第512話 聖騎士と野生の王

 エクスカリバーの前に立ちふさがる、湖の乙女と騎士。

 騎士はHPを3割ほどまで回復している。

 アルトリッテとメイは、静かに言葉を交わす。


「騎士はシールドパリィと武器飛ばしに注意だ」

「りょうかいですっ!」

「まずは剣を回収したいところだが……」


 アルトリッテの視線の先にあるのは【黄金剣】


「おまかせくださいっ!」


 メイはそう言って、ポンと胸を叩く。


「うむ! ついさっきまで、風前の灯火状態だったというのにな……今はもう負ける気がしないぞ!」


 徒手の聖騎士がそう言って笑うと、メイは大きくうなずいた。

 心機一転、再開する戦い。


「さあここからは、私たち二人が相手だ!」

「いきますっ!」


【蒼樹の白剣】を掲げ、メイは【密林の巫女】を発動。


「大きくなーれっ!」


 一気に伸長した剣を、叩きつけにいく。


「いっくよー! 大きな【ソードバッシュ】だああああーっ!」

「「ッ!?」」


 叩きつけられた剣。

 湖の騎士と乙女は、巻き上がった猛烈な土煙に意識を奪われる。


「【バンビステップ】!」

「【ペガサス】!」


 それぞれ分かれて動き出す、メイとアルトリッテ。


「【ウォーターサイズ】」


 迫り来るメイに、湖の乙女が放つ縦の水刃。

 飛来する水の鎌を、わずかな右への移動でかわしつつ駆ける。


「【アクロバット】」


 続く横の水刃も、低めの伸身宙返りで回避。


「【リングスプラッシュ】」


 続く攻撃は、湖の乙女を中心に広がる四つの水刃の輪。

 迫る刃をしっかり見据え、そこで再びの【アクロバット】

 棒高跳びのように身体を倒す跳び方で、これを華麗にすり駆ける。

 全ての水刃を難なく回避したメイは、湖の乙女のもとへ踏み込んでいく。


「【フルスイング】!」

「【アクアヴェール】」


 飛び散る盛大な水しぶき。

 現れた厚い水のヴェールが、剣を受け止めた。


「【ソードストライク】!」


 直後、飛び込んできた騎士の一撃がメイに迫るが――。


「【セイントシールド】!」


 すべり込んできたアルトリッテがこれを防ぎ、大きく火花が散った。


「アルトちゃんありがとー! そして失礼いたしますっ! 【アクロバット】!」


 そんなアルトリッテの背に手を乗せて、頭上を宙返りで飛び越えていくメイ。


「【装備変更】!」


 騎士が盾を持ち出したのに気づいて【猫耳】を【狐耳】へと換える。


「【キャットパンチ】!」


【シールドパリィ】への対応は見事成功。


「パンチパンチパンチ、パンチパンチパンチーっ!」


 着地と同時に放つ青炎の拳で、騎士を乱打する。


「【シールドストライク】!」

「はいっ!」


 反撃とばかりに降り下ろされた盾をかわして、さらに二連打。


「【ソードストライク】!」


 振り上げられた剣に生まれた衝撃波を目視するや否や、速いバックステップで回避し再び前へ。

 スキル使用直後の隙を突きにいく。


「【魔力武装】っ!」

「ッ!?」


【ソードストライク】から体勢を戻す際にひろい上げた枝を、魔力で剣と化す。


「うわっ!?」


 自らの隙を消す反則スキルが、肩を斬る。

 ダメージはわずか3%ほどだが、メイは驚きに目を白黒させた。


「こっちだって、負けないよーっ!」


 しかしすぐさまそう言って、倒木に手を伸ばす。


「【ゴリラアーム】からの……【フルスイング】だああああ――っ!」

「なっ!? ぐあああああ――――っ!」


 ダメージは衝突判定ゆえに少ないが、それに見合わない派手な吹き飛び方で転がる騎士。


「むはははは! やはりメイは最高だな! ここで【ゴリラアーム】とは!」

「はうっ! 今のは忘れてくださいっ!」


 枝を使った攻撃に対して倒木の振り回しで反撃したメイに、アルトリッテは笑う。


「【アクアスウォーム】」


 そんな二人に、湖の乙女が放つ魔法。

 長い尾を引く高速の水弾は、一撃50発。


「【バンビステップ】!」

「【ペガサス】!」


