第618話 再会と新たな出会いです!
「お待たせいたしましたー!」
鳳からいつもの港町ラフテリアに集まったメイたちを待っていたのは、一人の少女。
短いブラウンの髪に大きな目、エプロン姿の商人は『マーちゃん』だ。
「やはり【ウサギの前歯】は通常の鍛冶師ではなく、特殊なNPCに依頼することで『効果上乗せ』の武器になるようです」
エクスカリバー探しの際に手に入れた素材アイテム【ウサギの前歯】
そのより良い使い方を、マーちゃんは商人仲間に聞いて回っていたのだった。
「助かったわ。良さそうな素材アイテムだったし、何かあるんじゃないかと思ってたのよ」
「ラフテリアから遠く東に進み、少し南に下がったところにある『フランシス』の南部ですね」
「ありがとーっ!」
「いえいえ! こちらこそメイさんたちの持ち帰るドロップアイテムの売買で潤っていますから! そうです! お店に『カフェクマぬいぐるみ』を置いたら、それ見たさにまたお客さんが増えてるんですよ!」
メイたちと共に不利なイベントで大勝利した商人ということもあり、その名が知られたマーちゃん。
あれ以来何かと儲かっているようだ。
「それじゃ今回の『鳳のドロップ』もよろしくね」
「はい!」
目を輝かせながら品物を受け取るマーちゃん。
メイたちは新クエストを受けることが多く、その中から出てくる新素材などは重宝されている。
「それじゃまずは『フランシス』に行ってみましょうか! その後、鳳にも行ってクエスト報酬をもらう形で」
「いってらっしゃい! ドロップの売却はぜひマーちゃん商店に!」
手を振り合い、メイたちはポータルへ向かう。
フランシスは港町ではないが、海に面した大きな街。
陽光眩しい街中を乗合馬車が周回していて、それが生活の中心になっているようだ。
「きれいな街だねーっ!」
「本当ですね」
「せっかくだし、馬車に乗ってみようよ!」
「いいわね」
綺麗に切られた石積みの建物が並ぶ街には、街路樹も多い。
坂の多いこの街は、その高低差も見どころになっているようだ。
メイたちは対面式のソファがついた荷車に乗り、ガタゴトと揺られながら東へ進む。
たどり着いたのは鍛冶場と倉庫、錬金術師の研究所などが並ぶ一角だ。
「おじゃましまーす!」
さっそく鍛冶屋に向かい、いかにも職人といった風情の男に【ウサギの前歯】で鍛冶を依頼する。
「こいつを持ってくるとは、お前さんたちかなりの腕利きだな……いいだろう、待ってな」
そう言って気合を入れると、さっそく仕事に取り掛かる。
「こいつを刃に変えるには少し特殊な工法が必要でな…………よし、完成だ」
【致命の葬刃】:敵の認識外にある時、攻撃力を1.5倍に引き上げる鋭い刃。攻撃75
「1.5倍時だと113ってこと? なかなかすごいわね」
「カッコいいーっ!」
黒の柄に、ウサギを思わせる白の刃と赤の装飾。
攻撃力113となれば、一振りが大きく重い両手剣クラスだ。
それが小回りの利くダガーで放たれれば、威力はかなりのものになるだろう。
「敵の認識外。【隠密】時は間違いないとして、背後から気づかれずに『アサシン』を決めた際にも適用されそうね」
「【忍び足】の有用性が上がりそうです」
「他にも、ちょっと面白い使い方ができるかも……」
さらにレンは、新たな可能性も思いつく。
「普通に使ってもなかなか強いし、これは良い武器ね」
普通の鍛冶屋への依頼なら【致命の刃】となって、追加の効果は持たないものになる。
そういう意味では幸運といえるだろう。
「ありがとうございましたーっ」
「ありがとうございました」
無事に【ウサギの前歯】をダガーに変えた三人は、鍛冶場の外へ。
「あれ……?」
そこでメイが気づいた。
一本の木の前でたたずむ、犬の姿。
駆け寄ってみると、そっと頭を上げた。
そしてメイの姿を確認してまたうなだれる。
「どうしたのかな」
元気のない犬の姿に、首と尻尾を傾げるメイ。
頭をなでているとそこに、先ほどの鍛冶師がやってきた。
「そいつ、ずっとそこにいるんだ」
「どういうこと?」
レンがたずねる。
「実は数日前、そいつの飼い主だった錬金術師がアンジェール大監獄の看守長とケンカになってな……」
鍛冶師はため息を吐く。
「看守長は街の警官隊にも顔が利く。錬金術師の持ち物には、組み合わせれば所持禁止の不法薬物も作成可能になる素材があった。そこを突いて逮捕に持ち込んだってわけだ」
「もしかして……」
メイは嫌な予感に、尻尾をブルブル震わせる。
「そういうことだ。強力な自白剤を作れと迫られたが、人体に危険だからと断ったのがきっかけだ。冤罪をふっかけて監獄行きにしちまった」
「ひどい話ね」
「錬金術師が連れて行かれちまう時に『待て』と言われてな。それからさ、そこでそいつが飼い主を待ち続けるようになったのは」
力なく、うなだれたままの犬。
どうやら暴れて警官隊に攻撃されてしまうのを避けるために飼い主が命じた『待て』を、今も守っているようだ。
「忠犬ですね」
「飲み食いもロクにせず、もう何日もこのままだ。どうにかしてやれればいんだがな……警官隊には俺たちが説明すれば、証拠不十分で開放されるはずなんだが……ここは街も大きいから弁明の順番が回ってくるのに時間がかかる……かといって大監獄から錬金術師を連れ出すなんてことは不可能だしな。俺たちにはお手上げなんだ」
「……これ、クエスト?」
はたから見れば木の前で犬がダレているだけにしか見えないが、【ウサギの前歯】を持ち込むほどの冒険者なら解放される展開。
メイが撫でると素直に尻尾振るが、犬はこの場を動こうとはしない。
「こういうのは反則よねぇ……」
その健気な姿に、レンも思わず犬の身体をなでる。すると。
「……ん?」
さっきまでの晴天が嘘のような雨が、突然降り出した。
主を待ち続ける犬を、雨が濡らしていく。
「わあーっ! レンちゃん!」
「これは放っておけませんっ!」
「かわいそうさを出すための演出まで完璧じゃない! いいわ! やってやりましょう!」
「うんっ!」
「はい!」
突然降り出した雨に濡れる犬は、それでも一歩も動かない。
その見事な演出に、メイたちは立ち上がるのだった。
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