第617話 鳳・グレートキャニオンにて

「うおおー! あれが鳳・グレートキャニオンかぁ!」


 戦士姿の青年が、王宮に突き立つ200メートル級の岩塔群を眺めてつぶやく。


「あれがスキルで作られたってマジかよ……」


 一緒に来た武術家の青年は、驚きに呆然とする。

 二人の手には広報誌。

 今回の鳳特集も、この地の魅力をしっかりメイたちが紹介するような形になっていて、大人気だ。


「チャイナドレス給仕クエストも人気だなぁ」


 数十段の蒸籠を重ね持って配達に向かうメイのページは、可愛いのに絵面が面白い。

 そのためクエスト見たさに人も増え、大通りはプレイヤーであふれている。

 失敗して蒸籠が倒れても、それはそれで盛り上がるという、お祭りのような状況だ。


「なんだか混んでるわね」

「本当だねぇ」

「皆さん楽しそうです」


 一方、そんな盛り上がりの中を楽しみながら進むメイたち。


「今回の広報誌、チャイナドレスのところは楽しくてよかったわね」

「本当だねっ!」

「私もあのページは、思わず何度も眺めてしまいました」


 三人は鳳の街を屋根上移動で軽快に進み、鳳の王宮を目指す。

 屋根の上にも、オブジェクトアクションのパターンを洗い出すのに夢中のプレイヤーたちが見える。

 通りでバトルが始まれば盛り上がり、鳳は一気に人気スポットと化したようだ。


「……ここ、鳳の王宮でいいのよね?」


 たどり着いた王宮は、まだ原状復帰が行われていない。

 岩の突きあがり具合はアメリカの荒野、建物は中華風の宮殿。

 その折衷具合は、もはや不可思議な光景だ。


「よいしょっと」


 王宮へとやって来たメイたちは、あらためてその景色に笑みをこぼす。


「待っていたぞ」


 そこにやって来たのは鳳国将軍、フェイ・リンとガオウ。


「今回は助けられてしまったな」


 先導のフェイ・リンが申し訳なさそうに言う。


「冒険者よ、貴様らには感謝するぞ。戦いは好きだが、危うく自らの国を戦火に焼いてしまうところだった」


 ガオウも狂ってしまった自分への悔しさを感じさせる声で、感謝を告げる。


「フェイ・リンさんは、狂わされても食べさせろと言っていました」

「き、記憶にない」

「ある意味貴様は、普段から狂っているということだな」

「記憶にないっ!」

「ふふふ、相変わらずフェイ・リンは食いしん坊いじりに弱いのね」

「あはははは、本当だねぇ」


 これにはメイもにっこりだ。


「いいから行くぞ! 王はあちらだ!」


 廊下を進むと、そこで待っていたのはシオン。


「メイ殿! 礼を言わせてくれ。君たちの活躍もあり、姉弟子は私に代わって街の衛兵として鳳のために働くことになった!」

「おおーっ!」

「姉弟子の実力なら、すぐに鳳を守る稀代の人物となるだろう!」

「本当にあの時、シオンとファーランの戦いに手出しをしないでよかったわ」

「姉弟子は顔も広く、多くの者に慕われている。必ずや荒れた地区をまとめ上げてくれるはずだ」

「それは良かったですね」


 こうして嬉しそうに報告しにきたシオンも一緒に、並んで謁見の間へ。


「待っていたぞー!」


 たどり着いたメイに、さっそく飛びついてきたのは天子。


「天子ちゃん!」


 メイは天子を抱えてクルクル。

 そのまま肩車して、王の前へ。


「よくぞ来てくれた。国を救ってくれた君たちには、鳳の王として報奨で応えるべきと考えてな」


 教育係ローウェイも、静かにうなずく。

 するとさっそく、ガオウが三つの宝箱を抱えてやって来た。


「そなたらの冒険に役立ててほしい」


 そう言って、メイたちの前に宝箱を並べてみせる。

 三人はさっそく、報酬の確認を開始した。



