第642話 選択肢、再び
大罪犯『Ⅷ』との戦いの中、やって来たのは猟犬たち。
『Ⅷ』を跳び越え、手にした警棒で攻撃を仕掛けてくる。
連携のような形で繰り出す攻撃を、前衛のメイとツバメがかわす。
するとその隙を突き、『Ⅷ』は前進。
レンから奪っていた【ヘクセンナハト】を振り下ろしにきた。
「ッ!!」
これをレンは、ネルの安全を確認しながら横への動きで回避する。
その隣を駆け抜けていくのは猟犬。
「しまった!」
これまで逃げの一手だったコゼットに、ついに狙いが向けられた。
「ぐあああああっ!!」
警棒による電撃を喰らったコゼットは、その場にヒザを突く。
「マズっ!」
大罪犯に加えて猟犬が迫り来るという最悪な状況の中、猟犬はコゼットを抱えて走り出した。
レンはわずかに悩む。
守るべき対象であるネルに対して『置いていくべき』と躊躇なく言い放った者を、危険を冒して取り戻すべきかどうか。
「いきますっ! 【裸足の女神】!」
しかしメイは、迷うことなく走り出した。
素晴らしい加速で、一気に後ろから猟犬たちを抜き去り振り返る。
「がおおおおおお――――っ!!」
放つ【雄たけび】で、三人の猟犬の足を止める。
「……仮に後で騙されたとしても、ここで見捨てて進むのは『メイのパーティ』らしくはないわね……!」
メイが離れたことで、『Ⅷ』の狙いはネルに向かう。
「【フリーズボルト】!」
これを強引に、自分に引き付ける。
『Ⅷ』の振り下ろしを横移動で回避し、続く大きな振り払いもしっかり引き付け身体をそらす。
「はあっ!」
そのまま魔力剣で斬り付け、1割弱のダメージを奪い取った。
「【ガイアバスター】!」
「やっぱり【ヘクセンナハト】を取ってしまったことが、マイナスに働いてるわね!」
そのパワーと勢いが武器の『Ⅷ』だが、杖の振り回しは軌道も読みやすく回避もそう難しくはない。
噴き出す溶岩の一撃も、すでに知っている攻撃だ。
【ヘクセンナハト】によって広くなった攻撃範囲から大急ぎで駆け出し、ギリギリのところでかわす。
「高速【連続魔法】【誘導弾】【フリーズボルト】!」
そして駆け抜けた直後に、振り返りと同時に放つ氷弾。
狙いが大雑把になった分は【誘導弾】が補正してくれるという狙いの通り、氷弾は立て続けに直撃。
後衛が見ても、前衛が見ても見事としか言えないほどの戦いぶり。
メイが離れたことによって生まれた隙を、レンは完璧にフォローしてみせた。
「ッ!!」
しかし体勢を崩した『Ⅷ』の左右を抜け、頭上を跳び越えてくる新たな猟犬の数はなんと五体。
迅速な『拘束』を得意とする敵が、五体もいるというのは恐ろしい。
しかもその狙いは、ネルだ。
常に『Ⅷ』を気にしていたレンに、これを追うことはできない。
猟犬たちは一斉に飛び上がり、警棒を振りあげた。
「っ!」
この数を相手にしては、ネルの防御スキルで防ぎ切ることは不可能だ。
電流をまとった警棒が、ネルに降り下ろされそうになったその瞬間。
「――――【加速】【リブースト】」
その前に疾風の様に割り込んで来たのはツバメ。
「【瞬剣殺】」
「「「うおおおおおお――――っ!?」」」
ネルを背負うような形で放たれた空刃が、まとめて猟犬を叩き斬る。
「ツバメ! 助かったわ!」
「敵がまとまっていたのが良かったです! このスキル、味方を守るのにも使えます!」
メイがコゼットを追うことで生まれた穴をレンが埋め、それによって突かれた隙をツバメが救う。
とっさにもかかわらず、見事な連携。
そしてこのツバメの一撃は、戦いの流れを変えるものになる。
猟犬がいなくなれば、ネルとコゼットの防衛に集中する必要がなくなる。
新たな猟犬が来る前に、一気に勝負をかけるべき状況だ。
「【裸足の女神】!」
コゼットを連れ去ろうとした三体の猟犬たちを打倒したメイは、猛スピードで駆け出した。
のんびり戦っていると、思わぬ増援が来る。
ジャングルで染み付いた感覚が、背中を押す。
超加速で駆け抜けたメイは、地面に刺さったままの【大地の石斧】を回収。
「【渾身大転回撃】ィィィィ!!」
「【ラビットジャンプ】【アクロバット】!」
『Ⅷ』の豪快な振り払いを跳躍で回避、そのまま空中で【大地の石斧】を掲げる。
「【フルスイング】だあああ――ッ!!」
大振りなスキル攻撃をかわされた『Ⅷ』は、防御もできず直撃を受ける。
床に上半身をめり込ませるほどの【腕力】で放たれた一撃は、HPゲージを消し飛ばした。
「チッ、俺が足手まといになっちまうなんてな……」
助けられたコゼットは、悔しそうに唇を噛む。
看守に猟犬、大罪犯が同時に追ってきているという厳しい状況。
【ヘクセンナハト】も無事回収し、うなずき合った三人は騒然とする大監獄西棟を駆け抜けていく。
監獄からの脱出はもう、目の前だ。
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