第564話 熾天使ルシファー

「もう強化段階に入るのですか」


 HPの減りはまだ3割。

 早くも翼を6枚に増やしたルシファーは、さらに自在度を上げた飛行で迫ってくる。


「【ソフィアブレイド】」

「ツバメちゃん、斬った後に火が広がるよっ!」

「はい!」


 炎の剣による攻撃は、振り払いの後に炎の波が付近を一掃。

 これを二人そろってしゃがんで避けると、背後の建物が爆発して崩れる。

 さらにルシファーは、そのまま炎の剣を投擲。

 回転しながら追る剣は、巨大な炎の輪を描きつつ高速で迫りくる。


「ツバメちゃんっ!」

「お願いします!」

「【ラビットジャンプ】!」


 跳躍時の高さ調整が自在なメイはツバメを抱えたまま、迫る炎の輪をギリギリの高さでかわした。

 これで飛んだところを狙われることもない。


「【バンビステップ】」

「【加速】」


 仲良く着地したところで、並んで走り出す。

 投じた剣が壁に刺さって建物が倒壊する中、距離を詰めた二人はそのまま特攻。


「【電光石火】!」

「【フルスイング】!」

「【智天の翼】」


 時間差で行った二人がかりの攻撃も、翼を閉じることで防御。

 弾ける強烈な火花。

 どうやらこのスキル、一撃ごとではなく時間防御のようだ。


「物理防御、かなりの硬さです……っ」


 大きく後方へと弾かれたルシファーは、すぐさまその手を上げる。


「人間にしてはそこそこできる。だが……【炎蛇】」

「これは……っ!」


 現れたのは四体の巨大な炎蛇。

 石畳を黒く焦がしながら地上を進み、猛烈な勢いで喰らいつきに来る。


「この大きさで四体同時とは……っ!」


 一体でボス級の巨体を誇る炎蛇は、その体躯に見合わぬ速さだ。

 その動きは、蛇よりもサメと言った方が正しく思えるほどの獰猛さ。


「【疾風迅雷】【加速】!」


 まるでエサを奪い合うように、絡み合うようにして喰いついてくる炎蛇。


「【加速】【加速】【加速】ッ!!」


 顔の真横を通り過ぎて行く炎が、頬を焦がす。


「【リブースト】!」


 見えた一瞬の隙間。

 四体の炎蛇の間、わずかな空間を高速直線移動で駆け抜ける。

 一瞬でも躊躇すれば直撃という、ギリギリのタイミングは見事の一言だ。


「【バンビステップ】」


 一方柔軟な高速移動を得意とするメイは、この隙に大きなカーブを描く走りでルシファーの右斜め後方へと回り込んでいく。


「【加速】【リブースト】」


 ツバメが左側から先行し、そこに時間差でメイが続くような位置関係を取ったところで、もう一度うなずき合う。


「「いきます!」」


 狙いは【智天の翼】による防御をさせた上で、メイが後方から遅れて強烈な一撃を叩き込むという作戦。しかし。


「甘いぞ、脆く弱い人間どもよ――――【セラフィムフレア】」


 ルシファーは笑って、両手を開く。


「「ッ!?」」


 二人の接近を目前に、突然その身体を爆発的に燃え上がらせた。

 まるで自爆したかのような猛烈な閃熱が、空へと抜けていく。


「ああああ――っ!!」


 ツバメは急停止するもギリギリ踏みとどまれず、黄金の炎に弾かれるような形で2割のダメージを受けた。


「うわわわわ!」


 メイも慌てて急停止。

 熱波から腕で顔を隠しながら、立ち止まる。


「ツバメちゃん大丈夫ー?」

「軽傷です」

「っ!! ツバメちゃん下がってー!!」

「【シャインフェザー】」


 ルシファーは攻撃を続ける。

 付近一帯に広がる大量の羽が、建物に当たり爆発。

 その爆発がまた一斉に誘爆をつなげていく。さらに。


「【炎蛇】」

「うええええっ!?」


 巨大な炎蛇が新たに四匹生まれ、この降り注ぐ光の羽の中を猛烈な勢いで寄ってくる。


「【加速】【リブースト】!」


 ツバメはしっかり目を凝らして羽を避けるが、迫る炎蛇の迫力は圧倒的。

 わずかな見誤りで光の羽が触れ、起きた爆発に大きく体勢を崩す。

 そしてこれによって生まれた隙を狙い、炎蛇たちが喰らいつきに来る。

「ッ!!」


 ツバメは回避を試みるが、羽に触れた炎蛇が炸裂。

 燃え上がる爆炎に吹きとばされ3割近いダメージ受けた。さらに。


「ツバメちゃんっ!」


 これに目を奪われたメイも、肩に羽が触れた。


「ッ!!」


 さらに近くの羽による誘爆を受け、1割弱ほどのダメージ。

 それでもメイは、ツバメのもとに駆けつける。


「大丈夫!?」

「メイさん。ご心配をおかけしました」

「無事でよかったよ!」

「なかなかに強力なスキルの組み合わせですね。炎系のスキルが何かと上手く活きています……ですが」


 軽くはないダメージ。

 だがツバメは、いたずらにHPを減らしただけではなかった。


「この手の炎なら、メイさんのスキル一つで状況を変えられます」

「……そっか!」


 ツバメの意図を、すぐに理解するメイ。

