第523話 最初のクエストは

「現実では遺跡でしか残っていないような街を歩けるというのは、素晴らしいですね」


 神殿を中心とした街を進む三人。

 その文明は中世以降の雰囲気を見せているにもかかわらず、中心部分の建築は神話の趣すら感じさせる。

 街行く冒険者たちの格好もあり、聖教都市には趣深い光景が広がっている。


「ゆったりした白布を巻いた商人が、また雰囲気あるわねぇ」


 現地NPCはその土地に合った衣装を身にまとっており、メイも「なるほどー」とうなずく。

 カラッと晴れた青空と、道々に咲く黄色い花が目に鮮やか。

 明るく美しいアルティシアは、拠点とするのにもちょうど良いだろう。


「ねこー」


 そんな街にも猫はいる。

 メイが駆け寄っていくと、白猫は「遊び相手が来た!」とばかりに走り出す。

 通りを駆け抜け、壁を蹴って民家の屋根の上へ。


「【バンビステップ】からの【ラビットジャンプ】っ」


 あっさりと追いかけてきたメイに、白猫は「まだまだ」とばかりに駆けていく。

 ツバメとレンも、後に続くことにした。

 白猫を追い商店のホロから道に降り、民家の庭を抜け植木の下をくぐって抜ける。

 するとその先にあったのは、一軒の教会。

 白猫は教会の前にやってくると「やるじゃん」とばかりに鳴いた。


「こういう遊びは久しぶりですけど、やはり楽しいですね」


 後を追ってきたツバメと、空から降りてくるレン。

 そのまま三人で猫を撫でていると、そこに美しい金髪のシスターがやってきた。


「ああっ、忙しい忙しいっ」


 右手に金づち、左手に野菜という慌てぶりで教会の前を駆けていく。


「どうかしたの?」


 レンがたずねると、シスターは金づちを振り振りしながら語り出す。


「仕事が色々重なってしまいまして、このままだと聖水作りのための清水をくみに行けなくなってしまいそうなんです。力仕事なので子供たちにも頼めませんし……」


 見れば教会の中には、窓を拭いたり食材を切ったりと忙しそうにしている子供たちの姿がある。


「そういう事でしたら、お手伝いしましょうか」

「いいと思いますっ」

「本当ですか……!? 助かります!」


 シスターはそう言うと、教会の物置にメイたちを案内。


「こちらの容器からお好きな物を選んで、神殿裏手に湧く清水をくんできてください」


 清水を入れるための容器は、小さなもので花瓶。

 中くらいのもので壺。

 最大は両手で抱えるサイズの、大きな水瓶だ。


「よいしょっと」


 メイは普通に水瓶を選んで持ち上げる。


「水瓶は持ち運びが大変ですが……大丈夫ですか?」

「おまかせくださいっ! それではいってきます!」


 そんな前フリにも軽快に応えて、メイたちはさっそく神殿へ向かう。


「まあこういうのは、行きは余裕よね」

「水をくんでから慌ただしくなるんだねっ」

「しっかり割れやすい容器になっているので、気を付けなければなりません」


 神殿の裏手にある泉は小さな滝のようになっており、キラキラと輝く水がこぼれ落ちている。


「それではいきましょうっ!」


 レンは花瓶、ツバメは壺。

 各自、手にした容器に清水をためた状態で帰路に就く。


「がんばれー!」

「はーいっ!」


 神殿から戻る道には、多くの信徒が行き来している。

 NPCがメイに手を振ると、それを見たプレイヤーたちも気づく。


「あ、メイちゃんだ! がんばれーっ!」

「ありがとうございますっ! あっ!」


 うっかり手を振り返そうとして、抱えたカメが手から離れる。


「うわっと!」


 座り込んでキャッチに成功。

「てへへ」と笑うメイに皆が安堵の息をつくと、本格的にクエストが始まった。


「う、うわああああーっ!」


 あがる悲鳴。


「大変だ! 竜騎兵の騎竜がぁぁぁぁ!」


 こちらに猛スピードで駆けてくるのは、騎兵を振り落とさん勢いで暴れる小型の飛竜。


「っ!?」


 振り回す翼が完全に『容器』を持つメイたちを狙いにくる。


「うわっと!」

「危ないです!」


 これを前衛二人は難なく回避。

 なみなみの水を持っていても、見事な動きは変わらない。


「あっぶな!」


 一方レンは割と安全圏にいたにもかかわらず、翼の起こした風で水が跳ね、慌ててバランスを取り直した。

