっ! それっ!」


 しかしこれをメイ、得意の斬り払いで弾き飛ばす。


「さすがです……メイさん!」


 その美技に感嘆していたツバメが挙げる声。

 見れば玄関ホールから飛んで来るのは、大型のガーゴイル像。

 メイたちの前に立ち塞がると、その口を大きく開いた。

 噴き出す豪炎は燃え広がり、足を止める。

 これまた最悪の時間稼ぎだ。


「【装備変更】!」


 しかしメイは止まらない。

 吹き付けられる炎に飛び込むと、そのまま【王者のマント】を振り払う。


「【ラビットジャンプ】【アクロバット】からの――【フルスイング】!」


 炎を払い一直線に駆けたメイは、放つ強烈な一撃でガーゴイルを粉砕。

 そして、着地と同時に罠の床石を踏んだ。

 足元から飛び出す金属管は、毒ガスを噴き出すためのもの。

 嫌らしい仕掛けの連続はため息ものだが、メイは「てへへ」と笑って手を伸ばす。


「いーちゃん! お願いします!」


 するとメイの肩口に現れたいーちゃんが、ビシッと手を上げる。

 巻き起こす暴風で、毒霧を吹き飛ばした。


「完全回避ね!」

「お見事ですっ!」


 ここでやって来たのは案の定、プレイヤーが『足止め状態』にあると踏んで放たれた猟犬部隊。

 だが罠は、メイが全て無効化済み。

 余裕ができたことで、猟犬に対して集中できる。


「【加速】【リブースト】」


 一瞬で部隊の真正面に飛び込んだツバメが、敵を斬る。


「【スライディング】【紫電】!」


 そしてすぐさま背後に回り込み、感電で動きを止める。


「【フリーズブラスト】!」


 続く魔法で、まとめて打倒。

 最後尾のネルとコゼットに近づくことすらできない。

 そのまま五人は、玄関ホールへと駆け込んでいく。

 ここを抜ければ、あとは門だけだ。


「「「ッ!!」」」


 しかし、ゆらりとやったきた異質な男の姿に思わず足が止まる。


「殺しは常に、右手から……」


 現れたのは、囚人服に二本の短剣を持った殺し屋の男。

 必要な筋肉以外の全てがそぎ落とされた、刃のような細身。

 かつて一夜にして傾国の危機を招いたほどの暗殺者は、真っ白な長髪と鈍く輝く目が、常軌を逸した雰囲気を醸し出している。

 懲役952年の大罪犯『Ⅶ』はつぶやく。


「殺しはいつも右端から。そして動き出しも、右足から――――【消失】」

「あれれっ!? 消えちゃった!?」


 突然『Ⅶ』は、視界から姿を消した。


「「「…………」」」


 慌てて付近を見回す五人だが、異変は感じられない。

 それでも、しきりに視線を動かしていると――。


「「「ッ!?」」」


 突然空中に、短剣を手にした『Ⅶ』が現れた。


「直でネルを……っ!?」


 二刀流で放つ一撃は、十字の斬り下ろし。


「【裸足の女神】っ!」


 この危機をメイが、ネルを抱えて転がることで回避する。


「【投擲】!」


 追撃に向かわせないよう、ツバメがけん制。

 これをかわした『Ⅶ』は、立ちふさがるツバメに剣舞を放つ。


「速いですっ!」


 右の突きから左の振り上げ、そのまま一回転して右の払いから左の振り降ろし。

 その流れるような剣撃が、ツバメの頬をかすめていく。


「【連続魔法】フリーズ――」

「投げるのは右手から【曲芸投擲】」

「なっ!?」


 レンが魔法による援護をしようとしたところに投じられる短剣。

 回転と共に放つ【投擲】はよほど【技量】がなければ当たらないが、スキル補正で見事にレンのもとへ。


「っ!!」


 レンはこれを、跳び込み前転で肩を斬られるだけにとどめた。


「かすめて一割……」


 速度に加えて意外な火力。

 どうやらこれが、『Ⅶ』の恐ろしさのようだ。


「……まだ、身体はなまっていない」


『Ⅶ』は不吉笑みを浮かべる。


「そして今も『殺し』の昂ぶりは、快感は変わっていない……【消失】」

「音も聞こえないよ」

「【忍び足】みたいな効果が効いてるんだわ……!!」


 今度は早かった。

 狙いはまたもネル。


「きゃっ」


 真正面からの短剣による斬り抜けを、メイはネルと共にしゃがむことで同時にかわす。


「【連続魔法】【フリーズボルト】!」


『Ⅶ』は振り返ったところに放れたレンの魔法をかわして、再びメイたちのもとへ駆ける。


「【死剣十字】」


『×』状に放つ斬り上げは、範囲が広く効果も長い。


「【ラビットジャンプ】!」


 飛んで来る『×』型の斬撃に対し、メイはネルを抱えて跳ぶことで回避。

 斬撃はそのまま背後の石柱を切り崩し、壁に深い傷をつけた。


「【加速】【リブースト】【スライディング】」


 そんな中、『×』の下の隙間を抜けていったのはツバメ。


「【電光石火】!」


 立ち上がりと同時に高速の斬り抜けでダメージを奪いに行くが、『Ⅶ』はこれもギリギリで回避。


「【串刺し処刑陣】」


 敏捷型の近接アサシン。

 反撃はなんと、範囲魔法。


「「「ッ!!」」」

「【バンビステップ】!」


 メイはネルを抱えて即座に退避。


「コゼットさん、こっちに!」

「後で文句言わないでよっ!」

「お、おいっ! ぐえっ!」


【低空高速飛行】で飛んできたレンは、そのまま蹴りでコゼットを魔法の範囲外へと弾き飛ばす。

 直後、足元に描かれた魔法陣から無数の武骨な刃が突き出した。


「あ、危なかったわね……」

「なかなか手ごわい相手です」


『Ⅶ』は回避力が高い上に、一撃の威力が高い。

 しかも、直でネルを狙ってくる。

 やっかいなことこの上ない敵だ――――しかし。


「確かに速いし、攻撃力も高いけど……ひどく神経質」

「狙いどころですね」

「そうみたいだねっ」


 この特性には、メイも大きくうなずいた。

『Ⅷ』の時にも、杖を盗んだがために自慢の腕力が活きないという弱点があった。

 今回もメイたちは『Ⅶ』の癖に合わせた戦い方を想定、確認し合うようにうなずいた。

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