第522話 創始者たち

「――紹介が遅れました。私は鳴花雨涙」

「なきはなうるいちゃん!」

「また頭の先から尻尾までドップリなネーミングね……」


 白目をむきながらつぶやくレン。


「――レクイエムと共に闇の使徒に残り、暗夜教団の蛮行を止めるために動いています」


 闇の使徒は安易に力を振るう存在ではなく、傲慢なる光の者に対する調整者。

 その理念に反する暗夜教団の横暴は、やがて闇の使徒の存在すら飲み込もうとするだろう。

 黙って容認することなどできない。


「大罪悪魔が目覚めたことで闇の使徒から暗夜教団が生まれて、アルティシアの街が闇落ちするか否かのクエストが始まり、それによって光の使徒との争いになってると……」


 あらためて、そのとんでもない状況にレンはため息をつく。


「――暗夜教団の目的は新たな大罪悪魔を復活させて、聖教都市を闇に落とすこと」

「普段居ついている拠点が急に闇の都市になると知れば、争いになるのも分かりますね」

「しかも闇の使徒の分店が暗躍してそうなるんだから、光の使徒は燃えているでしょうね」


 聖教都市アルティシアを目指し、四人はポータルによる移動を続ける。


「このポータルじゃなくない?」


 表示された行き先一覧を見て、レンが問いかける。


「――これは追手がいた場合に備えた、あぶり出しの罠」

「おおーっ! すごーい!」

「なるほど、そういうことでしたか」

「そうなの……?」


 クールな表情を崩さない雨涙に、レンはため息をつく。

 あらためて乗り直したポータルで中継の街に着き、ここで行き先ごとに分かれたポータルへ向けてまた歩く。


「アルティシアに行くのは向こうじゃない?」

「――これも、追手を振り切るため」


 そう言いながら振り返った雨涙と共に、聖教都市アルティシアへ向かうポータルを使用。


「わあーっ! きれいな街だねぇ!」


 目的地に着くと、メイはさっそく走り出す。

 やってきたのは、白を基調とした石造りの街。

 パルテノン神殿を思わせる石柱の神殿が、この街の目印といったところだろうか。

 付近に並ぶ建物もその一部のように造られていて、神殿都市のような雰囲気を感じさせる。


「趣があります」


 清潔感のある整然とした街並みには、小さな黄色の花がいたる所に咲き、足元の石畳も綺麗に並んでいる。

 一通り神殿前広場を眺めたメイたちは、雨涙に先導される形で道を行く。


「教会も綺麗です」

「――聖教都市というだけあり、いくつかの教会が点在しています」

「光の使徒が喜びそうな街ね」

「――こっち」


 急に立ち止まった雨涙は、進んできた道を戻り、また曲がる。


「大丈夫? 道間違えていない?」

「――問題ない。付近の様子を探っていました」

「キョロキョロしてたように見えたけど……」

「――問題ない。待ち合わせはここで行われます」


 そう言って、静かにたたずむ。


「雨涙」


 そこにやって来たのは、重厚な黒の鎧を全身にまとった闇の騎士。黒神リズ・レクイエム。

 かつて雪の街ウェーデンのイベントで戦った、『闇の使徒』創始者の一人だ。


「待ち合わせは、一つ先の角だ」

「――こ、ここの方が日当たりが良い」

「……本当に大丈夫?」


 この子はクールな感じだけど、そこそこポンコツなのではないか。

 レンはそんな事を考えながら息をつく。


「久しぶり……ってほどでもないわね」

「ああ。だがどうしてナイトメアたちが雨涙と一緒にいる?」

「――今回の事態に、力を貸してもらおうと考えました」

「そういうことか。私たちは今、暗夜教団を名乗る者たちの蛮行を止めるために動いている。だが、勝手の分からぬ街に苦戦しているところだ」

「とりあえず、ナイトメアって呼ぶのはやめて」


 レン、そこは早めに言っておく。


「そのうえ私たちが進めてきたルートは光の使徒たちと同じもののようだ。ナイトメアたちには別のルートを模索してもらいたい」

「――私たち五人が一緒に動き出せば、光の使徒は暗夜教団よりもこちらに注意を向けてしまう」

「その通りだ。下手に我らと共に動くより、驚異的な探索能力を持つ野生児殿が自由に動く方が良いだろう」

「や、野生児ではございませんっ!」

「すまない。普通の野生児だったな」

「わあ! 混ざっちゃってる!」

「分かったわ。そういう事なら私たちはマイペースに動くことにする。何かあったら落ち合いましょう」

「ああ、分かった」


 闇の使徒二人には、すでに追っているクエストがある。

 レクイエムは大きくうなずくと、踵を返した。


「ナイトメア……やはり戻ってきたのだな」

「創始者の一人として、放っておけなかったってだけよ」

「フッ」


 レクイエムは薄く笑って、雨涙と共に街へと消えていく。


「レクイエムさん、なんだかうれしそうですね」

「うんうん、やっぱりレンちゃんが来てくれてうれしかったんだよっ!」

「普通の格好で普通にしてくれたら、いくらでも協力するんだけどね」


 これにはレンも、思わず苦笑いをこぼす。


「さて、それじゃ私たちも適当に街を見て回りましょうか」

「そうしましょうっ!」

「はいっ!」


 こうしてメイたちは、まだ見ぬ街の新たなクエストを目指して動き出す。


「一応言っておくわね。どんなのが出てきても、カッコイイとか思っちゃダメよ。『ちょっと装備してみようかな』から地獄が始まるんだから!」


 そこにだけは一応、注意を入れてから。

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