 もちろん、こんなものでは終わらない。


「ああっ! 今度は酔っぱらった魔導士の爆破魔法がぁぁぁぁ!!」

「ええーっ!?」

「あははははっ! 【エクスプロードシェル】! 【エクスプロードシェル】! 【エクスプロードシェル】ーっ!」


 ご機嫌な魔導士は爆破魔法を放ちつつ、案の定こちらに向かって突撃してくる。


「【加速】【リブースト】」


 これをツバメは高速移動で回避し、揺れる水面を調整して息をつく。

 メイも慌てて逃げ出そうとするが、運悪くこの場に踏み込んでしまった少女プレイヤーに魔導士が杖を向けるのを発見。


「あわわわわ!」


 まさかの事態に、たっぷたぷに水の入った水瓶を抱えたまま右へ左へわたわたするメイ。


「そうだっ! 【ゴリラアーム】!」


 なんと、とっさに水瓶を空高く放り投げた。


「「「ッ!?」」」


 前代未聞の状況に驚くアルティシア民たち。


「【バンビステップ】! それーっ!」


 メイはそのまま少女を抱きかかえて転がり、爆破魔法を回避。


「あ、ありがとうございますっ」

「いえいえ…………はいっ!」

「「「おおおおおお――っ!!」」」


 落ちてきた水瓶を見事にキャッチして、その場のプレイヤーたちの歓声を浴びる。


「きゃあっ! ……ど、どどどどうよ! これでこぼしてないんだから大したものでしょう!?」

「お見事です」


 一方前衛職でないレンも、必死の逃走で半ば意地で清水を守り切っていた。

 爆風に尻もちをつきはしたものの、なんとか水位を保っている。


「うわあああっ! 今度はうっかり召喚の召喚獣がああああああ――っ!」

「ああもうっ! 今度は何よーっ!?」


 しかしクエストは終わらない。

 振り返って、驚きふためくメイたち。

 そこにいたのは巨大なモグラ。

 その腕を強く振り降ろすと、地面が大きく突きあがる。


「【ラビットジャンプ】!」

「【跳躍】!」


 これを前衛二人は、自分たちも跳ぶことできっちり対処。


「ちょっとおおおおーっ!!」


 レンは下からの突き上げによって手が離れ、花瓶が空高く飛んでいく。


「い、一番小さな花瓶で失敗とか嫌よーっ!」


 そしてレン、めずらしく本気のダッシュ。

 中二病装備の魔導士らしからぬ全力疾走で、花瓶を追いかける。


「ここっ! 届いてええええ――っ!」


 スプリンターのごとき猛ダッシュから、渾身の飛び込みスライディング。

 神殿前広場に、砂煙を巻き上げた。


「レンちゃん!」

「レンさんっ!」


 その勢いに、通行人たちも思わず息を飲む。


「…………」


 レンはギリギリで受けとめた花瓶を、静かに掲げてみせた。


「「「おおおおおお――っ!」」」


 メイパーティに注目していた通行人たちが、思わず歓喜と共に拍手する。


「ど、どうも……」


 根性ダッシュに送られた拍手が急に恥ずかしくなったレンは、頬を赤くしながら歩き出す。


「や、やっぱり水瓶があると難易度が上がるのかもしれないわね」

「思っていたより騒がしく、そして楽しいクエストになりました」

「本当だねっ! レンちゃんダッシュすごかったよ!」


 どうやらこのクエストはアルティシアでは稀に起きる名物らしく、NPCたちも拍手を送る。

 こうしてメイたちは容器を一つも割ることなく、歓声に背を押される形で教会に戻ってくることに成功した。


「まあ、早かったですね! それにこんなにたくさん!」


 洗濯カゴとノコギリを持ったシスターはうれしそうにほほ笑むと、さっそくいくつかの小瓶を取り出す。


「【ブレッシング】」


 スキルの発動と共に、小瓶に詰めた清水がまばゆい輝きをまとって【聖水】へと変わる。


「こちら、アンデッドを始めとした不死の者に対する効果を持ちます。お礼としてお持ちください!」

「ありがとうございますっ」

「15本ももらえるのですね」

「水瓶10、壺3、水差し2といったところかしらね。ところでシスター、他にも仕事があったりしない?」

「そうですね……皆さんになら、お願いできるかもしれません」


 うなずき合う三人。

 メイたちの聖教都市アルティシア攻略は、この教会から始まるようだ。



【名前:メイ】

【クラス:野生児】


 Lv:287

 HP:26118/26118

 MP:466/466


 腕力:1140(+58)