 緩い誘導のかかった水弾群は放物線を描いて殺到、そのまま地面にぶつかり弾け飛んだ。

 飛び散る飛沫が陽光を反射して輝く中、湖の乙女はさらに猛攻を続ける。


「【アクアスウォーム・フラッド】!」


 襲い来る100の水弾。

 これをアルトリッテは木々の背後に身を隠すことでかわす。

 対してメイはなんと、正面から向かい合う。


「【装備変更】【裸足の女神】っ!」


 緩い誘導の高速弾は、前面から降り注ぐような軌道を取る。

【鹿角】で移動スキルの速度を上げたメイは、砂煙を上げるほどの疾走でこの下を潜り抜けていく。


「【アクアバスター】」


 湖の乙女は接近を許さない。

 これまでと変わらぬ挙動で放つのは、強烈に圧縮された1メートルサイズの水砲弾。


「【装備変更】っ!」


 迫る巨大な水弾。

 だが野生の王も止まらない。

 その手に呼び出したのは、紋様が刻まれた古木という変わり種装備【魔断の棍棒】


「せーのっ! 【フルスイング】だああああーっ!」


 豪快なフォームで打ち返された水砲弾は、そのまま一直線に湖の乙女へ突き進み炸裂。


「きゃああああーっ!!」


 圧縮された水が砕け、大量の飛沫をまき上げる。

 吹き飛ばされた湖の乙女は、水耐性の高さゆえかダメージは1割強ほど。


「今だ!」


 打ち返し直後の隙を狙って、メイのもとに迫る騎士。


「させるかあっ! 【ホーリーロール】!」

「ハァッ!」


 アルトリッテの妨害を、騎士は華麗な跳躍で越えていく。

 しかし【黄金剣】による回転撃を避けたことで、攻撃は跳躍からのものとなった。


「【ソードストライク】!」


 ジャンプから放つ【アロンダイト】の一撃は必然的に、『振り降ろし』の形だ。

 それは【鹿角】のままでいたメイにとって、あまりに好都合。


「ありがとうアルトちゃんっ!」


 たとえ最高の騎士が放つ、最強格の剣による一撃でもそれは変わらない。


「とっつげきー!」

「なにぃっ!?」


【鹿角】によるパリィが決まり、弾かれ合う両者。


「【ペガサス】!」


 生まれた隙を突き、アルトリッテは一気に距離を詰めて懐へ。


「【ホーリーロール】からの【ホーリーロール】だーっ!」

「ぐああああっ!」


 直撃を受けた騎士は、弾き飛ばされて転倒。

 湖の乙女もまだ、ヒザを突いたままだ。

 生まれた大きなチャンス、メイの手は高く天に向けられていた。


「――――それでは、よろしくお願いいたしますっ!」


 足元に現れた魔法陣からせり上がってくるのは、巨大なクマ。

 美しい鎧に身を包み、胸元で握った手には優美な剣が握られている。

 その横には同じく、ちょっとぶかぶかな騎士鎧を着た子グマの姿。


「おおっ! まるで騎士団のようだな!」


 自分を含めた三者の騎士という光景に、思わず歓喜の声を上げるアルトリッテ。


「頼むぞ、クマ副隊長!」


 そんな声に応えるかのように、クマは子グマをしがみつかせたまま走り出した。

 速い走行からの豪快な跳躍で空へ。大きく剣を振りかぶる。

 その狙いは、湖の乙女だ。


「きゃ、きゃああああああ――っ!!」


 優美な剣を放り出して放つ【グレイトベアクロー】が、立ち上がったばかりの乙女に炸裂した。

 だが、これだけでは終わらない。


「私も続くぞーっ! 【ペガサス】【エクスクルセイド】ォォォォ!!」


 ベアクローによる叩き付けで跳ね上がったところに、全力で振り降ろす【黄金剣】

 聖なる輝きと共に決まった一撃の直後、さらに大きな爆発が巻き起こった。

 湖の乙女は浅い湖の上を飛び石のように跳ね転がり、騎士も強烈な余波によって付近の木の幹に叩きつけられる。


「すごーい! クマ騎士団の皆さま、ありがとうございましたっ!」

「クマ騎士団……私は隊長ではなくて隊員なのかっ!?」


 炸裂したクマ騎士団の連携。

 こうして乙女の残りHPは6割を切り、騎士は2割強という状況に。

 湖の乙女の目つきが変わり、戦いは後半戦へと向かう。

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