【瞬剣殺】:自身を中心にした円形に範囲内に、刃の嵐を巻き起こす。



「範囲攻撃です……!」

「敵集団の真ん中に飛び込んで使う感じかしら。ツバメの【リブースト】が活きるわね!」

「面白くなりそうです……! レンさんの報酬は?」



【悪魔の腕】:足元の魔法陣から伸びる悪魔の腕が敵を叩き潰す。相手が大型の場合はつかむこともある。



「世界観強いわねっ!」


 近距離で複数の敵を狙えるという点は良い。

 時には大型モンスターの足などをつかんでくれるとなれば、面白いことになるだろう。

 それでも、自分が悪魔の腕を呼び出す姿を想像をして震えるレン。

 そして最後はメイの番だ。



【お仕置き戦樹】:草や木のある自然フィールド内で、モーションに合わせた『根』の攻撃を放つ。



「モーションに合わせたとは、どういうことでしょうか」

「動きに合わせてってことだし、ちょっと手を下から上に振り上げる形でスキルを使ってみて」

「りょうかいですっ!」


 さっそく中庭に出る三人。

 メイは右手を引くと、そのまま手を大きく振り上げる。


「いきますっ! 【お仕置き戦樹】!」

「「っ!?」」


 すると足元から伸び上がった木の根たちが集まり、2メートルほどの剣の様に突きあがった。


「なるほどね……【密林の巫女】は使える?」

「やってみるね!」


 メイは再び右手を引き、今度は【密林の巫女】と共にスキルを発動。


「【お仕置き戦樹】大きくなーれ!」

「「――ッ!?」」


 すると伸びた木の根の集まりは、一軒家をゆうゆう貫くほどの一撃に変化。


「これって手を振り払ったり、ボールを投げるみたいに後ろから前に持ってきた時も、それに合わせた伸び方をするってことよね」

「そう考えると、いよいよ『自然を操る』感じが強くなりますね」


 メイらしいそのスキルに、大きくうなずくレンとツバメ。


「ね、ねえレンちゃん、もう華麗な剣技とかは出てこないのかな?」


 一方首を傾げながら、たずねるメイ。

 野生はいつも、そばにいる。


「あらためて礼を言うぞ、猛き冒険者たち」


 こうして、鳳の報酬タイムも無事終了。

 するとローウェイが、意匠の刻まれた木製の机の上で書を開き、筆を手に取った。


「長き戦乱の終わりと、新時代の始まり。しっかりと書き記さなくてはなりませぬな」


 そう言って『新たな鳳国の始まりという見出しのページ』に、筆を走らせる。

 鳳の大型クエストは、達成すればその名が歴史書に残る。

 今後クエスト達成者の名前はここで名前を確認できるようになるという、めずらしい演出だ。

 鳳国の歴史書に今、三つの名前が刻まれる。


『――――黄龍の加護を得し仇敵に立ち向かい、鳳を救った英雄たち』

『――――雷光のごときアサシン、ツバメ』


「なんだか少し照れます」


『――――英知の魔導士、聖城レン・ナイトメア』


「ちょっと待って!」


『――――猛き野生児、メイ』


「うわはーっ!」

「私の名前は『聖城レン』までにしておいて欲しいんだけど!」

「ややや野生児の部分は隠してもらえないでしょうかっ!」


 すぐさま訂正を申し出るレンとメイ。


「汝らの名は、永劫語り継がれるであろう。鳳の国の英雄として」

「その英雄が、名前の表記を変えてって言ってるの!」

「お願いします――っ!」


 伝説の魔導士はローウェイの袖をつかんでグイグイ引っ張り、最強の野生児は「上から塗りつぶすだけでいいのでーっ!」と裾にしがみつく。

 それでもローウェイは止まらない。

 完成した新たなページを、満足そうに眺めている。

 そしてツバメは、鳳を救った英雄とは思えぬメイたちの姿にくすくすと笑うのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る