第644話 最後の関門

「【消失】」


『Ⅶ』が姿を消す。

 速く火力も高い『Ⅶ』が使う、音もなく動くそのスキルは恐ろしくやっかいだ。


「きたっ!」


 メイが声を上げる。


「投げる時は右手から【曲芸投擲】」


 現れた『Ⅶ』は右側に高速移動で回り込みながら短剣を放つ。


「させませんっ!」

「高速【連続魔法】【フリーズボルト】!」


 これをメイが斬り払いで弾くと、即座にレンが魔法で攻撃。

 かすめながら回避したところで、反撃を放つ。


「【死剣十字】」

「【低空高速飛行】!」


 迫る『×』型の刃を横移動で避ける。

 新たに監獄の石壁に刻まれる、深い傷跡。


「【連続投擲】!」


 続けてツバメが放つ【ブレード】を避けたところで、『Ⅶ』は再び姿を消す。

 メイは視線を走らせながら防衛態勢。

 レンは杖を構え、ツバメはパーティの『右端』にいたメイのもとに駆け寄る。

 今度は空中。

 両手に短剣を持った『Ⅶ』が現れたところで――。


「きました! 【瞬剣殺】!」


 メイに足元でしゃがんでもらう形で、空刃による範囲攻撃を放つ。


「グアアア――ッ!!」

「やっぱりその面倒な『こだわり』が弱点みたいね! 高速【連続魔法】【フリーズボルト】!」

「クッ!! 【消失】!」


 移動開始時に必ず、一番右側にいる者を狙う。

 そんな奇人『Ⅶ』の特性はやはり、『Ⅷ』同様に欠点となる。

 姿を消されても、現れた際に右端から出てくるというのであれば、それが地上からの登場でも問題なし。


「【フリーズブラスト】!」


 姿が見えた瞬間レンは、交換しておいた【ヘクセンナハト】で氷嵐を放つ。


「グウウウウウッ!!」


 広範囲の氷嵐に逃げ場なし。

『必ず右端から狙う』ことを利用した攻撃が、『Ⅶ』のHPを大きく削る。

 二度に渡る反撃で『Ⅶ』は、その弱点を突かれ出した。


「だが! だがぁぁぁぁ! 【消失】ゥゥゥゥ!」


 それでも戦い方を変えられない。

 ツバメは対空、レンは対地。

 メイはネルの前に立ち、布陣は完璧だ。


「――――【残空刺殺】」

「「「ッ!?」」」


 準備していたツバメとレンが、それでも驚愕に硬直する。

 現れたのは地上から。

 しかし、速い。

 目にも止まらぬ超加速から放つのは、一本の短剣を両手で持って放つ垂直の切り落としだ。

 その速度は、まさに閃光がごとし。

 斬撃が石壁を貫くほどの威力を持つ、『Ⅶ』の奥義スキル。

 そんな恐ろしい超速の一撃を前に、しかしメイは――。


「【装備変更】! とっつげきー!」

「ッ!?」


 守るのではなく、間一髪のパリィで対抗。

 いかに速くとも、それが振り降ろしのモーションだったことが不運。

 脅威の高速攻撃スキルに、なんとメイは見事にパリィを合わせてみせた。


「【低空高速飛行】!」


 あまりに完璧な『弾き』に思わず立つ鳥肌を感じながら、距離を詰めるレン。


「ちょっとごめんね!」

「はいっ!」


 弾きを成功させた直後のメイの背中に、そのまま手を置いた。


「【ペネトレーション】【フリーズブラスト】!」

「ウグアアアアア――――ッ!!」


 強烈な氷嵐に吹き飛ばされる『Ⅶ』

 手にしていた短剣が飛び、そのまま壁に突き刺さる。

 速く高火力な分防御力が低いため、残りHPは雀の涙だ。


「【加速】!」


 すぐさま追撃に向かうツバメ、だが。


「終わりだ……もう、終わりだ……」


 ヒザを突いた『Ⅶ』は、うなだれる。


「刃がないなら、俺はもう戦えない。たとえ殺されても、もう戦えなぁぁぁぁい!」

「……大罪犯って、こんなのばっかなの?」

「さあ、俺を斬れェェェェ! その刃で切り刻めェェェェッ!!」


 両手を広げ、熱い視線を向けて懇願する『Ⅶ』


「はい、【フレアバースト】」

「ぐぎゃああああ――――っ!!」


 容赦のない爆炎に吹き飛ばされた『Ⅶ』は、そのまま壁に激突して泣きながら倒れ伏す。


「まあ罠の可能性もあるし、一応ね」

「っ! また足の速い看守さんたちがきちゃうよっ!」


 メイの【聴覚】が接近してくる看守たちの足を音を聞きつける。

 五人はすぐさま走り出し、ホールを飛び出した。

 前庭には、ひたすら広がる灰色の石畳。

 その上には、魔法石灯が順路を示すように置かれている。

 五人は真っすぐ、前庭を駆け抜けていく。


「見えた! あれだ!」


 大監獄最後の檻は、出入り口に置かれた大きな鉄門。


「デケえ檻だが、特殊な金属は何も使われてねえ! ただの鉄だ! 攻撃でぶち明けることも可能だぞ!」

「そういうことでしたら」

「ええ、ここはメイにお願いするわ」


 そう言って目配せしてくるレンとツバメに、メイは大きくうなずく。


「おまかせくださいっ!」


 魔法なら弾き飛ばし、剣舞なら刻んで破れる普通の鉄格子。


「【ゴリラアーム】!」


 選んだのは【腕力】による、こじ開けだ。

 メイはスキルを起動して、鉄格子をつかむ。

 そしてそのまま左右に、全力で折り曲げていく。

 ぐにゃりと、飴細工のように曲がっていく鉄格子。


「せーのぉぉぉぉぉっ!!」


 バキン! と、鉄門の接続部分が弾け飛ぶ。

 そのまま門をこじ開けたメイは、大きく振りかぶると――。


「それええええええええ――――っ!!」


 鉄扉を高くぶん投げた。


「いきましょうっ!」

「最高に気持ちいいわね!」

「やはりメイさんの豪快さにおまかせして正解でした!」


 駆け出すツバメとレンに、コゼットとネルも続く。


「ついにアンジェールを……アンジェールを抜けたぞォォォォ!!」

「抜けました……っ!」


 ネルもこれには、思わず感動の声を上げた。

 こうしてメイたちは、脱出不可能と言われたアンジェール大監獄からの脱出に成功したのだった。

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