 二人は笑って、うなずき合う。


「すげえな、こんなの最低でも20人30人は必要な相手だろ……」


 一方戦いの圧倒的な迫力に、すっかり観戦モードのプレイヤーたち。


「私が時間を作ります」

「お願いしますっ」


 そう言って走り出すツバメに感嘆する。


「あんなの相手に『時間を作る』って、普通に言えるアサシンちゃんもすごいな……」

「メイちゃんも普通に任せてるもんな」


 二人の信頼関係に、思わず感嘆。


「【加速】」


 ツバメは走り出す。

 迎え撃つルシファーは、【ソフィアブレイド】を手に接近。

 二度の剣撃、そして派生する炎の波動をかわす。


「【跳躍】」


 続く大きな振り払いを、空中への退避でかわす。

 するとルシファーはそのまま、剣をツバメに向けて投擲。

 普通であれば格好の的だが、ツバメはその限りではない。


「【エアリアル】【跳躍】」


 迫る豪炎の剣を二段ジャンプでかわし、両手にダガーを構える。


「【アクアエッジ】【四連剣舞】」

「――――【熾天の翼】」


 ルシファーの6枚の翼が羽ばたくと、水刃が弾かれ消えた。


「ッ!?」


 それは魔法などの攻撃から身を守る、第二形態特有の防御スキル。


「驚きました。ですが、役目は果たしました!」


 この時すでにメイは右手を突き上げ、準備は万端。


「――――それではどうぞ、お越しくださーい!」


 空中に現れた魔法陣から落ちてきたのは、巨大な象。


「「「おわっ!?」」」


 着地した象によって広がる地面の揺れに、観客たちが皆ちょっとずつ浮き上がる。


「パォォォォォォォォ――――ン!!」


 白象はさっそく長い鼻を月夜に向け、水を吹き上げた。


「……雨?」


 降り出す雨。

 その狙いはもちろん、火炎系スキルの威力減衰だ。


「ありがとー!」


 鼻を振りながら帰っていく象に、手を振り返すメイ。

 ここから天候は数分間『雨』に変わる。


「それでは、いきましょうか」

「りょうかいですっ!」


 笑い合い、走り出すメイとツバメ。


「【炎蛇】」


 狙い通り炎蛇は一回り小さくなり、移動速度まで低下。


「【十字光輪】」


 夜空に広がる光の輪。

 その中心に、まばゆい光の巨槍が突き刺さる。

 組み合わせでの攻撃はやっかいだが、【炎蛇】が弱体化した今なら回避は容易だ。

 一気に距離を詰める、メイとツバメ。

 先行するメイの頭上から、突然飛び出してきたのはツバメだ。

 放つ【四連剣舞】に対してルシファーは当然【智天の翼】で守りにいく――が、これは【分身】

 しっかり動きを止めたルシファーに、迫るメイは小さく跳躍。


「【カンガルーキック】!」

「ッ!!」


 前蹴りで【智天の翼】を崩し、隙だらけになったところにツバメが駆け込んでいく。


「【雷光閃火】!」


 突き刺したダガーが、火花を上げて炸裂。

 弾き飛ばされ転がったルシファーに、メイが再び右手を突き上げる。


「――――それでは。おいでくださいませ、狼さんっ!」


 魔法陣から流れ込んでくる猛烈な吹雪。

 現れた巨狼が、猛然と走り出す。


「【疾風迅雷】」


 さらに狼と並走するように、駆け出すツバメ。

 予想通り、速い飛行が得意なルシファーは狼の喰らいつきから逃げようと動く。


「【跳躍】【連続投擲】!」


 しかし投じた【雷ブレード】が、雨でその効果範囲を向上。

 走る雷光が、ルシファーの動きを止めた。

 狼は逃さずその牙で喰らいつき、天気雨状態の夜空に顔を突き上げる。


「ウォォォォォォォォ――――ッ!!」


 巻き上がる白煙の爆発に、ルシファーは高く吹き飛び凍結した。


「ああっ! あんな位置じゃ攻撃しにくいな……っ!」


 翼を動かし、空中で体勢を整えようとするルシファー。


「【バンビステップ】【ラビットジャンプ】からの――――【フルスイング】ッ!」

「【智天の翼】」


 やはり追撃は間に合わない。

 しかしメイは「にひひっ」と笑う。

【智天の翼】は強力だが、魔法攻撃は守れない。


「それでは、よろしくお願いいたしますっ!」

「来たれ! ――――冷厳なる闇の魔導士ナイトメア!」

「【誘導弾】【フリーズストライク】!」


 氷砲弾が炸裂し、ルシファーは墜落。

 そのまま地を転がった。


「誰が冷厳なる闇の魔導士よ!」

「「「おおおおおお――――っ!!」」」


 レンの接近に気づいたメイによる、陽動からの魔法攻撃は見事成功。

 ツバメの『召喚風』になったことにも、観客は大喜びで拳を突き上げた。

 こうして残りHPが3割となったルシファー。

 もちろん、このままでは終わらない。

 その翼はなんと6枚から12枚へと倍増し、放っていた神々しい光が闇へと変わっていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る