 耐久:805(+78)

 敏捷:500(+30)

 技量:455(+20)

 知力:10

 幸運:10


 武器:【蒼樹の白剣】攻撃43(【大蜥蜴の剣】)(【魔断の棍棒】)(【大地の石斧】)(【王樹のブーメラン】)

 防具:【白花の鎧】耐久30 腕力15(【王者のマント】)

   :【白花のブーツ】耐久20 敏捷10

 装飾:【猫耳・尻尾】敏捷20 技量20(【鹿角・尻尾】)(【狐耳・尻尾】)(【狼耳・尻尾】)

   :【召喚の指輪Ⅴ】


 スキル:【ソードバッシュ】【投石】【装備変更】【キャットパンチ】【フルスイングⅢ】

    :【ラビットジャンプ】【バンビステップ】【モンキークライム】【ゴリラアーム】【カンガルーキック】【四足歩行】【裸足の女神】【野生回帰】【ドラミングⅠ】

    :(【アクロバット】)(【突撃】)(【狐火】)(【幻影】)(【トカゲの尻尾切り】)(【魔弾リフレクト】)(【地列撃】)(【グレート・キャニオン】)

    :【アメンボステップ】【ドルフィンスイム】

    :【遠視】【聴覚向上】【嗅覚向上】【夜目】【雄たけび】

    :【自然の友達】【密林の巫女】【蓄食】【帰巣本能】【呼び寄せの号令】

    :【クマ召喚】【クジラ召喚】【ケツァール召喚】【白狼召喚】【象召喚】



【名前:聖城レン・ナイトメア】

【クラス:魔導師】


 Lv:114

 HP:2968/2968

 MP:1425/1425


 腕力:10(+8)

 耐久:10(+76)

 敏捷:150(+12)

 技量:134(+15)

 知力:856(+35)

 幸運:10(+1)


 武器:【銀閃の杖】攻撃8 知力15(【ワンド・オブ・ダークシャーマン】)(【魔剣の御柄】)

 防具:【夜空の冠】防御5 知力10

   :【夜風のローブ】防御40 知力10

   :【夜空のブーツ】防御15 敏捷12

 装飾:【銀の腕】防御15 技量15(【宵闇の包帯】)(【常闇の眼帯】)(【色炎のお守り】)

   :【真っ赤なリボン】防御1 幸運1


 スキル:【スタッフストライク】【吸魔】【浮遊】【低空高速飛行】

    :【ファイアボルト】【フリーズボルト】【ファイアウォール】【ブリザード】

    :【フレアアロー】【フレアストライク】【フリーズストライク】【氷塊落とし】【フレアバースト】【フリーズブラスト】

    :【ダークフレア】【魔力蝶】

    :【魔眼開放】【連続魔法Ⅲ】【連続魔法Ⅳ】【連続魔法・中級】【魔力剣】(【魔力剣・改】)【魔砲術】【コンセントレイトⅠ】

    :【誘導弾】【設置魔法】【魔法速度変化】【ペネトレーション】【罠の心得】

    :【クイックキャストⅠ】【クールタイム減少Ⅰ】【MP向上】



【名前:ツバメ】

【クラス:アサシン】


 Lv:101

 HP:4320/4320

 MP:190/190


 腕力:144(+50)(+45)

 耐久:10(+48)

 敏捷:733(+38)

 技量:123(+10)

 知力:10

 幸運:10


 武器:【グランブルー】攻撃50(【デッドライン】)(【境界死線】)

   :【ダインシュテル】攻撃45

 防具:【ミスリルベスト】防御15 敏捷5

   :【紺碧のローブ】防御16 敏捷18

   :【天駆のブーツ】防御18 敏捷20(暗転のブーツ)

 装飾:【シルクグローブ】防御5 技量10(強奪のグローブ)


 スキル:【加速】【跳躍】【隠密】(【スティール】)【壁走り】(【天井走り】)【忍び足】【残像】【分身Ⅰ】(【暗転】)【リブースト】【疾風迅雷】【エアリアル】

    :【スラッシュ】【投擲】【連続投擲】【電光石火】【雷光閃火】【アサシンピアス】【紫電】【不可視】

    :【アクアエッジ】【ヴェノム・エンチャント】【四連剣舞】【剣舞の才】

    :【二刀流】【ダブルアタック】【サクリファイス】

    :【罠解除】【地図の知識】

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